【とある学校のとある山岳部の物語】
【とある学校のとある山岳部の物語】
『1話』
とある学校の山岳部部室前。
そこに立っているのはこの学校の生徒で高等部一年生の工藤潤一。
「こんにちはー」
挨拶をしながらドアに手をかけ開ける。
部室には黙々と作業に熱中している二年生の須藤愛子先輩と、
白馬がいた・・・
「すいません、いきなりなんですが、何やってるんですか・・・?」
「何って見てわからないの?」
「わからないから聞いてるんです」
「白い羽を作っているに決まっているじゃない」
さて、今回は一体何を考えたんだこの人は。
「で、その白い羽を使って空でも飛ぼうと?」
「いや、この白い馬に羽を付けたらペガサスに・・・」
「なりませんよ・・・」
「・・・」
須藤先輩が立ち上がり机の上から羽が落ちる。
そして手に黒いマーカーを持つ。
「縦線を書いたらシマウ・・・」
「なりませんよ・・・」
「・・・」
くるっとこちらを向くと目に涙を浮かべながら、
「ああ言えばこう言う。君は一体私に何をしろと!?」
「普通にしていて下さいよ!!というかどこからその馬持ってきたんすか!?」
「えっと・・・ちょっと近くの牧場から・・・」
「顔を背けながら言わないで下さい。あと都心のどこに牧場あるんですか?」
「仕方ない。校庭の飼育小屋に返してくるか・・・」
何なんだこの学校は。
こんな日々を送る学生生活です。
『2話』
「先輩、朝から何の用事ですか?」
日曜の朝、須藤先輩からの電話にて起床。
「工藤君。今日部活あるから午後1時に正門前集合ね♪」
そう用件だけ言うとすぐに切れてしまった。
あー嫌な予感しかしないな。
午後1時00分正門前。
「須藤先輩、これから何するんですか?」
「何って山岳部なんだから登りに行くに決まっているじゃない」
この人がまともな事を言うなんて明日には世界が無くなっているなきっと。
駅に向かい、電車を乗り継いで、
東京タワー前到着。
「やっぱりか・・・」
「ん?どうしたの?」
「いえ、なんでもないです・・・」
良かった、明日も日の出が見れそうだ。
「でも登るってことはエレベーターじゃなくて階段ってことですか?」
「何を言っているの?エレベーターとか階段とか使うわけないじゃない」
そう言って準備を始める手には命綱が握られていた。
「先輩・・・まさかとは思いますが外から登る気じゃ・・・」
「えっ?だってこれが本当の東京タワーの楽しみ方でしょ?」
この人には登るな危険の標識が見えないらしい。
「とにかく危ないからダメです」
「でも、たまに外国でビルによじ登ったりする人が・・・」
「僕たちはスパ〇ダーマンじゃありませんよ」
「じゃあ、せめて東京タワーからバンジー・・・」
「はいはい、帰りましょうね」
渋々と帰り支度をすませた先輩を引きずって家まで送る。
でも二人きりで観光も良かったかな?なんて。
『3話』
「あ、工藤君こっち来て来て~」
本日、部室に入ると見知らぬ女の子が座っていた。
ツインテールのちっちゃくて可愛いらしいその女の子は中等部の制服を着ていた。
「須藤先輩この子は?」
「えっとね、この子は中等部一年生の古賀さゆりちゃん。今日からうちの部員だからよろしくね♪」
「よろしくじゃないですよ。中等部の子連れてきちゃまずいじゃないですか」
「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃないですって。どうやって連れてきたんですか?」
「さっき中等部の校舎の近くを歩いてたらこの子が歩いてて・・・」
ぐっと親指を立てて、
「可愛いかったから連れてきちゃった♪」
精神科と警察どちらに先に電話するべきだろうか。
「先輩、そういうのを世間一般では誘拐って言うんですよ?」
「えー、違うよ。これは運命の出会いとかそういった類で・・・」
「言い換えても何も変わりませんよ・・・」
「そういうわけでよろしくねさゆりちゃん♪」
「話しを聞いて下さいっ・・・」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる古賀さん。
これでいいんだろうか・・・
というわけで本日、山岳部に部員が一人増えました。
『4話』
放課後、部室に行くとすでに古賀さんが座って待っていた。
「こんにちは」
「あっ、こんにちは工藤先輩」
礼儀正しくお辞儀をする古賀さん。
どこかの御令嬢なんだろうか?
