5-12.沙紀 VS ウェキス2
ガッ!!
刃がウェキスのいた場所を抉った。
辛うじて避けたウェキスは小柄を数本投げつけ、その隙に近くにあった街灯に飛び乗る。
「…何てお嬢さんだ。普通そこまで性格変わるか?何があったんだよ、ったく。」
舌打ちしたウェキスは、思い出したように手を叩いた。
「待てよ…蝶と言えば確か、俺の配下デスペラード恋文の策に引っ掛かったヤツじゃなかったか?襲撃場所がこの萌木公園だったって聞いたが…。」
言っちゃいけないことを言ったようだ。
それを聞いた沙紀の目が細まる。
「!!…あれは、貴方の配下の方だったのですね…。」
「ん?それがどうかした…、」
ガキンッ!!
沙紀が薙刀を一閃すると、街灯がゆっくりとずれていく。
…叩き切ったらしい。
正しいお嬢様のやることじゃない。っていうか、普通できない。
「なっ!?くそっ!!」
上に乗っていたウェキスはたまったもんじゃなかった。
慌てて飛び降りる。
しかし彼の着地点にはもの凄く冷たい目をした沙紀が待ち構えていた。
「…!!」
「冥福を。」
街灯の鉄骨さえ叩き切った刃が、ウェキスに襲い掛かる。
◇◇◇
「…これ以上は無理だな。」
片膝をついたウェキスは切断された右肩を左手で押え、疲れた声で呟いた。
脳天から真っ二つにされるところを空中で身体を捻り、腕一本で済ませたのだ。
それはそれで凄いが、もう戦えそうにない。
片腕がちょん切られたのだから辺りは血の海かと思ったが、切断面からは全く血が流れていなかった。
その代わり透明な液体が少し流れいる。
見た目は完全な人間だけど、やっぱりコイツも怪人だったようだ。
「外してしまいました。私もまだまだです。」
そんな彼を沙紀は冷ややかな目で見据える。
薙刀を構えなおしたところから、このまま留めを刺す気だろう。
「でも…ご安心を。次は外しません。」
「へへっ、美女に殺されるのは本望だが…まだ死ぬわけにはいかねぇんだよ。」
懐から例のスイッチを取り出すウェキス。
それを見た週一は叫んだ。
「歐邑!瞬間移動で逃げる気だ!!」
「っ!!」
斬りかかる沙紀。
しかしウェキスの親指がスイッチを押す方が早かった。
「あばよ、二重人格お嬢さん。」
シュイン…
刃は彼の残像と共に虚しく宙を切った。
四天王ウェキス、2度目の撃退。
今度はけっこういいところまで攻めてた勝利だった。
◇◇◇
戦い終わって日が暮れて。
実際は30分くらいしか戦ってなかったんだけど、沙紀が叩き切った街灯を元に戻したりしていたら、けっこうな時間になってしまった。
週一は大きく伸びをした後、手際よく事後処理をしていた葦和良に向き直る。
「じゃあ僕はそろそろ帰ります。歐邑、それじゃ。」
今は4時。
普段ならまだまだ帰る時間じゃないが、今日は別だ。
まだサブ太とアジ美に餌をあげてないし、食材を買って帰らないと冷蔵庫が空っぽなのだ。
「ではお送りしましょうか。」
なぜそんなもんを持ってんだよって突っ込みたくなるようなジェラルミンケースに、ウェキスの落し物(腕)を入れながら葦和良が言う。
週一はかぶりを振った。
「いえ、ついでにこの近くに住んでる兄のアパートへ寄ろうかと思ってるんです。それにここは家からそんなに離れてないし。」
厨に前回のどんぶり代とお駄賃の2000円をもらわにゃならん。
それにここは大学から1kmくらいしか離れてない公園。アパートからだって3kmもないだろう。
さすがに週一は車でスーパーや厨の家、アパートっていうツアーをしてもらうほどの図々しさはない。
「そう…ですか。承知致しました。お嬢様、蟹令李様がお帰りになるそうです。」
「え…?もう、ですか。」
地面やら街灯やらを叩き切ったせいで痛んだ薙刀の手入れをしていた沙紀が手を止める。
そして少し残念そうに言った。
「せっかくの休日でしたのに、こんなことになってしまって。申し訳ありません…。」
「いや、元はと言えば僕が萌木公園に行こうなんて言ったのが原因なんだ。気にしないでいいよ。それに少しの時間だけど久々にまったりできたし。」
「蟹令李さん…。」
和服沙紀は微笑むと、深々と頭を下げた。
つられて週一も頭を下げる。
2人は顔を上げると、苦笑し合った。
「また、いつでもいらして下さいね。」
「ああ。それじゃ。」
「お気を付けて…。」
アホっぽい笑顔で手を振って去って行く週一。
その後姿を見送りながら、葦和良は沙紀の傍に立った。
「見かけによらず、なかなかの方ですね。」
…どこが?って突っ込みを入れたくなるけど、誰も入れない。
「刀を持った相手にドライバーで挑んでいました。しかも相当な腕だと見ただけで分かるあの剣士に。無謀と言えば無謀ですが、…この葦和良、感服しました。」
刀を持った相手にでも向かっていくのは勇気じゃない。アホだからだ。
何とかなるやって心の奥で思っているからだし、ウェキス相手に臆さないのは週一が完璧な素人だから。
沙紀や葦和良のような熟練者には普通に分かる闘気も、週一には空気中の窒素みたいなもの。
知覚できないから平気なのだ。
「はい。そういう…方です。」
和服沙紀は目を細め、穏やかに微笑んだ。
こいつも騙されている。
例の動くドール戦から週一はけっこう勇気のあるヤツだと思っているのだ。
…誤解なんだけど。




