6-6.賑やかな本部
「どこにも置いてないんですよ!?信じられますか!?」
社会情勢学研究室、別名ウゴクンジャー本部に綾の怒鳴り声が響いた。
「今日発売の『WEATHER OF MEMORYS』、どこのお店に行っても予約分完売とか言って、ふざけてるわよ!だってあの曲がリリースされたのって日曜日ですよね?今日は火曜日ですよ!?」
「皆さん、多分日曜日か月曜日に予約したんでしょうね。」
憬教授がにこにこ笑顔でテーブルにアイスミルクコーラ(また変な飲み物を作ったようだ)を置きながら言う。
「うん、多分そうだろ。火曜発売って言ってたから。すぐ注文受け付けて、月曜には入荷分予約で売り切れちゃったんだよ。」
何の躊躇いもなくその飲み物を手に取った週一は、平気な顔をして飲み干した。
ゲテモノへの順応力は尋常ではなかったらしい。
そんな彼の飲みっぷりを憬教授は嬉しそうに見ていたが、やがて自分もそれを飲んだ。
…実験台?毒見?もしかして。
「うん、これはいけますね。コーラの甘さがミルクによって微妙になり、ミルクの香りがより生臭くなるなど劇的な変化を起こしてます。」
それを人はマズいと言う。
でも憬教授は満足してるようだった。
変人は放っといて、綾は悔しがっている。
「次の入荷はいつか聞いたら、早くて4日後だなんて…!!ファンとして発売2日以内に手に入れられないのは地獄の門番じゃない!」
ワケ分からん表現だが、とにかくCDが欲しいらしい。
確かにあの曲は早くも初入荷分を完売するなど、かなりの好評ぶりだ。
しかも初版には特典として七樂アイのプロモーションビデオコスチュームのカードがついてる。
何とも妙なデザインの白い服にスカートを着て翼を生やしている例の格好は七樂アイのイメージにピッタリだと評判で、売上相乗効果を出していた。
彼女の可愛らしいけどちょっぴり頭が悪そうなキャラが当たったようだ。
…そんな彼女の格好にモデルが実在したことを知るヤツは1人しかいないけど。
「あぁぁぁぁぁぁ!!早く買わないと特典が!!特典がぁぁぁぁ!!」
さっきからうるさいヤツだ。
と、黙ってレバー煎餅を食べていた冥介がジャケットの内ポケットから何かを出した。
「甲虫、お前の声は大きすぎる。これをやるから静かにしろ。」
「何ですか!?八又乃さんに私の、ファンの心の叫びが…、」
振り返った綾の声が、彼の差し出したモノを見た瞬間に止まった。
『WEATHER OF MEMORYS』のCD。
しかも…七樂アイのサインらしきモノが書いてある。
「こ…、これはまさか…、」
「お前の欲しがっているCDだ。」
次の瞬間、冥介の手からCDは消えていた。
綾が掻っ攫ったのだ。恐ろしい。
「こ、こ、このサイン!!ま、まさか本物!?」
「サイン?ああ、それのことか。本物だ。」
ゴトッ…
何の前触れもなく綾が倒れた。
「綾!?」
「綾さん!?」
「甲虫!!?」
慌てる残り3名。
でも綾はこれ以上になっていう嬉しそうな表情で失神してらっしゃった。
気を失ってるはずなのにCDを離さないのが彼女らしい…。
「…そんなに嬉しかったのか?」
笑顔のまま失神してる綾を、怪訝そうな顔で見下ろして呟く冥介。
「CDをあんなに欲しがっていて、しかもサイン付きです。七樂アイはあまりサインをしないということですからね、ファンとしては最高に嬉しかったんでしょう。」
うんうん頷きながら憬教授が言った。
週一もそうですね、と苦笑いする。
そして綾をソファに寝かせる週一と憬教授。冥介はその様子を見ながら独りごちた。
「…アイ、お前は果報者だな。」
◇◇◇
ガラッ
ドアが開き、沙紀が顔を出した。
「久し振り、憬サン。」
「沙紀さん。」
社会情勢学研究室、ウゴクンジャー本部に沙紀が顔を出すのは久々だった。
昨日も来たんだけど、その時は出払っていていなかったし、憬教授と沙紀が対面するのも久々だ。
「やっぱり八又乃さんもセンパイもいたんだ。…って、何で綾さんは寝てんの?」
彼女はソファに寝ている綾を見て怪訝な顔をする。
まあ、当然だ。
「ああ、CDをやったら失神したんだ。そのうち目覚めるだろう。」
「CDで…。相変わらず意味不明だね。」
そう呟くと沙紀は持っていた鞄を空いているソファに放り投げた。
そして自分も座る。
週一の隣。
冥介の横も空いていたけど、そこには煎餅の袋が積まれている。
イクラ煎餅とレバー煎餅、今ウゴクンジャー内でバカ売れの2品だ。
「センパイ。それ…何飲んでんの?」
アイスミルクコーラのことだ。
さっき飲み干したんだけど、また憬教授が注いでくれたらしい…あんまり嬉しくないサービスだ。
傍から見たら妙な色のミルクコーヒーに見えなくもない。
でも炭酸がブクブク出てるから不気味だ。
「ん?これ?これはアイスミルクコーラって言う、先生が作った新種の飲み物だよ。」
「アイスミルクコーラ…?一体どんな味?」
「沙紀さんも飲みますか?」
憬教授が嬉しそうにビアジョッキを取り出す。
こんなものに並々と注がれたらえらいことになるだろう。
「あ、そんなに要らない。センパイ、ちょっともらうね。」
沙紀は週一のコップを取ると、残っていたアイスミルクコーラを飲んだ。
で、案の定渋い顔をする。
「…何、コレ…?」
正常な人間の反応だった。
最近、週一は平気で飲んでるし、綾や冥介は自分でペットボトルを買ってきている。
だからこういう反応を見るのは久々だ。
ビアジョッキを持ったままの憬教授が、それを見て意外そうに呟く。
「沙紀さん、今のって間接キ…、」
「憬サン。」
言いかけた彼女の言葉を沙紀の声が遮った。
「…はい?」
「普通の水、もらえるかな?コレ、あたしの口には合わないみたいで。」
そう言って笑いかける。
憬教授は頷いた。
「はい、いいですよ。少し待っていて下さいね。」
奥へ入っていく憬教授。
沙紀は大きく伸びをしてリラックスモードに突入した。
再びまったりとした空気が流れ始めた中、週一が呟く。
「先生、何か言おうとしてたけど、何て…?」
「そうだった?ま、気にしなくていいって。」
「…う~ん、気になるけど、まぁいいか。」
彼の疑問は、沙紀の一言で吹き飛んだ。
…単純&鈍感さん。