「皆早いわね。じゃあ、今日はエベレストに登りに行きましょうか!」
それに比べて来てそうそうこの人は・・・
「須藤先輩、エベレストなんて行ったら100%生きて帰って来られません・・・」
「えっー、じゃあチョモランマは?」
「チベット語で別名使って言ってもダメです」
「えっー、じゃあサガルマーターは?」
「ネパール語で言ってもダメです。というか諦めて下さい」
「仕方ない、じゃあ大阪の天保山にしようか」
「一気に世界最高峰の8844メートルから日本一低い天保山の4、53メートルですか・・・」
この人の気まぐれは理解不能だ。
「でしたらせめて富士山とかはどうでしょうか?」
と古賀さんの案に須藤先輩が反応する。
「よしっ!じゃあ今年の夏は富士山に決定!!」
こんなんでいいのかな部活って・・・?
『5話』
部室のドアを開けるとそこには猫耳姿のドレスファッションの須藤先輩と古賀さんがいた・・・
「先輩、今度は何なんですか・・・」
「あ、工藤君、ちょうどいいところに」
そう言ってくるっと回転すると、
「今度、富士山登る時の服決めてる最中なの」
「山舐めてますね・・・」
床には着ぐるみやメイド服など様々だ。
「だって遭難した時に目立つじゃない?」
「そうですか。遭難を前提に考えてるんですね・・・」
「ほら、さゆりちゃんの猫耳姿かわいいでしょ?」
もう目立つとか関係無くなってる・・・
けど確かに子猫っぽくて抱きしめたいくらい可愛いらしい。
「ちょっと恥ずかしいですね・・・」
恥ずかしがる古賀さんも・・・
よし、スク水を用意してる須藤先輩を止めるか。
「なんで止めるの!?」
「それは目立つ以前に凍死するからです」
「でも夏でしょ?」
「先輩は富士山の頂上あたりに積もってる雪が見えないんですか・・・」
常識が成り立たない部活でした。
『6話』
本日、絶好の体育祭日和。
「あら、工藤君遅かったね?」
「委員の仕事でちょっと。須藤先輩も一緒の団なんですね」
僕たちの団は赤で周りを見ると橙、黄、緑、青、藍、紫と・・・
「なるほど、虹か・・・」
本当にここの校長はお茶目だなぁ。
「でも古賀さんがいないのはちょっと寂しいですね」
古賀さんは中等部だからこちらとは
「さゆりちゃんならほら、そこに」
「キャー、この子かわいい!」
「妹にしたいくらいだよね~」
須藤先輩が指す方向に赤団の女子に埋もれている古賀さん。
「先輩、誘拐はやめて下さい」
「違うよー。今回は中等部がお休みだったから応援頼んだだけなんだから」
古賀さんは応援どころではない感じになってるけど。
「ここで足腰鍛えてる山岳部の見せどころね!」
「先輩・・・僕、一度もまともに活動してるの見たこと無いです・・・」
「しかも最初から私たちの有利な種目!なんとしても勝たないと」
話しを聞いてくれないのはもう慣れました。
「で、最初の種目って何ですか?」
「ロッククライミング~さぁ頂上にたどり着く勇者は誰だ!?~だよ?」
「すいません、どこからツッコミをいれていいかわかりません・・・」
結局この種目は全員脱落で終了。
さすがに高さ25メートルの壁はきついです・・・
『7話』
体育祭中盤。
少し気になることを発見。
「須藤先輩、少し聞いてもいいですか?」
「ん?何、工藤君?」
「うちの学校、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫までありますがそんなに人数いましたっけ?」
「いや、正式には赤、橙黄、緑、青がうちの生徒かな」
「じゃあ、あとの藍と紫は?」
「えーと。藍が先生チームで紫が・・・」
思い出すように首を傾げてからピンッと、
「確か近所のおばちゃんチームだったかな」
あれ体育祭って生徒主体じゃないのか・・・
「あと、次の種目はなんですか?」
「えっと・・・あっ、これも私たちが有利かな」
