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ゴミ捨て場

作者: 増田朋美

ある日、ちびのノブが、母親から仰せ付かって、近所のごみ捨て場へゴミを出しに行きました。数分後、ノブは困った顔をして帰ってきました。

「どうしたのノブ、なんで戻ってきたの?なんでゴミ出してないのよ。」と、姉の直人はちよっとむかっとして言いました。

「だって置く所がないんだもん。」と、ノブが言いました。

「置く所がないって?まだゴミ収集車が来るまで十分時間がある筈なのに?」

「ほんとにないんだもん。」

と、言いますので、直人は首を捻りながらゴミ捨て場へ行ってみました。

 みれば、ゴミ捨て場の囲いにきっちりとはまり込んでダブルベッドのマットレスが捨ててありました。その日は雨上がりでしたが、マットレスは雨をたくさん染み込んでいて、通常よりずっと厚くなっていました。どかそうとしても一ミリも動きません。直人は大いに怒って「このやろ!」と、マットレスを蹴飛ばして帰っていきました。

次の日はそれに重なるようにしてソファーがすててありました。かなり使い古したもので、中のばねがはみ出していました。その次の日は冷蔵庫、きりがありません。

処理する人もいないらしく、何日もそのままになっていました。


 さて、直人とノブは、恒例行事である、悠三の家にやってきました。とりあいず、お茶を飲んで、暫く世間話をしたあと、直人が

「家の近所のゴミ捨て場にね、不法投棄がひどいのよ。マットレスにソファーに冷蔵庫、もうあたしたちがゴミを出せないのよ。何とかして撤去しなきゃ。そして、二度とここへ捨ててこないように工夫をしなきゃいけないと思うわ。何かない?」と言いました。

「不法投棄ねえ。とうとう直人さん達の地区も狙われたか。うちの近所なんかしょっちゅうあるよ。この前も、ゴミ捨て場へ行ったらそこの面積にぴっちリはまり込んで冷蔵庫が捨ててあって、もうどうしようもなかったよ。」と、真矢が言いました。

「で、真矢君、その冷蔵庫はどうしたの?」

「地区長さんが電気屋に持っていったよ。お金も自分で払って。」

「まあなんてこと!地区長さんはお金を無駄にしなければならないのね!」

「そうだよ。だから皆言っているよ。地区長になるやつは覚悟しとけ、絶対銭を余分になくすから。とね。ゆっぴの地区はどう?」

「ああ、僕の地区では、ゴミ捨て場に勝手に置いていくということはまだあらへんがね、ほら、すぐ近所は山やろ、そこにおいていく人が矢鱈多いねん。だから、皆で撤去して、電気屋に持っていったんよ。費用は全員で少しっつだしたんや。」と、悠三が言いました。

