5-3.デスペラード恋文の罠2
ツーッ ツーッ ツーッ
…いくら掛けても話中だ。
萌木公園の入り口から数mのところで沙紀は携帯を掛けていた。
もう今ので5回目だ。
頼みの綱だった水面にも頼れず、彼女は溜息を吐く。
そして携帯をしまった。
「ミナぁぁぁぁぁ、どうしてこういう時に出てくれないのかなぁ…。」
がっくりすること5分。
突然沙紀は顔を上げると、大きく深呼吸をした。
もうウジウジしてても無駄だ。自分で何とかするしかない。
公園へ1歩踏み出した彼女だったが、すぐに立ち止まる。
「ど、どういう受け答えをするか整理しとかないと。」
有名進学校の四神女子高にストレート入学し、現在も校内トップ5を突き進んでる沙紀だ。
その頭脳は現役大学生の週一や綾を軽く凌駕する。
…でも、そんな頭脳も機能してくれない。
考えれば考えるほど脳味噌ボンバー。
「ッ!!くぅっ!もうっ!ああっ!!」
近くにあった木を殴りつける。
可哀相な木はミシミシって悲鳴をあげてるけど、今の沙紀には届かない。
へし折る勢いだ。
そんな彼女だったが、ふいにピタッと止まる。
「…悩むのやめっ!もうどうにでもなれ!!」
そう叫ぶと、一気に公園へと入って行った。
◇◇◇
人影が見える。
ちょうど陰になっていてよく分からないが、きっと週一だ。
公園に入った沙紀はそれを発見した瞬間、顔面がやたらと熱くなった。
「…な、なに緊張してんの、あたし。あそこにいるのはアホなセンパイじゃない。そんなに緊張すること…な、ないんだけど…。」
彼女は呟き、今日何度目か分かんないけど手紙の内容を思い出した。
…大事な話。
サワガニが欲しいとか、お金貸してとかそういうレベルの話じゃないだろう。
この時間のこの公園がどういう場所かはこの辺に住んでる人間なら誰でも分かる。
そんな場所に呼びつけるってことは、要件はアレしかないだろう。
熱を帯び、ぐるぐる廻る世界で沙紀はブツブツ受け答えのシミュレートを始める。
「え、ええと…何か用?変な要件だったら承知しないから。…ダメだ、高圧的過ぎるし。それにせっかくセンパイから告は、」
そこまで言い、続きの台詞が言えずに固まる。
「あ…う、そう決まったわけじゃないし、…うん。そう、…センパイ、大事な話って何?とか普通な感じで、…も、何かちょっと…。やっぱり、」
そんな感じでブツブツ呟いてると、彼女の背後から陰が差した。
慌てて振り返る沙紀。
「セ、センパイ!遅れてゴメ…、」
「あひゃひゃ!まんまと引っ掛かったでゲスな!!」
…。
どうしようもない沈黙がその場に流れた。
「…ダークキャン・D…?」
先に口を開いたのは沙紀だった。
振り返った彼女の前に立っているのは週一ではない。
というか人間ですらない。目も鼻も口もない、デカい手紙に手足が生えた怪人だ。
「そうでゲス!!このデスペラード恋文様の作戦大成功でゲスね!!ノコノコ1人でやって来るとは、ここが貴様の墓場となるんだゲス!」
怪人の声と共に公園の至る場所からチンパンGが現れる。
沙紀が最初に見付けた人影もチンパンGだったようだ。
「…作戦?どういうこと…?」
沙紀は俯き、小さな声で呟くように訊ねる。
前髪のせいでその表情は伺い知れないが、声は何だか弱々しいような気がする。
だからデスペラード恋文はいい気になって答えた。
「精神的ダメージも負ったでゲスね!それも作戦通り!!いいでゲス、冥土の土産に教えてやるでゲス。貴様の家に届いた手紙、あれはこのデスペラード恋文様が書いた偽の手紙だったでゲスよ!ウゴクンジャーを別々の場所におびき出し、こうしてノコノコやって来た馬鹿を待ち伏せチンパンG達とボッコボコにするっていう素晴らしい作戦でゲス!」
「…そういう、ことだったんだ。」
沙紀の口元が歪む。
目が前髪で隠れているお陰で、何だかとっても無気味な笑みだ。
事実、沙紀の堪忍袋は緒なんてとっくの昔にブチ切れて落下し、しかも中から手榴弾がゴロゴロ飛び出て来ている。
そんなことは思いもせず、沙紀が絶望してるんだと勘違いしたデスペラード恋文はバカ笑いをしながら続けた。
「でも面白かったでゲスよ!公園のちょっと前から見てたでゲスけど、お前の緊張振り、本気で笑っちゃったでゲス!!」
ぶちん。
切れてるはずの堪忍袋の緒が。
…また切れた。
沙紀はゆっくりと顔を上げる。
その表情はなぜか、穏やかな笑みさえ湛えていた。
でも目が笑ってない。
勘のいいやつならここで逃げるだろう。
もっと勘のいいやつなら遺書を書くだろう。
でも、デスペラード恋文は鈍感だった。
「1つだけ質問。チンパンGって、これだけ?」
彼女の周りにを100体ほどのチンパンGが囲んでいる。
「もっと絶望させてやるでゲス。実はこの2倍の数のチンパンGが隠れてるでゲスよ!」
怪人は笑う。
「そう。…良かった。」
沙紀も幸せそうに微笑んだ。
さすがの怪人も、おや?って顔をする。
「どういう意味でゲスか…?」
バシュッ!!
その瞬間、デスペラード恋文は天へ召された。
沙紀の拳が彼の身体を貫通している。
「…アンタ1人じゃ腹の虫が治まらないってコトだよ!この下衆が!!」
凄まじいまでの怒りの波動で空気が震える。
消滅していく怪人の死体を乱暴に投げ捨てながら、沙紀はオニの形相で総勢300体のチンパンGの群れを睨んだ。
「全員…殺すッ!!!」
その後に起こった惨劇は、後世には伝えてはならないものだったという。