「・・・何ですか?」
100%無茶なのだろうな。
「ハーフマラソンだって」
「誰だ!?種目考えたのは!!」
結局この後もいろいろと変な競技ばっかりやって無事体育祭も終了。
ただ心残りなのは・・・
紫団の近所のおばちゃんチームが優勝したことだけだった・・・
『8話』
ある晴れた土曜の午後、僕たちは近くの公園で開かれたマラソン大会に出場していた。
「須藤先輩、なんでマラソン大会なんですか?」
「それはもちろん足を鍛えるために決まっているじゃない!」
なるほど、今まで上位入賞者の賞品棚の方に目を向けていたのは気のせいか。
「あの、私あまり運動は・・・」
と、まだ買ったばかりでぶかぶかのジャージ姿が印象的の古賀さん。
「じゃあ一緒に走ろうか。僕もそんなに速くないし」
「は、はい。よろしくお願いします、工藤先輩」
そう言って、ペコペコと頭を下げる古賀さん。
「えっと須藤先輩は・・・」
すでに先頭のスタート地点でなぜかクラウチングスタートの姿勢をとっていた。
「頑張って下さい・・・」
そして、夕方
時間はかかってしまったがなんとか完走する事ができた。
「古賀さん、大丈夫?」
隣で息が切れ切れになっている古賀さんに声をかける。
「・・・はい、なんとか大丈夫です。須藤先輩はどこに行ったんでしょうか?」
すると少し遠くからおーいと呼びかける声が聞こえた。
「あ、須藤先輩どうでした?」
「聞いて聞いて~賞品で二泊三日の温泉旅行券貰っちゃった♪今度の金曜日に皆で行こう~」
話しによると招待選手を蹴散らし、ものすごい勢いで走り去っていく少女がいた・・・という。
『9話』
午前中の授業が終わり、昼休み。
「工藤君!」
廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。
「えっと・・・隣のクラスの長谷部さんだっけ?」
人の名前を覚えるのは苦手だが、たしか体育祭の時に黄団の応援団長やっていた気がする。
「うん、今ちょっと時間あるかな?」
「大丈夫だけど何か用事かな?」
「工藤く、潤一君に少しお話が・・・」
「ん、何?」
「あのっ、この間の体育祭であなたを見かけて・・・」
そして一呼吸入れると、
「それ以来ずっとペットにしたいと思ってました!!」
・・・・
「あっ間違えちゃった、付き合いたいと思ってました!!」
うん、多分そういう間違えをする人はいないんじゃないかな?
「ダメ・・・かな?」
しかし、初めてしてもらった告白だし、ちゃんと答えないと。
「えっと・・・君の事よく知らないし、だから・・・」
「そっか・・・なんかごめんね」
しゅんと肩を落としながら、
「そうだよね、首輪を付けてもらうにはまだ色々と早いもんね」
なるほど、ペットは本音だったのか。
「じゃあ、そういうことだから・・・」
あまり空気を重くするのも悪いと思い、立ち去った。
放課後、部室前に着きドアを開けると室内には読書をしている古賀さん、にこにこと笑顔の須藤先輩、そして満面の笑みでこちらに顔を向けている長谷部さん・・・
「須藤先輩・・・話しを聞かせて下さい・・・」
「えっとね、たまたまさっきの希ちゃんと工藤君の会話聞いちゃってね。で、それなら毎日会える山岳部に入部しないって誘ってみたの」
「なんだか姑息な手段で人集めてますね・・・」
「ということで、長谷部希です。よろしくね潤一君☆」
今日やっと部活の規定人数に達しました。
【とある学校のとある山岳部の物語】
『10話』
「そうだ、温泉に行こう!」
金曜の放課後、荷物を持って最寄りの駅に集合して須藤先輩がこの前のマラソン大会で勝ち取った温泉旅行に出発。
メンバーは山岳部の部員で僕と須藤先輩、古賀さんと最近入った同級生の長谷部さんだ。
古賀さんはちょっと不機嫌気味だけど何かあったのだろうか?