「僕のゴミ置き場にも、この前椅子が捨ててあってねえ、すごい困った。」と、みっつが言いました。

 「皆結構困ってるのねえ。何か対策ないの?もう二度とそう言うことが起こらない様にするための。」と、直人がいまいましそうに聞きました。

「どんなにしてもなくならないよ。いくら不法投棄厳禁の看板を作って、罰金十万とか書いても効果ないもん。」と、みっつ。

「十万がどんなに大金かわかってないのかしら。」

「つまり、捨てる人ってのは少なくとも、ブルジョワジーじゃないってことだね。我侭なプロレタリアートだねえ。」と、真矢が言いました。

「ゴミ捨て場を変えたって同じ事や。一時凌ぎでしかあらへんねん。又絶対捨てに来るで。」と、悠三。

 「じゃ、いっそのことゴミ置き場を良いものにしたら、植木鉢に花を植えて、ゴミ捨て場において置くの。」

「その案は良いけど、直人さん、世話はどうするの?僕らは学校も始まるし、誰かに頼むわけにもいかないよね。」と、真矢。

「じゃ、花の会の人に頼んで、花を植えてもらうってのはどないや。」と、悠三が言いました。

「それがねえ、花の会に所属している人って少ないんだよ。皆忙しいでしょう、花なんて見ている余裕なんてないんだよ。」と、真矢。

「じゃあ、あたしたちでやるしかないわ。乾燥に強い植物を植えれば良いのよ。何があるかしらね。」

「ほんとにやる気なのかい?」とみっつ。

「あったりまえよ。他に誰がやるって言うの?」

「でもさ、皆それぞれ用があるよ。学校があるし、朝早く行って、帰ってくるの遅いでしょう。そして塾行って。とても世話なんかできないよ。」と、真矢が言いました。

「もう、真矢君、なんか暇なときないの?学校へ行く途中だっていいのよ。」

「えー、行く前に疲れちゃうよ。」とみっつ。

「僕は遠方やから、参加でけへんね。懍ちゃんもや。」と、悠三が言いました。

「なによ、皆迷惑してるんでしょう、二度とやらないで欲しいとは思わないの?」

「どうせ駄目だしねえ。」

「本当にもう!みんなどうしてどうしていざとなるとこうなのかしらね。不精者ね!」

「直人さん怒るなよ。」と、みっつがいうと、それまでずっと黙ったまま、テーブルの上で鑿を研いでいた懍が、

「良い方法があるけん、試したら。」と、言いました。

 「あら、何かあるの?」

「うん、とっても良い方法がね。わざとそのままにしておいて、置き場所がないと言わずにゴミを捨てるんじゃ。人は、始めはだまっとるもんなんよ。じゃあばって自分に危害が及んできたら何かしたがるものじゃ。それまでおとなしく待つんじゃ。」

「でも、あたし達はとてもじゃないけど我慢できないわ。そんなむさ苦しい状態にわざとするなんて。」

「それは、直人さんが勝手にそうおもっとるだけじゃ。他の人はちがうんよ。直人さんは、感じやすい年頃じゃけ、いろんな事ああだこうだと言うけん、もう一寸年取ると、自分のことしか見えなくなるから。まあ、そのうち判る。」

「懍ちゃんのやり方がいちばんええかもしれんね。僕は恩義のあった人や、身近な人は何とかせなあかんなと思うけど、地域に対してこうしろっていう勇気はあらへんな。政治家のトップじゃあるまいし。」と、悠三が言いました。

「もう!なんでみんなそうなの!いいわよ!あたし1人でやるから!もうしらない!」と、直人は怒って柚木家を飛び出していきました。


 さて、直人は近所の花屋さんで夾竹桃の苗を買ってきて、鉢植えにして、ゴミ捨て場に置きました。夾竹桃は公害に強い植物であると聞いたからでした。そして、毎日毎日世話しました。時に週末など、眠たくてたまらなくなって、もう嫌だと思うときもありましたが、額をへ゜しっと叩いて目を覚まし、世話をしに行きました。

 一方、他の人達は、置き場所はないけれども、自分達の家にゴミがたまりすぎると嫌ですから、仕方なく囲いからはみ出してゴミを捨てました。ゴミ回収業者は粗大ゴミは取りに来ませんから、不法投棄物は「このゴミ捨て場の管轄するものではありません。至急お引き取りください。」といった張り紙がしてあるだけでした。やがて、これらのものは、生ゴミの匂いが染み付いて、大変な悪臭になりました。

 直人は相変わらず世話をし続けて、とうとう花が咲きました。鮮やかなピンクの花でした。そのピンクの花と、悪臭を放つ不法投棄物、そして、これもまた悪臭を放つごみたち…。とってもおかしな風景になりました。とうとう他の人達も、これには我慢できなくなったらしく、隣組長さんが、ゴミ捨て場を変えようというビラを分けにやってきました。それで、不法投棄物を、家具店や家電店に引き取ってもらう為の、資金を出してくれと言う要請が来たとき、直人は真っ先に出してやりました。他の人達も、いやいやながら、でも我慢できないので、いくらか資金を出しました。

これで、ゴミ置き場は移転し、跡地は取り壊して用水路の一部にしてしまいました。これで一応解決と言うことになったわけですが、

「でもまたどっかで同じ事が起こるんだろうな。」と、直人は考えていました。夾竹桃はとりあいず家に戻しましたが、又不法投棄が出たら置いてやろうと思いました。今回は、懍のやり方が半分勝ったといわざるをえなくなりました。他の人達が動き出したのは、言うまでもなく、腐敗臭のせいだったからです。でも、そうしなければ、解決できないと言うことに、直人はとても悲しいなと思いました。




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