1-7.本部結成
釈然としないままパイプ椅子に座って待つこと数分、準備室に消えた憬教授が飲み物を持って戻って来た。
「はい、先生特製のアイスミルクソーダです。」
泡立つ牛乳が週一の前に置かれた。
「ミルクソーダって…。」
ちょっぴり頭痛を覚える週一だったが、彼の目の前で憬教授は自分のぶんのミルクソーダを美味しそうに飲み干した。
「ふぅ、やっぱり牛乳は炭酸で割るのが一番ですね。あ、週一君。そう固くならないでいいですよ♪まずはそれを飲んで、リラックスしたら本題に入りましょう。」
「…。」
暖かい心遣いに週一は溜息を吐いた。
確かに呼ばれた理由は気になるが…目の前に置かれたこの未知の物質…。
どっちかっていうと、今はそっちの方に戦慄して固くなっていた。
「柱都先生、僕は十分リラックスしてますから、本題に…、」
「いいんですよ、遠慮しなくても。それとも…もしかしてミルクソーダは嫌いなんですか?それだったらミルクコーラなんかも、」
「ありがたくいただきます!」
これ以上変なモノを出される前に週一はミルクソーダのグラスを仰いだ。
口に入れた時、ミルク特有のまろやかさが口いっぱいに広がり、そして弾ける炭酸の感触。
しかもミルクは炭酸で薄められており、もはやミルクと呼ぶのは怪しい代物だ。
「…うぇ。」
ちょっと涙目になりながらも彼はミルクソーダを飲み干した。
「美味しかったでしょ?私、創作料理とかお菓子作りとか得意なんですよぉ?」
憬教授は輝く笑顔でそう言うと、座り直して週一に向き直った。
「じゃあ週一君もリラックスしたようですから本題に入りますね。まずは『面白い』お話を聞いて下さい。」
「はぁ…。」
胃と胸のムカムカ感と戦いながら週一は憬教授の話に耳を傾ける。
なぜ呼ばれたかの理由が知りたいのであって、別に面白い話を聞くつもりはないのだが、断っても無駄そうなので聞くことにした。
「その日、私はプレパラートを買いにスーパーへ出掛けました。でもそのスーパーは品揃えがちょっとイマイチだったらしく、置いてなかったんです。」
部屋では憬教授の『面白い』話が始まっていた。
つっこみどころ満載のその話だが、教授がズレてるのは毎度のことなので週一も黙って聞いている。
「ですから私は仕方なく、ペットショップへ行くことにしました。プレパラートが手に入らないのなら金魚で我慢しようと思った矢先のことです。突然ダークキャン・Dが現れたんです。」
前フリが意味なかっただけに、話が急展開して週一は驚いた。
ダークキャン・D。ということは…。
何か嫌な予感がする週一だったが、憬教授は続ける。
「戦闘員の皆さんが周りの建物にラクガキをし始めたとき、モノ陰から男の子が飛び出してきました。」
見事に予感は的中。
ピンポイント爆撃に週一はフリーズした。
「男の子は『今日こそ世界の平和を守る!』と、浪漫溢れる台詞を熱っぽく叫んだ後、何を血迷ったか、蟹さんの絵が描かれたバッグを頭から被りました。」
憬教授はにこにこ笑顔のままポケットから写真を取り出した。
そこには見慣れた赤い物体。
ウゴクンジャー蟹の姿がバッチリ捉えられていた。
「それで男の子は一昔前の戦隊ヒーロータイツ姿に変身し、戦闘員の皆さんに向かって行きました。でも結局は袋に…、」
「うわぁぁぁぁぁ!もう結構です!」
フリーズしていた週一は手をバタバタさせて叫んだ。
「分かりました!そうですよ、僕の正体はダークキャン・Dと戦う正義のヒーローです!でもお願いですから世間にバラさないで!特に親に知れたら…えらいことに!」
「まあまあ、いい子だから落ち着いて下さい♪」
半狂乱で訴える週一の頭を撫でると、憬教授は立ち上がった。
「私は感動したんです。いつも授業中にカワイイ寝息を立てて居眠りしてたり、たまに先生のこと間違えて『お母さん』とか言っちゃう週一君が世界平和の為に戦ってるなんて。体力測定がオールDでも、成績が赤点ギリギリでも、そんなこと帳消しになっちゃうくらい偉いです。」
「…。」
褒められてるのかバカにされてるのか微妙だが、週一は落ち着きを取り戻した。
どうやら憬教授はこのことをバラそうとか、ネタにして脅そうとかは考えてないようだ。