「けど結構遠いところなんですね、愛子先輩」
「山奥にある旅館みたいだからね」
最寄りの駅から約3時間。
旅館『あなたに癒しのひと時を by 墓場旅館』に到着。
なんだか別の意味で楽になれそうなところだ。
旅館に入り、部屋に案内される。
部屋は広々としていて眺めも良い感じだった。
「では先に夕食をお持ちしますね」
しばらくすると豪華な料理が運ばれてきた。
「わぁ、なんだかとても豪華ですね」
「料理も美味しいね」
あれ、なんだか意外と普通だな・・・
「ねぇ、潤一君。温泉行かない?」
時計を見るともう8時半。
「うーん、僕はまだいいかな。先に入ってきていいよ」
「えー、ダメだよ一緒に来ないと」
「いや、だって一緒に入るわけじゃ・・・」
なんだろう長谷部さんの頬がちょっと赤い気がする。
もしかして混浴があるから一緒に入ろうとか・・・
「ここね、混浴のお風呂しかないの」
どこの秘境だここは・・・
「あのね、私少しはスタイルに自信が・・・」
「いやいや、それはちょっと、まず」
くいっと服を引っ張られた。
「古賀さん・・・?」
「工藤先輩・・・一緒に行きましょうっ」
どうしたのかな?古賀さん。
「ちょっ、須藤先輩も何か言って下さいっ」
「工藤君ガンバbw」
ひでぇ・・・
そのまま有無を言わせずに風呂場まで連れていかれました。
【とある学校のとある山岳部の物語】
『11話』
温泉旅館の初日の夜。
結局、風呂場まで連れてこられて更衣室に押し込められてしまったけど・・・
「やっぱり、これはさすがにまずいよな・・・」
言い訳は後で考えるとして一回部屋に戻るかな。
「潤一君~早く来ないと迎えにいくよ~♪」
ダメだ、部屋まで追いかけてきそうだ・・・
「仕方ない、早めに済ませれば・・・」
しかしなぜこの旅館には混浴しかないんだろうか・・・
タオルを縛り温泉へと続くドアを開ける。
柵がそとばに見えるのは気のせいだろう。
きっと所々ひび割れている鏡とかも気のせいだろう・・・
「潤一君、見て見て色んなお風呂があるみたいだよ~」
少し遠くの方ではしゃいでいる長谷部さん。
うん、たしかに悪魔の口からお湯が出ていていい趣味してるな。
「工藤先輩」
隅の方からトコトコと寄ってくる古賀さん。
いつもはツインテールの古賀さんも髪をおろしていてなんだか新鮮だ。
そして後ろで浮輪を担いでる須藤先輩の姿も新鮮だ・・・
「なんで風呂で浮輪持ってるんですか、須藤先輩・・・」
「それはもちろん溺れるからに決まってるじゃない・・・」
どんだけ水にカナヅチなんですか・・・
「そ、それよりもあっちの赤色の温泉入らない?」
「注意書きがしてあるみたいですけど」
と近くに寄って看板を見た古賀さんが固まる。
よく見ると看板に小さな文字で『入りたい方は全て自己責任でお願いしますw』
笑い事じゃ済まされないことになりそうだ。
「ちょっと止めておきましょう・・・」
「ねぇねぇ、向こうに人魂の演出してみたいなんだけど・・・」
とそとばの奥にある藪の中を指す長谷部さん。
そして人魂が光っている奥には白い着物の女性。
このあとすぐさま逃げました。
【とある学校のとある山岳部の物語】
『12話』
とりあえず風呂場からの緊急脱出で部屋リターン。
「須藤先輩、長谷部さん、古賀さん大丈夫ですか?」
「うん、なんとか平気かな」
「危なかったね」
「怖かったです・・・」
「どうなるかと思ったよね」
大丈夫じゃない。
一人余計なのが会話に参加してる・・・
「あの、後ろに白い着物姿の女性がいるのは・・・」
振り向く女性陣。
「気のせいじゃない工藤君」
「そうだよ、潤一君」
「誰もいないですよ、工藤先輩」
「もう潤君のいじわるっ」
ダメだ、みんな現実逃避したいみたいだ・・・
その時、後ろからコンコンッとドアが叩く音がすると、
「お布団を敷かせてもらいに来ました」
と女将さんの声。
「あら、お菊さん。またお客様を驚かしてたんですか?」
良かったどうやら従業員のどっきりみたいだ。
「全く、早く成仏してもらわないと」
きっと今のは空耳だな・・・
とりあえず、お菊さんは女将さんに持っていってもらいました。
「まさか幽霊が出てくるなんて」
「けど、びっくりしちゃいましたよね」
「やっと一安心です」
「本当に怖いよね」
「やっぱりまた一つ台詞多いんですね・・・」
結局翌日の朝まで全員布団に包まって無言で過ごしました。
会話をすると誰かさんが参加してくるので・・・
【とある学校のとある山岳部の物語】
『13話』
温泉旅行二日目。
早々に旅館から立ち去り、次の旅館へ。
「しかし、昨日は大変な一日だった気がします・・・」
「けど今日泊まるところはまた別のところみたいだし」
と須藤先輩。
「また変なのがでなければいいですね」
と長谷部さん。
「私は怖いのはもう・・・」
と古賀さん。
「でも少しは楽しめたんじゃない?」
と誰かさん。
早く元にいた場所にお帰り願いたい・・・
すると須藤先輩がパンフレットを見ながら、
「ねぇねぇ、次の旅館に行く前に近くの温泉行かない?昨日は結局入れなかったし」
「いいですね。愛子先輩、どこか近くにいいところありますか?」
「う~ん、こことかはどう?」
「須藤先輩よく見て下さい。料金の単位が人になってます・・・」
ここは怪談で町起こしでもしているのだろうか?
