1-6.時計の館
日本列島から沖へ100km、太平洋の微妙な位置に妙な要塞が浮かんでいた。
これが現在世界を征服しようとしている団体、ダークキャン・Dの城だ。
「…カオスチョコボールが死んだってよ。」
その一室で甲高い男の声が響く。
「まさかアレが倒されるとは…この時代の武器では倒せないはずなのですが…。」
今度は落ち着いた女性の声だ。
「報告によると石をぶつけられたそうだ。何だか地味なやられ方だな。」
若い男の声。
その前の2人に比べ、あんまりやる気がないような声だ。
「それにしても妙な話だ。例え武器が石だとしても、現代人が投げればそれは現代兵器と見なされ、無効化されるはず。…投げたのは人間ではないな。」
鋭い女の声だった。
男口調で冷酷感が溢れている。
「…皆の者。」
と、威圧的な男の声が響いた。
とたんに4人は口をそろえて言う。
「マスター!」
「うむ。」
マスターと呼ばれた声は、満足そうに続ける。
「我がダークキャン・Dがこの星にやって来てはや3ヶ月だが…どうも日本だけ征服が進んでないような気がしてならん。みんな真面目にやってるのか?」
「もちろんでございます、マスター。征服は順調です。」
甲高い声の男が言うと、マスターはふぅんって呟いた。
「そうか…。では今後ともしっかりやってくれ。」
そしてマスター声は聞こえなくなった。
「…マスターに黙っていてよかったのでしょうか?」
しばらくして再び4人の会話が始まる。
「カオスチョコボールのことか?いいだろ、次頑張れば。」
「その通り。報告する程度のことではない。…それより、次の怪人を派遣すべきだな。」
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第一の怪人カオスチョコボールが亡くなってちょうど1週間が経とうとしていた。
どういうわけか、その後は戦闘員の皆さんさえも街を荒らしに来ることもなく、平和な日々が続いている。
…この町限定でだけど。他は知らない。
「今日の講義は…社会情勢学か。う~ん、先週のやな思い出が…。」
いつものように一緒に歩く週一と綾。
傍から見たらラヴな仲だと思われそうだが、実際はそうではないというのは周知の事実だ。
…ダメ人間コンビ。
毎回アホなコトをしでかす2人はそんな不名誉な名で呼ばれている。
修行中のお笑いコンビだと思ってる学生もいるくらいだ。
ラヴ仲じゃないらしく2人はてんで勝手な席に座る。
何だかんだで根本の気は合っているらしく、前後の席だった。
ガラッ!
いいタイミングでドアが開き、にこにこ笑顔が顔を出した。
「はい、みんな。1週間ぶりですね。元気にしてたかな~?」
もう大学生だってのにそりゃないだろ?という感じの挨拶のあと、憬教授は壇上に立った。
「それでは今日の講義を始めます。前回のレポートの続きを…、」
そこまで言った時、数人の男子生徒が腰を浮かせる。
前回、『女体の神秘』を発表しようとして講義終了のチャイムに野望を挫かれた例のバカ学生らだ。
「やってもらおうと思いましたけど、今日はビデオ鑑賞をします。」
セクハラ男子生徒たちは大きな溜息とともに、ダレてしまった。
こうして憬教授はまたしても彼らの野望を防いだのだった。
「やった!どんなビデオですか!?」
喜んだのは綾だった。
周囲の痛い視線を気にすることなく立ち上がり、瞳をキラキラさせて訊ねる。
「私の友達の結婚式のビデオです。」
…教室に重い沈黙が流れた。
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見たくもない結婚式ビデオの観賞を終え、ようやく社会情勢学の講義が終わった。
ちょっぴりげっそりした生徒達はさっさと帰ろうと立ち上がる。
「じゃあみんな、来週もお楽しみに!」
にこにこ笑顔で手を振っていた憬教授だったが、週一が立ち上がるのを見ると彼の所へ歩いてきた。
「週一君、前回はどうしたんですか?待ってたんですよぉ~?で、今日はどうです?」
週一は怪訝な顔をした。
なぜにまた?って感じだ。
「あの…今日は別に寝不足じゃないですよ?」
「別に寝不足だから来なさいってわけじゃないですよぉ。いいから来て下さい。ちょっと話したいことがあるんです。」
…よく分からん。
単位がヤバいってわけじゃなさそうだし…。
あんまり優秀とはいえない脳味噌をフル回転させて考える週一。
そんな彼が達した結論は、
「もしかして先生…僕にラヴ?」
前回といい、もはやこれしか答えはない!ってアホ回答を導き出した。
「違いますよ、全然。」
笑顔で否定する憬教授。週一はちょっとヘコんだ。
「じゃあ一体?やっぱり単位がヤバいんですか?出席日数も足りてるはずですけど。」
「まあ、来れば分かることですから。そう悩むようなことじゃないですよ。」
憬教授はアホっぽい笑顔を振り撒いた後、教室から出て行った。
「…う~ん…。」
残された週一は腕組みして唸る。
そんな彼の肩を綾が叩いた。
「また柱都先生、週一君を呼んだね。」
「うん。でも…何故に?僕の進級には関係なさそうだし…僕にラヴでもないらしいし。ワケ分からん…。」
「…だね。」
2人は少しの間一緒に考え込んでいた。
文殊の知恵ってコトワザがあるけど、この場合は烏合の衆。
脳味噌のレベルがほぼ互角の2人が共に考えたところで解決するワケない。
「凄く怪しいけど…このままここにいても無理やりラーメンか牛丼食べに行かされそうだから行くことにするよ。」
しばし後、週一は決意した。綾もその決断に頷く。
「そうだね…って、何よそれ!まるで私が週一君を無理やり…、」
綾が遅れて怒った時には、すでに週一の姿は消えていた。
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ガラッ!
週一はちょっぴり建て付けの悪くなっている研究室のドアを開いた。
『社会情勢学研究室』
別名『時計の館』だ。
そう呼ばれる由縁は…。
チクタクチクタクチクタク…
週一は360度から聞こえてくる時計の音に眉を顰めた。
天井やら壁やらにびっしりと取り付けられた時計の群れ。
デジタルからアナログ、腕時計から柱時計に至るまで、ありとあらゆる種類の時計がここにはあった。
「…何か精神的な拷問部屋みたいだなぁ…。」
きっと常人はここに1日閉じ込められているだけで発狂するだろう。
大きな溜息の後、彼は自分を呼び出した憬教授の姿を探した。
「柱都先生、蟹令李週一です。あの~、どこにいますか?」
そう声をあげた瞬間、後ろでガチャって音がした。
「!?」
振り返る週一。
そこにはドアに鍵を掛けた憬教授の姿があった。
「よく来てくれました。じゃあ何か冷たいものでも出しますね。」
「そ、それはいいんですけど…何故に鍵を?」
少々引き攣った笑顔で週一は訊ねる。
一方の憬教授は100%天然の笑顔で、爽やかにその問いを無視した。
【初登場キャラ】
・ダークキャン・D:マスター
・ダークキャン・D:謎の4名