まあ、バラしても親に怒られる程度だし、脅したって週一から取れるものなんてたかが知れてるが。
「そこで私は考えました。教え子が頑張ってるなら、先生の私も頑張らないとって。だから今日から私がウゴクンジャーのチーフになります。」
「はぁ!?」
いきなり飛躍した。
チーフって…。
「それに私、昔から憧れてたんです。正義のヒーローに頼られる『博士』って役柄。ちょうど私も社会情勢学の博士号を持ってますし、もうバッチリですね。」
何だか喜んでノリノリな憬教授。
「せ、先生…それって具体的にはどういう…?」
「そうですね。まずウゴクンジャー本部はここです。作戦会議とか、そういうカッコいい活動をここで行うわけですね。ふふっ、楽しみです♪」
「楽しみって…。」
ちょっぴり目眩を覚えた週一は大きく溜息を吐いた。
「じゃあ週一君、明日も放課後はここに集合ですよ。その時までにカッコいいバッヂとか用意しておきますから♪」
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翌日の放課後、週一は綾を連れて社会情勢学研究室に向かっていた。
「ふぅん、柱都先生がね…。でもいいじゃない、チーフってことはきっといろいろ援助してくれるよ?バイクとか新しい武器とか、戦隊モノによくある小物。あと、ひょっとしたらご飯とかおごってくれるかも!」
例の件を綾に話したところ、意外にも彼女は動じなかった。
というよりいよいよ本格的になりつつあるウゴクンジャーに喜んでいるようだ。
「だといいんだけど…。」
「ポジティブ思考でいった方がいいよ、週一君。それよりもう1人のメンバーは?」
もう1人のメンバー。
そう、ピンチが過ぎてから現れ、結局何もしなかったピンク色のヤツだ。
「ああ、確か…八又乃さんか。あの人は連絡先分からないから呼べなかったんだ。学生には見えなかったし…一体何者だろう?」
「うん。美形だけどちょっとズレてたよね。」
そんなこんなで、いつのまにか2人は研究室に到着した。
「失礼しま~す。」
ドアを開ける週一。
そこには…。
「遅かったな、蟹に甲虫。」
ソファに深々と腰掛けてリラックスしてる冥介の姿があった。
「や、八又乃さん!?」
「どうしてここに!?」
驚く2人だったが、冥介は当然といった感じで答えた。
「ウゴクンジャーの本部だろう?ここは。だからいるんだ。」
…まったく答えになってなかった。
すると、まだ頭の上にハテナマークを乗っけてる2人の前に妙なサングラスとシルクハットを被った人物が現れた。
「私が説明しましょう。」
その謎の人物は…時計模様のスーツを着た、あくまで謎の女性は教授の椅子に腰を下ろす。
「彼、ウゴクンジャーヒュドラは、世を忍ぶ仮の姿として作曲家をやっているらしいんです。だからここがウゴクンジャー本部だと分かったんです。」
「…。」
さらにワケ分からん説明に週一と綾はそれ以上言及する気力を失った。
「あ、そうでした。ちなみに私は謎の博士『プロフェッサーK』。ウゴクンジャーを指揮する謎のチーフです。」
深い溜息をついた後、週一はプロフェッサーKをジト目で見据える。
「柱都先生。ややっこしいし、バレバレですからやめて下さい。それより僕達一応集まったわけですけど…これから何をするんですか?」
「…気に入ってたのに。残念です。」
教授は本当に残念そうにサングラスと帽子を取った。
「まあいいでしょう。では早速、今日の活動に取り掛かりましょうね。今日はまず、3人でできるカッコいいポーズを考えましょう。あと、テーマソングなんかあると素敵ですね♪」
だいたいの予想はついていたが、やはりまともな活動はしないようだ。
何だか疲れちゃった週一を後目に、残り2名は元気ハツラツで立ち上がる。
「よし!作曲は俺に任せてくれ!カッコいいのを作るぞ!」
「私はポーズ考える!バリエーションも豊かにしないと!」
「あはっ、みんなやる気ですね!じゃあ頑張りましょう♪」
週一は今日で何度目か知れない溜息を吐き、呟いた。
「…遊びじゃないのになぁ…。」
そう言う彼だが、傍から見るとウゴクンジャーがただのギャグキャラだということには気付いているはずもなかった。