そうだとしたら完全に逆効果だけど・・・
「ここならどうでしょうか、近くて天然なのでお金かからないので」
と古賀さんが地図を指しながら言う。
たしかにあまり危険性はなそうだ。
数分歩くと更衣室到着。
今回は天然とはいってもしっかりと柵で囲まれていてよかった。
中には誰もいなくて貸し切り状態みたいだ。
お湯に浸かっていると、少し離れた方から女子の声が聞こえてきた。
「わぁ、さゆりちゃんの身体細いねー」
「本当にさゆちゃんスタイルいいね」
「ひゃっ。あ、あんまり触られると・・・」
女子の方は楽しそうで何よりだ。
こっちもさっきよりも少しにぎやかになってきた。
熊とか狼とか鷲とか・・・
あと数秒いたら喰われるところでした・・・
【とある学校のとある山岳部の物語】
『14話』
「危なかった・・・」
出口で少し待つと女性陣が出てきた。
「いい温泉だったね~」
「そうですねーさゆちゃんの事も色々と知れましたし」
「うぅ・・・」
どうやら危険生物はこっちだけだったみたいで良かった。
まぁ、ある意味古賀さんだけ危険生物に襲われたみたいだけど・・・
「須藤先輩、旅館までどのくらいかかります?」
「う~ん、ここからすぐ近くにあるみたい」
と地図を広げながら確認する先輩。
さすが山岳部だけあって地図を見て場所がすぐにわかるみたいだ。
「じゃあ愛子先輩、そろそろ行きましょうか」
「そうだね」
そして前を行く二人。
「ちゃんとしたところだといいですね、工藤先輩」
そう言いながら近くに寄ってくる古賀さん。
「そうだね・・・」
でもこの場所にまともな所があるのだろうか・・・
そして10分後。
「ねぇねぇ、工藤君」
「なんですか?須藤先輩」
「あのね、ちょっと恥ずかしいんだけど・・・」一呼吸おくと、
「迷っちゃった☆(てへっ)」
恥ずかしがってる場合じゃない・・・
「先輩、山岳部じゃないですか!?」
「いや、その、よく努力すればなんとでもなるって言うじゃない?」
努力してやった結果がこれですか・・・
「愛子先輩、だったら一回戻った方がいいんじゃないですか?」
長谷部さんが来た道を指差す。
「それはダメ、私のポリシーに反する」
「そんな事行ってる場合じゃないですよ・・・」
この人にポリシーがあったのか・・・
「だって人間ひたすら前を見て歩けと・・・」
迷った時にそれは通じない。
「とりあえず少し外れてしまっているみたいなので修正しながら行ってみたらどうでしょうか?」
さすが古賀さん、地図と来た道から現在地がわかったみたいだ。
「さすがさゆりちゃん!よし、じゃあ出発~」
「先輩、少しは見習って下さい・・・」
この後なんとか無事に旅館にたどり着けました。
【とある学校のとある山岳部の物語】
『15話』
迷いながらも無事に旅館『時雨』へと到着。
