5-15.週一と天然記念物
「ごめんなさいアル。の~みそ動転してて、思わず抱きついちゃたアル…。」
5分後、近くにあったショボい公園に2人はいた。
ベンチに座ったビイに週一は自販機で買ったジュースを手渡す。
「まあ、八頭身のハムスターに襲われたら誰でもパニックだよね。はい、コレ。」
「ジュース…アルか。」
ビイは缶ジュースを受け取ると、それをありがたそうに見た。
「カロリーあるもの口にするの、久々アル…。」
そう、コイツは無一文でダークキャン・Dをクビになったもんだから今日まで食事抜きの強制ダイエットだったのだ。
水は公園の水飲み場で飲んでいたが、カロリーがあるものはまったく摂っていない。
「…何か、大変そうだね。」
彼女の様子を見て週一が呟く。
前に会った時と服が同じだ。破れたままだし、彼女の頬とかにも汚れが付いてる。
「おカネないアルから服もないヨ。…どこにも泊まれない野宿であんまり眠れないしおフロも入てないアル。抱き付いたとき臭かたカ?ごめんアル…。それに、あれから何も食べてないネ。ワタシの人生、黄土色アル…。」
「…これ、食べなよ。」
アホだけど性格は結構優しい週一だ。
人生終わったみたいな顔してる彼女を放っておくことはできない。
あんまり関わりたくはないけど同情はしてしまう。
さっき買った菓子パンを差し出した。
「え…?いいのアルか?」
「あんまし量ないから満足できないかもしれないけど…。」
「うぅ!感激アル!!」
菓子パンをひったくるみたいに受け取ったビイはマッハの速度でビニールを破り、かぶりつく。
そしてジュースをごくごく飲んだ。
80円のアンパンにスポーツドリンク。
それをここまで美味しそうに食うヤツを週一は初めて見た。
「でも…寝る場所も服もないって…ホント?」
2222年現在、日本ではホームレスっていう人々はもういない。
景気も15年前から安定し続けており、誰にも職があるのだ。
もし彼女がそうだったら天然記念物だ。
「カニさんに嘘言わないネ…。」
「…深刻だね。」
週一は呟き、考えた。
…あんまし関わりたくないけど、この人の知り合いって僕くらいしかいないっぽいし。
このまま放っとくとどっかで餓死とかしそうだし。
そしたら寝覚めが最悪だろうな。
良心チクチク痛んでるし…。
「よしっ!」
彼の頭の中で何かが決定したようだ。
珍しく真面目な顔で言う。
「手を貸すよ。でも、その前に…、」
ぐぅぅぅっ
素敵な音が週一のお腹から響いた。
「牛丼でも食べよっか。」
◇◇◇
2人は廃れた商店街の、潰れかけた店から出て来た。
「この石田服店って穴場なんだ。5年くらい前に流行った服や潰れたメーカーの処分品が流れてて、何と1着150円。流行に敏感な人は卒倒モノだけど、服がない時とかには重宝するんだ。」
笑って言う週一。
後に続くビイの服装はさっきまでの破れたエセ拳法着じゃなく、数年前に解散したバンドのロゴ入りTシャツを着ていた。
下はどこのメーカーだか不明なジーンズだ。
一杯220円になってる某店で一緒に牛丼を食べた後、あんな服装じゃ悲惨だってことでこうして上下で300円の服を買ってやったというわけだった。
「…。」
ビイは無言だった。
無言で週一の背中を見ている。
「んじゃ次はアパートだね。この先に1ヶ月1000円っていう賓坤荘っていうのがあってさ、ボロボロで駅から離れてて、幽霊が毎晩出るって話。でも…僕も家賃滞納でアパートから追い出された時に3日間くらい住んでたことがあるんだけど、その時は幽霊出なかったから多分大丈夫。ユニットバスもついてたし。」
それは霊感ゼロの週一だからなんだけど、そんなことはどうでもいい。
今日の週一はやたらと親切だ。
やはり不幸の極みって感じな外人(だと思ってる)さんに愛の手をっていうボランティア精神が働いているらしい。
それに今日もらった2000円は彼女に配達してもらったから稼げたようなもんだし。
実は別に損はしてなかった。
「ホラ、到着。」
喋ってるうちに、言ってた賓坤荘に到着した。
凄いアパートだ。
壁の至る所にヒビが入り、窓ガラスは妙な曇り方をしている。
築100年は経ってんじゃないか?って感じだ。
あと、赤い手形が絶対に人の手が届きそうもない場所にいくつか付いてる。
幽霊の仕業…だろうか。考えるのがイヤだ。
週一はアパートの前にある怪しい自販機っぽい箱に1000円を入れてレバーを引いた。
すると、ガチャンって音がして木製の符みたいな鍵が落ちてきた。
「コレが鍵。ええと…102号室だって。何か変な仕組みだよね。管理人さんが不明なんだよ、ここ。それに自販機で部屋賃貸なんて。1ヶ月経ったら鍵が使えなくなるからまた新しいのを買ってね。」
そう言って鍵を手渡す。
ビイはやっぱり無言でそれを見詰める。
うるさいエセ中国怪人のくせにさっきから妙に静かだ。
別にどっか調子が悪いってわけじゃなさそうだが…。
そんな変化にも気付かず、週一は続ける。
「この前君にどんぶりを配達してもらったよね?そのお駄賃ってことでちゅう兄…ああ、僕の兄なんだけど、その人に2000円もらったんだ。だから牛丼代220円と服代300円、それにアパートの家賃1000円で1520円。そこから出してるわけだから返してくれなくていいよ。それは配達のバイト代ってことで。だから別に気にすることはないから。あ、それと僕が教えてあげれるのはここまでだよ。後はバイトするなりして自分でど~にかしてくれ。」
「カニさん!」
今まで黙っていたビイが突然声をあげた。
「ん?」
何か用?って顔をする週一の前に、彼女はいきなり土下座した。
土下座っていうよりも正座か。
微妙な三つ指をついて頭を下げてる。
「ワタシの命、アナタは2度も救てくれたうえに、ご飯と服を恵んで、しかも住む場所まで用意してくれたアル。感謝してもし切れないネ。」
「いや、だからそれは例の2000円から出したから、」
慌てて言う週一だけど、そこは自己中なクリティカル定食・ビイ。
聞いちゃいない。
「このご恩は絶対忘れないアル!一生絶対必ず誓って忘れないアル!!!」
「…ええと、だから、」
ビイはがばっと顔を起こした。
そして潤んだ瞳で週一を見詰める。
「ワタシ何でもするネ!!恩返し、させて欲しいアル!!カニさんの言うコト、何でもどなコトでも聞くアル!!」
「だから気にしないでいいって言ったんだけどなぁ…。」
「そんなのダメアルぅ!!2度なくなりかけた命、カニさんのためなら使てもいいネ!」
またこのパターンだ。
しかも前回よりタチが悪い。
週一は大きく溜息を吐くと、苦笑して言った。
「じゃあいつかお願いするから。…名前、一応聞いとくよ。」
予定より1時間近く遅れた帰路に週一は就いていた。
異国の地で困っている外国人(だと思ってる)を助けたことは何だかいい気分なんだけど、ちょっと疲れた。
でもまあ、今日はいい夢が見られそうだ。
「ま、恩返しなんてそのうち忘れるだろ。その方がいいよ、僕にとってもあの人にとっても。」
彼は大きく伸びをして、沈みかけた夕日を眺めた。
「それにしても、名前はビイか。何だかリーみたいだ。中国人ってビーとかリーとか、2文字が好きなんだな…。」
…勘違いは続きそうだった。




