5-1.4人に届いた手紙
『大事な話があります、今日の放課後、屋上まで来て下さい。By:綾』
週一が学校に行こうとした時にドアの隙間に挟まってた手紙。
そこにはそんな内容が記されていた。
筆跡も間違いなく綾。
だって字、下手だし。
「…?」
普通なら思うだろう。これわ!まさか恋文!?って。
でも週一君の脳味噌は蟹味噌が詰まってると噂されるほどの代物だ。
「またレポートやってなかったんだな。でも今度は見せてやんないよ。」
そう言って手紙をゴミ箱にポイした。
なんてヤツだ。っていうかアホだ。
「うん。これも綾のためだよ。人に頼ってばかりじゃ卒論で困るしね。いや、むしろヤツは卒論まで頼るつもりじゃ…ってか、綾って僕のアパート知ってたっけ?」
少し小首を傾げながら、彼はアパートから出て行った。
◇◇◇
冥介はドアを開くと同時に落ちてきた封筒を見て舌を打った。
そしてその封筒を開こうともせず、家の中に戻っていく。
「日和!どこからか俺の家がバレたようだ。…至急、引っ越すぞ!」
「はい!分かりましたぁ♪」
ちなみに開けられなかった手紙の内容はこうだ。
『大事な話があるから、今日の夕方に潮騒海岸に来て。By:沙紀』
…何だかどっかで同じような文面の手紙があったような?
内容なんかつゆ知らず、冥介は大きな溜息を吐いた。
「くそ、完全に情報は断っていたはずなのに…。これも有名税というヤツか…。」
◇◇◇
「…お嬢様。」
制服に着替えた沙紀が登校しようと門をくぐった時だった。
黒い喪服みたいな着物を着た和服美人が彼女を呼び止める。
その声は週一が訪ねる度にインターホンに出るあの人だった。
「何?葦和良さん。」
「今朝、玄関の掃除をしていたらこのような物が。」
差し出されたのは封筒だった。
差出人の名前はなく、『歐邑沙紀様』とだけヘタレな文字で書いてある。
「差出人もなく怪しいものですので、私がお開けいたしましょうか?」
「う~ん、こんな手紙を出すヤツなんていたっけ?」
沙紀の高校は女子高だ。
でもこの字は女の字じゃない。
捨てちゃってと言おうとした沙紀だったが、その字に見覚えがあることに気付いた。
そう、あれは確かバッグに書いてあったのだ。
蟹の絵が描かれたバッグに。
「あ、いい。あたしが見とくから。」
「ですが…。」
「大丈夫って。学校に向かいながら読むから。」
彼女はそう言って封筒を受け取ると、葦和良に手を振りさっさと歩き始めた。
そして歩きながら封筒を開ける。
「センパイもアホだね。わざわざ手紙なんて。どうせサワガニがどうこういった、」
そこで沙紀の言葉が止まった。
『大事な話がある。今日、学校が終わったら萌木公園へ来てくれ。By:週一』
沙紀は常識人だ。
乱暴で口より先に手が出る凶暴娘だけど常識は分かっている。
だからこういう手紙が何を意味するか、ピーンとくるのだ。
「!?…な、ちょっと、コレ…。」
何だか知らないけど脳味噌が沸騰した気分だ。
立ち止まって手紙を呆然と見る沙紀。
ちなみにその後、高校生活初の遅刻を体験したそうな。
ご愁傷様。
◇◇◇
「なになに、『今日の夕方に町野中公園へ来い。By:冥介』?」
綾は玄関のドアに挟まっていた手紙を読み上げ、眉を顰めた。
「もしかしてアイラブユーとか?でも八又乃さんってそういう感情なさそうだしな。」
そう呟き、彼女は腕組みする。
…まさか、この前イクラ煎餅盗ったから怒って決闘を?
綾はその線で想像を膨らませてみた。
うおぉぉって殴りかかる冥介。
でも簡単にかわし、腕を掴むと1本背負い。
勝った綾に冥介はニヒルに笑って言う。
『やはり女相手に本気なんて出せないな。俺の負けでいい。』
見事な負け惜しみの台詞を吐くと、そのまま去って行く。
…何か違うような気がする。
ってことはやっぱりラブレター?
「…。」
今度はラブレターだったって前提で想像してみた。
タキシード着て跪き、花束を差し出す冥介。
『この花でさえ、君を前に霞んで見えるよ…。』
クサい台詞を吐き、フッって笑う冥介。
…こっちの方がしっくりくるかも。冥介はルックスだけなら文句ないし。
「参ったなぁ、私の隠された魅力に気付くなんて♪まあ、女は中身よね、中身。いくらナイスバディでも、大人の魅力も兼ね備えてないと。あのウェキスとか言うヤツとは目の付け所が違うよね。」
まだあの時のことを気にしていたらしい。
高校生に負けたってことで精神的ダメージを引き摺っていた彼女だったが、何だか錘が外れたみたいに気分が軽くなった気がした。
「まったくも~、困っちゃうよね~。」
手紙をポケットに入れ、綾はモロに浮かれてるって声で漏らす。
「ホント、困っちゃう。」
…困ってねぇじゃん。
【初登場キャラ】
・葦和良さん ※初登場じゃないけど名前は初登場