「しかし、結構ちゃんとした所ですね」
見た感じではしっかりとした旅館でどうやら何も心配は無さそうだ。
「なんだか歩いてたせいで汗かいちゃった」
「そうだねー、あとでまた旅館のお風呂入ろうか」
「いらっしゃいませ」
中に入ると、すぐに従業員の人が来て部屋に案内された。
「ではこの後ですが、先にお風呂になさいますか?それともお食事になさいますか?それとも、わ・た・しになさ」
「お風呂にします」
なるほど、中身に問題ありか。
「そうですか・・・」
なぜそんなに悲しげな表情で帰っていくのかがわからない。
「じゃあ私と希ちゃんはお風呂行ってくるけど、工藤君とさゆりちゃんはどうする?」
「あ、じゃあ少ししたら行くので」
「私も少ししてから行きますね」
そしてお風呂へ行く須藤先輩と長谷部さん。
そういえば古賀さんとこうやって二人きりというのも初めてかも。
「あの、工藤先輩」
「えっ、ん、何かな?」
なんだか少し意識してしまってうまく話せないな・・・
「旅行、色々とありましたけど楽しかったですね」
可愛いらしい笑顔を見せる古賀さん。
「あんまりこういった旅行ってしないの?」
「はい、両親が共働きなので中々・・・」
どうしたものか、自制心が吹っ飛んでしまいそうだ。
その時、部屋のドアが開いて須藤先輩と長谷部さんが帰ってきた。
「あれ、結構早かったですね?」
「ねぇねぇ二人とも、お風呂すごかったよー」
ピョンと隣に座る長谷部さん。
「そうそう、お風呂の中に鯉がいたんだよ~」
須藤先輩それを人は池というんです・・・
そして最終日。
近くでお土産を買って帰途につく。
帰りの電車では古賀さんは疲れのせいか眠ってしまっている。
「なんだかすごい疲れる旅行でしたね、須藤先輩」
「そうかな、私は結構楽しかったけど」
「私も疲れちゃいました。けど潤一君と旅行出来たし良かったな☆」
誤解されるので出来ればクラスでは言わないで欲しいかな・・・
「あ、そういえばこの間の富士山の件なんだけど」
「あぁ、いつに決まりました?」
「明後日行くから準備しておいてね♪」
それはさすがに急すぎでは・・・
【とある学校のとある山岳部の物語】
『16話』
二泊三日の温泉旅行も終わり、翌日の午後。
今日は明日行く富士山の準備。
「しかしまた急にきまりましたね、須藤先輩」
「だって早く行きたかったんだもん」
完全に先輩の私情か・・・
「けど僕と先輩はいいとして古賀さんと長谷部さんは山の経験は?」
「ん~、都会育ちだからまだ一回も登ったことは無いかな」
「私もまだ一回もないですね」
う~ん、ちょっと先行きが不安だけど。
「先輩、やっぱりもう少しあとにした方が・・・」
「あっ、そういえば私も初めてだ」
一体この人は一年間何してたんだろうか?
