1-4.レポート発表日
もう辺りは薄暗かった。
2人で協力して何とか崖を登り、もと来た道をえっちらおっちら歩いていたら結構な時間がかかってしまったらしい。
「…だから週一君は怪我してたんだね。」
綾はカブト虫の絵が書かれた麦藁帽子を手でくるくる回しながら言った。
…これが彼女の変身道具。
週一のはバッグで綾のは麦藁帽子。
その一貫性のなさがウゴクンジャー的で(ある意味)ステキだ。
「そう。あいつら手加減なしで攻撃してくるから痛いんだよ。」
「でも、私倒せたよ?素手で。」
…そりゃあんたが常人離れしてるんだよ。って言いたかったが、やめておいた。
「綾の家は向こう側だったよね」
「うん。それじゃあまた明日」
綾と別れた週一は、1人考えていた。
綾が2人目のウゴクンジャーになったこと、光の球がくれた(半分以上聞いてなかったが)メッセージ…。
次々と頭の中を駆け回る衝撃の事実。
しかし、彼は肝心なことを思い出すと、その全ては一瞬にして掻き消えた。
「レポート提出日…、明後日だったような…。」
家に帰ると、『レポート明日提出日・忘れるな!』と重要そうに書かれたカレンダーが待ち受けていることを彼はまだ知らない。
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「週一君。今日は怪我してないけど死にそうだね。」
次の朝、途中で遭遇し毎度のように一緒に登校する綾が言った。
週一の顔には全く生気がなく、半分枯れている。
服のヨレヨレ具合も何だか彼の疲労感を醸し出していた。
「はは…、徹夜だったんだ…昨日…。」
「へぇ、偉いね。でも、どうして徹夜なんか?」
「レポートだよ、レポート。あの洞窟のレポートなんて書けないし、でも何もやってないし。仕方ないから朝まで交通量調査してたんだ…。」
人生の終着駅みたいな声で週一は答えた。
って、そういえば綾のレポートはどうなったのだろうか?
「綾は?どうなった?」
綾はにっこり微笑んだ。
「忘れてた。」
「わ、忘れてたって…。単位、落とすよ?」
しかし綾の笑顔は揺るがない。
「週一君。私たちって友達だよね。」
「え…?あ、ああ。そうだよ。」
彼の答えに、綾の笑顔が輝きを増す。
「助け合いって、大切だよね。」
…その言葉が何を示しているのか。
察するのは、余りにも容易すぎた。
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…風雲急を告げる。
ってなわけで、レポート発表。
期せずして共同調査したということになった2人は前に立っていた。
しかし、調査したのは週一だけだ。
綾はな~んもやってない。
綾にとっては棚からぼた餅。
週一は損はしていないが、何か微妙な気分だ。
「…というわけで、一番多かったのはトラックでした。」
発表することが台数しかない交通量調査のレポートは、クラスの静かな反応の中、無事終わりを告げた。
「はい。何か大学生のレポートとしてはアレでしたけど、週一君の情熱と絶望はひしひしと伝わってきましたね。」
ドラ○もんのタイムマシンで見たような、ぐにゃりと歪んだ時計デザインの服を着た少女がコメントした。
にこにこ楽しそうな笑顔で教壇に立つ少女…に見える彼女は、驚くべきことにこの大学の教授。
助手でも助教授でもない、ちゃんと資格を持つ教授だ。
外見ではまだ十代にしか見えない彼女は、週一たちの担当教授、柱都憬。
実年齢27歳独身、講義は社会情勢学だってのになぜか自由研究レポートを宿題にした変わり者だ。
「じゃあ、次の人は前に…、」
そう言ったとき、授業終了のチャイムが鳴った。
「…と思ったけど、終わっちゃったですね。仕方ない、今日はお終いです。」
アホ特有のほほん笑顔で憬教授は言った。
次のレポート発表しようとしていた男子生徒が、残念そうに舌打ちする。
でも、ちらっと覗いたそのレポート用紙には『女体の神秘』とか書かれてあった。
彼女はセクハラを未然に防いだことになる。
講義室がざわめきだす。
所詮は学生。静かに予習復習しようなんてキトクな方は全くいないのだ。
「あ~終わった!疲れたね、週一君。」
綾がにこにこ笑って週一に語りかける。
…おめぇは何もやってねぇだろが!!?
週一は心の奥底で叫んだ。
でも、あくまで心の中。
面と向かって叫べるほど彼は勇気ある青年ではない。
「そうですね。よく頑張りました、週一君。いい子いい子。」
間の抜けた声と一緒に彼の頭を誰かがぐりぐり撫でた。
誰かって言っても、該当者は1人しかいないけど…。
「柱都先生。ははは…、ありがとうございますと言いたいところですが、アタマ撫でられても嬉しくないって言うか逆に馬鹿にされてる気がします。」
自分より年下にしか見えない教授に、週一は答える。
「そうですか?でも、週一君寝不足みたいですし。」
「…いや、確かに寝不足ですけど話が変わって…、」
週一はそれ以上何と答えていいのか分からず、顔の筋肉だけで笑っておいた。
「ところで先生、週一君の功績を認めて単位アップしてくれるんですか?私含めて。」
こういうことはちゃっかりしてる綾が口を挟んだ。
ちなみに何度も言うようだが、綾は何もしていない。
ただ横に立ってただけだ。
「あはははっ、違いますよ綾さん。私は寝不足そうな週一君に私の研究室にあるベッドを貸してあげようかと思って声をかけたんです。」
「…へ?」
今まで眠そうにしていた週一が、凄まじいスピードで顔を上げた。
「そ、それってまさか…!!」
「良かったら後で私の研究室に来て下さいね~。…っとそろそろ行かないと。それじゃまた来週、バイバ~イ♪」
NHKの幼児番組系な挨拶をすると、社会情勢学教授は去って行った。
「…週一君、先生のとこに本当に行くの…?」
不審そうに綾が尋ねた。
「い、行くわけないよ。あんな怪しい所…。」
と言いつつも行く気MAXだ。
すでに彼の頭の中では青少年の考えそうな都合のいい予想図が悶々と広がっている。
普段はそういう煩悩が薄い週一も一応は正常な成人男子だし。
「そうだよね。柱都先生の研究室、怪しいしね。」
「うんうん。…あ、僕ちょっと用事思い出した。綾は先に帰ってて、」
「ほう、行く気マンマンですなぁ、青少年?」
「…やっぱ用事ないや。うん。」
駆け引きらしい駆け引きもできず、週一が敗走した。
「さ、行くよ、週一。」
「え、え?どこに…、」
「ラーメン屋!」
「なぜに!?」
「じゃあ牛丼屋!」
「…。」
引き摺られつつ週一は教室を後にした。
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「来ませんねぇ、週一君。」
数分後、憬教授は研究室で呟いた。
彼女の机の上には一枚の写真が置いてある。
「せっかく面白いネタ掴んだのに…。」
【初登場キャラ】
・柱都憬




