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1.穏やかな日々

翔と百合のミーアを挟んでの静かな時間が二人の思いを深めていきます。

翔がミーアを飼い始めてから百合が翔の部屋へ来る回数が増えている。

そうなってくるとお互いが急速に親しみを増してくるもので、

百合のぎこちない笑顔が自然なものとなるまで時間はそれほどかからなかった。

元々百合は翔の強さを尊敬しているし、態度はぶっきらぼうだが、

本当の彼の優しいところを知っているので恋へと変わるのは自然だった。

翔も小さい時から修行一本の生活で女の子とは全く接点がなかったし、

ネットを見て、デートだとかファッションだとかに時間を費やすつもりはなかった。

実は百合もそういうことは苦手というより興味がなかったので二人の波長は合った。

百合は生物化学研究室で研究をする傍ら、同好会にも顔を出し学生生活を楽しんだ。

翔とはまだ手もつながない関係だったがそばにいるだけでお互いが落ち着いた。

二人には一緒にいるだけで何をするでもない時間が意外と心地良かった。


百合が翔のためにご飯を作るようになると

質素ではあるが吟味された素材を使った料理は翔のお気に入りになった。

翔も今流行りの草食系男子では決してないし、

健康な男であるから女性にはそれなりの感覚を持っているが、

なぜか、特に百合に対してはその笑顔だけで十分満たされてしまっていた。

ぱっと花が咲いたような笑顔、

キラキラ光るあどけない瞳、

口許からこぼれる真珠のような歯、

翔はその全てが好きだった。

次期党首候補として、男として、人間として無責任なことはしないと決めていた。

ただミーアを挟んで二人でいるだけで満たされる暖かい関係を好んだ。


ある時、百合が翔の家へ向かっていると、

大きな風呂敷を持っているお婆さんが

公園のベンチに座って汗を拭きながら休んでいる。

「お婆さん、そんなに大きな荷物を持って大変ですね。

もし良かったら、行かれる場所まで荷物を持ってお手伝いいたしますよ」

「あらまあ、こんな若いお嬢さんが、ありがとうございます。

 実はこの近くに孫の住んでいるアパートがあって、

田舎から野菜を持ってきたのですよ。助かります」

百合とそのお婆さんが連れ立ってアパートに向かっていくと

なんと翔の住むアパートだった。

そして向かう部屋も翔の部屋だった。

百合は驚いて

「もしかして、桐生さんのお婆様ですか?」

「はい、そうですよ。翔、ドアを開けておくれ」

「ああ、婆ちゃん、開いてるよ。

あっ、百合・さん・・・も一緒だったの、驚いた」

「偶然、さきほどお婆様にお会いして一緒に来ました」

「ああ、私がベンチで休んでいるとこのお嬢さん、百合さん?

 『手伝いますよ』と声を掛けてくれて、助けてもらったのさ」

「ああ、館林さん、ありがとう。助かったよ」と翔、

「えっ? 館林?さん・・・」と驚く桐生の婆さん、

「ええ、いつも桐生さんにはお世話になってます」と挨拶をする百合、

「まあ、そんなところで話もなんだから部屋へ入ってよ」

「ああ、そうだね。あらっ?この前来た時とはえらく綺麗になってるねえ」

「うん、館林さんにたまにやって貰っているんだ」

「いえ、そんなにうまくできている訳ではありません」

「ふーん、館林さんにねえ・・・」

三人は部屋に入り、百合がお茶を入れる準備を始めた。

「こんなことまでしていただいて申し訳ありません」

「いえ、私が入れます。お婆様にしていただく訳にはまいりません」

「それはそれはありがとうございます。翔、館林さんに座布団を出しなさい」

「あ、はい、座布団は座布団は・・・」

「あの、押入れの右下にしまっています」

「ああ、ありがとう」

「何だね、この子は、もしかしてみんな館林さんにしてもらっているのかねえ」

「いえ、そういう訳ではありません。私が昨日掃除した時にしまったもので」

「いつも孫の翔に良くして頂いてありがとうございます」

「いえいえ、私が桐生さんに助けて頂いてばかりなのでほんのお礼です」

「まあ、何をしたかはわかりませんが、

この子はまだまだですから、いい気になるのでおだてないで下さい」

「婆ちゃん、もういいよ。館林さん、ごめんね、ありがとう」

「いえ、全然気にしていません。お元気で明るいお婆様で私は好きです。

 うちの葉山の祖父母も元気すぎてこちらが困るくらいですから」

「へえ、お爺様お婆様が葉山に居られるのですか・・・

年寄りは元気でいるのが一番ですからお大事にされて下さいね」

「はい、ありがとうございます」

今夜は翔と百合とミーアに翔のお婆さんが入って4人で賑やかな夕食となった。

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