「こんなんで大丈夫なんでしょうか・・・」
「大丈夫♪大丈夫~」
そう言いながら救急関係の本を準備しているのはなぜですか・・・
「ねぇねぇさゆりちゃん、バナナっておやつに入るかな?」
「えっ、多分果物だから入らないんじゃ・・・?」
まるで幼稚園の遠足だ。
「あれ、愛子先輩。この冊子って?」
長谷部さんが机に置いてあった冊子を指差す。
「あっ、そういえば皆の分のしおり作ったから持っていって~」
けどしっかりと先輩も準備はしてるみたいだな。
そう思いながらしおりをパラパラとめくる。
《持ち物》
・着替え(コスプレ可)
・熊よけ用の鈴(代用でブブゼラ可)
・大きめのバック(人一人が入るくらいがベスト)
・防寒具(ヒーローのマントの着用オススメ)
・・・etc
「先輩、これはなんですか・・・」
「やだなぁ、冗談だよ?」
じゃあなぜ先輩のしおりにしっかりとチェックがされているのだろう。
「わかりました。これはあとに置いておくとして長谷部さんはなぜバックに首輪を・・・?」
「だって潤一君とはぐれないようにしないと」
真剣な眼差しだからとても怖い・・・
こんなので明日行けるのかとても不安です。
【とある学校のとある山岳部の物語】
『17話』
電車やバスを乗り継いで数時間、富士山のふもとに到着。
「わー、やっぱり近くで見るとすごいね」
「これから登るんですからあんまりはしゃぎすぎないでくださいよ、須藤先輩」
「わかってるって~♪」
しかしやっぱり近くで見ると大きいなぁ。
「工藤先輩、これからバスで五合目まで行くんですよね?」
「えっ、潤一君。ここから登らないの?」
「ほとんどの人は五合目から登るからね。一合目からだと時間もかかるし」
それからバスに乗り五合目に到着。
「愛子先輩、いくつかお土産が売ってますね」
「そうだね。お土産巡り行ってくる?」
「ダメですよ先輩、時間無いんで帰りにしてください」
「工藤君のケチー」
一体何をしにきたんだ・・・
「あ、でも合ごとにお金払って焼き印を押してもらえるので」
「焼き印?」
「そこで売ってる杖に金属の熱した印鑑を押してもらうんです」
「なるほど。SMプレ」
「先輩、違います・・・」
「じゃあ工藤君よろしく☆」
いきなりパシリ&自腹か・・・
「あの、工藤先輩。私の分は自分で・・・」
「大丈夫だよ、古賀さん」
先輩にもこれくらいの気遣いがあってもいいのに。
そして売店で四人分の杖を買っていざ出陣。
「そういえば潤一君」
「ん?どうかした長谷部さん」
「あの、これっ」
手に握られている首輪を差し出す長谷部さん。
昨日しっかりと持ち物検査したのになぁ・・・
「あっ、私も皆にこれ持ってきたんだった」
ごそごそとバックをあさる先輩。
そして取り出されたものは・・・なんだろうこれは。
「先輩、これって・・・?」
「ちょっと考えてみたんだけど、どう?雪男&雪女の着ぐるみ」
きっと明日の新聞の一面に『富士山にイエティ現れる!?』という題名がつくだろう。
「これで救助隊の人もすぐに見つけられるし」
「そうですね。確実に猟友会の人に見つかると思います」
そんなこんなでもう八合目近くにきていた。
「もうすぐ休憩所なので頑張りましょう」
やっぱり古賀さんと長谷部さんは疲れの色が見えている。
なのに須藤先輩はなぜスキップで登れるほど元気なのだろうか・・・
そしてようやく八合目の休憩所に到着。
ひとまずここで仮眠してから明日の朝日を頂上で見る予定だ。
「けど誰も高山病ならなくて良かったですね」
「たしかにそうだね。さゆちゃんも頑張ってたし」
「さすがに疲れちゃっいましたけど、雲が上から見下ろせて絶景でした」
「あと工藤君が売店で買ってきたポテトチップスの袋があんなに膨らむなんてね」
「確か気圧の影響だった気がしますけど、ちょっとやってみたかったんで」
それから仮眠をとってまだ真っ暗な早朝、頂上を目指して出発。
「昨日と違って寒いですね」
八合目あたりから風も強くなり寒さも夏なのに冬と同じくらいだ。
冬に台風並の風といった感じなのに・・・先輩スキップ継続中。
「大丈夫?古賀さん、長谷部さん」
「はい、ちょっと疲れちゃいましたけど大丈夫です」
「うん、けど愛子先輩すごいなぁ・・・」
そしてやっと九合目。
「ねぇねぇ、工藤君」
「どうしました、須藤先輩」
「九合目の焼き印が無いよ?」
「それは九合目に小屋自体が無いからですね」
「そんなぁ、コンプリートが・・・」
「落ち込んだからって雪女にならないでください」
バックから着ぐるみを出さないで欲しい・・・
ついにやっと頂上に到着!
「まだ暗いね~」
山頂の小屋で休みながら須藤先輩が言う。
「もうすぐ日の出なので場所見つけてきましょうか」
全員で場所を確保しながら日の出を待つ。
すると、徐々に遠くの方が明るくなっていく。
そして山々の間から太陽が出てきた。
「たまや~」
先輩、何か違う気がします・・・
「わぁー、とても綺麗です」
「絶景だね~」
そんなこんなで無事に富士山に登ることができました。