5-6.メタルハムスターの脅威
ピンク色の光の刃が音もなく消滅する。
ヒュドラは消えていく最後のPマーモセットを一瞥し、息を吐いた。
「…これで終わりか。思ったより時間が掛かったな。」
あれからもう15分。
隠れて輪ゴムを飛ばしてきたり、小学生の駆けっこレベルのスピードで逃げたりするPマーモセットを始末しているうちに場所も少し離れてしまった。
「もう日和も片付いているだろうが…、援護に行くか。」
彼は呟くと、さっきの十字路へ向かって駆け出した。
◇◇◇
「ちょっとピンチですぅ。こんな銀ピカハムスターに…。」
両腕が折れた日和は、何があっても崩れない笑顔のまま呟く。
彼女を見下ろすようにメタルハムスターが立っていた。
コイツの方は傷1つない。
至って健康という感じでへし折って捥ぎ取った日和の腕を持っている。
そして木の千切れた面を一瞥すると鼻で笑った。
「木製ノ人形ガ偉ソウニ…。A級怪人トイエドモ、うぇきす様自ラ製作シタ、コノめたるはむすたーニハ遠ク及バンナ。」
「でもまだ動けますよっ!?」
日和の蹴りがメタルハムスターの横腹を捉えた。でも怪人は身じろぎすらしない。
「効カント言ッタロウ!?」
バキッ!
日和の頬にハムスターの拳が叩き込まれる。
「きゃあっ!?」
緊張感のない悲鳴をあげ、彼女は吹っ飛んでアスファルトに転がる。
痛そうだ。
でもコイツは人形だから痛くないだろう。
「俺ニハだーくきゃん・D怪人ノ攻撃ハ効カンノダ!俺ハ対怪人用ニ特注サレタ怪人きらー!貴様ガドウアガコウト、俺ニ傷ヲ負ワセルコトハデキン!!」
そういうことらしい。
だからクリティカル定食・ビイの攻撃も通用してなかったのだ。
メタルハムスターは怪人にとって人間にとってのダークキャン・Dと同じってことか。
「それでもっ!!」
倒れていた日和が脚払いを仕掛ける。
腕が折れて千切れているため起き上がって反撃するような真似ができないのだ。
でもそんな涙ぐましい攻撃もメタルハムスターに全く通用しなかった。
「それでも、私はご主人様に約束したんですぅ!銀ピカハムスターは私が倒すって!」
「ソレガ無駄ダト言ッテイル!!」
ハムスターは日和の脚を掴むとそのまま上へ揚げ、アスファルトに叩き付けた。
もの凄い力…に感じるが、日和は中身空洞の木製だからの体重は約20kg。
別に誰でもできる芸当だ。
「ッく!?」
笑顔のまま日和が苦悶の声を漏らす。
メタルハムスターはもう一度日和を揚げると、今度は電柱にぶつける。
これで彼女が生身の人間だったら猟奇殺人だろう。
血も肉も内臓もない日和だからこそ、ホラーが苦手な人でも直視できる。
しかしいくら木製の人形だからって、こんな攻撃は無茶だった。
身体中がミシミシと嫌な音を立て、亀裂が入っていく。
「も、もうっ、壊れ…ちゃいますぅ…!!」
緊張感のない声だけど、それは悲鳴だった。
ウェキスにやられた時もあったが、あの時は手足が切断されただけだ。
ボンドでくっつければ直せるレベルだった。
しかし今回は身体中に亀裂。
さっきから激しい衝撃を受け続けているため、コアへのダメージも深刻だ。
バンッ!!
腹を蹴り飛ばされ、日和は壁に激突する。
壁に凭れかかるようにゆっくりと崩れていく彼女をメタルハムスターは見据えた。
「…サテ、留メトイクカ。」
ハムスターが腰を落とし、ゆっくりと拳を脇に構える。
空手の正拳突きみたいな格好だ。
拳にはダークキャン・D怪人の防御力を完全無視するオーラみたいなもんが溢れている。
こんなものを喰らったら、ダークキャン・Dの怪人は…。
「りばーすどーる、アノ世デだーくきゃん・Dニ逆ラッタコト、後悔スルガイイ!…尤モ、我々怪人ニアノ世ナドトイウモノガアレバノ話ダガ、ナ…。」
タッ!!
地面を蹴り、メタルハムスターは日和に突っ込んで行った。
来る。
避けないと、ご主人様の命令が守れなくなる。
でも、脚が動かない。
軸が破壊されている。防御しようにも腕は、ない。
このままじゃ、ご主人様の命令が実行できない。
他の策を考えようにも、メモリーカードが壊れてしまって、処理しきれない。
間に合わない。
ご主人様、ご主人様…。
日和はメタルハムスターの姿を瞳に映した。
―――― 冥介、様。




