5-4.デスペラード恋文の罠3
プシュ~ッ
ドアが開き、綾はバスから降りた。
何だか後ろから安堵の溜息とかが聞こえてきたけど、気付いちゃいない。
「ふぅ。バスって肩凝るのよね。」
あれだけ好き勝手やって肩が凝るなんて…。
他のお客様が不幸だ。
それはさておき、このバス停は『町野中公園前』。
だから目的地である公園は真ん前にある。
綾は大きく伸びをすると、弾む足取りで入り口へと向かって行った。
◇◇◇
「…そうだよね。八又乃さんには住所なんて教えてなかったし、よく考えれば怪しさ爆発だったんだよね。」
町野中公園のベンチに座った綾は、空を仰いで独りごちる。
「でも、あんな状況だったら誰でも勘違いするよね。仕方ないよ。あは、あはは…。」
情けない笑い声。
それは途中から涙声に変わった。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!このバカ割り箸がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼女はベンチから跳ね起きると、近くに有刺鉄線でぐるぐる巻きにしてあったキラー割り箸に駆け寄り、サッカーボールみたく蹴りまくる。
その周りには100体ほどのチンパンGが転がっている。
そう、こっちはもう勝負がついたのだ。
しかも沙紀と違い、当事者のキラー割り箸は殺さずに捕まえてある。
バキッ!ボカッ!ドゴッ!!
渾身の蹴りがキラー割り箸に襲い掛かる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ゆ、ゆるしておくれYOォォォォォォ!!!」
「誰が許すか!このバカ!アホ!!人でなし!!!乙女の心を何だと思ってんのよ!?」
ベキッ!ドスッ!ボコッ!!
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!びやぁぁぁぁぁぁ!!ごえぇぇぇぇぇぇっ!!」
リンチだ。ひでえ。
と、蹴り疲れた綾は、ゼエゼエと息を整えながらピクピク痙攣している割り箸野郎を見下ろした。
そして。
「…もう、殺そ…。」
疲れきった表情で恐ろしいことを呟く綾。
キラー割り箸の表情が青褪める。
彼女は拳をボキボキ鳴らすと、ゆっくりと振りかぶった。
「ひぃっ!?ちょ、ちょっと待ってYO!ねえ、ねえってば!ME、誓うYO、もうダークキャン・D辞める。お前らを付け狙ったりしないYO!心を入れ替えて真面目にはたら…、ヒッ!?ヒィィィィィィィィィィ!!!!!」
どくしゃ。
公園に、何だか嫌な音が鳴り響いた。
◇◇◇
女性陣2人が大変な目にあっているその頃…。
週一はげっそりした顔でゲームセンターから出て来た。
柄の悪いおに~さんにお金を巻き上げられたわけじゃない。
でも財布の中身が可哀相な事になったのは事実だ。
「あの蟹のぬいぐるみ…欲しかったなぁ…。」
そう!UFOキャッチャーに蟹のぬいぐるみが追加されていたのだ。
蟹好きっていうか、蟹フェチな週一がそれを狙ったのは言うまでもない。
失敗しても挫けずに挑戦し続けること30分、5000円入っていた財布はリバウンドなしのダイエットに成功し、1200円になるっていう快挙を達成。
それでも取れなかったんだけど、これ以上やったら(今週の食費的に)危険と判断し、仕方なくUFOキャッチャーを後にしたのだ。
「くそっ、僕にもう少しだけ力があれば…!!」
拳を握り締め、苦悩する週一。
何て言うか幸せな苦悩だ。
そういえばちょっと前にカイネとこのゲームセンターに来た。
その時に彼女は涼しい顔で全てのゲームを攻略し、大量のぬいぐるみをGETしていたはず。
今、カイネがいればなぁ…とか一瞬思った週一だが、彼女は一応敵の四天王。
そんな考えはダメダメだ。まあ、2000円使った時点で電話しようとか迷ったけど。
と、そんな彼の肩を叩く奴がいた。
誰だろう?と思って振り返る週一。
そこには揺るぎない鉄の笑顔がいた。
「あはは、ご無沙汰でしたぁ、週一さん♪」
「日和。…って、口調が元に戻ってない?」
最近冥介の変身小物を作ってて会っていなかった。
最後に会った時は笑顔はこのままだけど口調がしっかりしていたはず。
「言葉を入れたメモリーカードが壊れちゃったんですよ。それよりどうしたんですぅ?しょぼくれて。」
「蟹のぬいぐるみが取れなかったんだ。」
「それはご愁傷様でしたぁ。」
苦笑する週一。
すると近くのコンビニから冥介が出て来た。
「蟹か。奇遇だな。」
「あ、八又乃さん。買い物ですか?」
冥介はかぶりを振る。
じゃあ何故にコンビニから出てきたんです?
「新色入荷と書いてあったのが気になってな。墨なら買ったんだが、あいにく女物のマニュキアだったようだ。」
よく分からないが彼も欲しい物が手に入らなかったようだ。
残念そうにする冥介に、週一はうんうん頷いた。
「八又乃さんの気持ち分かります。僕もゲーセンで蟹のぬいぐるみを手に入れようとしたんですけど、どうしても取れなくて。結局3800円も使っちゃいました。」
「…そうか。お前もまた、志半ばで…。」
ニヒルに笑う冥介。
「だが悔やむことはない。この失敗もいつかは成功への礎となるはずだ。」
すれ違いざま、彼は週一の背をポンと叩き優しくつぶやく。
「…それと蟹、お前の言う蟹のぬいぐるみだが、そこの玩具店に500円で売っているぞ。」
週一がそれを聞いて絶望したのは言うまでもない。




