4-5.正義の味方?
正義の味方…。
今の週一にしてみればホントに正義の味方だ。
ピンチの時に現れたし、どう見ても権下って悪役だし。
「正義のォ!?フッざけてんじゃ、」
「ふむ、貴様。牛でもないのに鼻輪をつけているな。」
悪態をつく権下にカイネは平然とした態度で呟いた。そして彼の前に立つ。
「…気に食わん。没収だ。」
ブチッ!!
一瞬の出来事だった。権下が鼻を庇う間もなく、カイネの手が彼の鼻ピアスを引き千切ったのだ。
痛そうだ。いや、きっと痛い。
現に権下君、絶叫。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「黙れ。」
ビシッ!!
彼女の放った手刀が権下の喉にヒットすると同時に彼の悲鳴が止んだ。
喉を潰されちゃったみたいだ。
痛そうだ。いや、きっと痛い。
でも権下君、声出ない。
さっきまでの威勢はどこへやら。
目で命乞いしてる権下君にカイネは頷いた。
「そうか、許して欲しいか。…なに?お詫びに私にお前の財布をよこすというのか。そうかそうか、いい心がけだ。」
絶対違うこと訴えてる!
必死で首を横にブンブン振る権下のポケットからカイネは財布を取り出した。
「趣味の悪い財布だ。札だけ貰っておく。残りは…いらんな。」
数枚の札を抜き、彼女は財布をぐしゃって丸めた。
キャッシュカードとか学生証とかも一緒に丸めた。…もうカード系はオシャカだろう。
ひでえ。
今の週一にしてみれば正義の味方、っていう表現は訂正だ。
やっぱりカイネは悪の四天王。
「○*▽~#%!!?」
札を盗られ、カードをぐちゃぐちゃにされた権下は、声にならない叫びを残して失神した。
よほどショックだったのだろう。
そんな彼を一瞥すると、カイネはまだ廊下に尻餅ついてる週一に向き直る。
そして微笑むと手を差し伸べた。
「おお、奇遇だな。こんな場所で合うとは。」
…絶対、奇遇じゃない
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「随分とこっ酷くやられたものだな。全く、お前はウゴクンジャーだろう?一般人に負けるな、一般人に。」
立ち上がった週一にカイネは呆れたような笑顔で言う。
でも週一の怪我が酷いなら、顔面血まみれ&白目剥いて気絶してる権下はどうなるんだろう?
「基本的に僕は腕力ないんだ。それにああいうタイプは苦手。」
「チンピラは嫌か。まあ、私もああいうクズは好きじゃないが。…血をどうにかしたほうがいい。痛むか?」
週一は自分の口元を触ってみた。
まだ頬がジンジン痛むけど、別に腫れてるわけじゃない。
殴られた拍子に口の中が切れた所も血は止まっているようだ。
「ほら、使え。」
そう言って差し出されたハンカチを彼は受け取り、鼻と口元についた血を拭った。
これで外を歩いても変に思われないだろう。
…何にせよ、災難だった。
気分もけっこう滅入ってる。
「そういえば…今日はどうしたの?どっかに怪人がいるから戦えとか?」
「いや。今日出撃する予定の怪人はいない。あまりにも暇だったから来ただけだ。それより週一、この前私が言った野菜炒めは作ってみたか?」
この前ってのは例の敵とスーパーでご対面っていう、何かアレな出会いをした時のことだ。
週一はその時、カイネに食材をおごってもらった。
「うん。思ったより簡単だった。お陰で最近、身体の調子がいいんだ。」
「そうか。」
カイネが満足そうに微笑む。
と、そんな2人+倒れてる1人を通りかかった学生が不審そうに見た。
「…ここは目立つな。週一、場所を代えるぞ。」
「え?」
彼女は週一の手を掴むと…例のボタンをポチって押した。
シュイン…
同時に2人は消滅。
後には気絶してる権下と、目の前で人間2名が消えたんでパニクってる学生だけが残されていた。
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日本列島から沖へ100km、太平洋の微妙な位置に浮いてるダークキャン・Dの要塞。
ここのところ作戦失敗の連続でさぞや士気が落ちていることだろうと思いきや…、
「よっしゃ!万馬券!!」
巨大スクリーンに映った競馬中継を見ながら馬券を掴んで喜ぶウェキス。
この巨大スクリーンはあらゆる国の情報を盗み見ることのできる超高性能コンピューター内臓。
なのに、テレビなんか見てる。
「あ…、このココア、おいしいですね。無名メーカーですが、いい味です。」
テーブルでココアを飲みしきりに感心してるコノハ。
このテーブルはボタン1つであらゆる作戦をシミュレートできる高機能作戦版で、幹部会議のテーブル。
なのに、すっかりお茶の間用と化している。
テーブルクロスなんて敷いてる時点で本来の使い方は果たせないだろう。
…そう、ダークキャン・Dのみなさんは全く落ち込んでいなかったのだ!
ある意味不屈、ある意味アホだ。
「へへっ、さすが俺。競輪の次は競馬、ギャンブルの天才だぜ。…っと、そう言えばカイネの姿が見えねぇな。コノハ、あいつ何かの作戦で出掛けたのか?」
ひとしきり喜んだウェキスが訊ねると、コノハはかぶりを振った。
「いえ。暇だから行くと言って。気が向けば戦うと言っていましたが。」
「気が向けば、か。ったく、やる気あんのかねぇのか分かんねぇな。」
溜息を吐くウェキスだけど、やる気のなさは自分も同じだってことで、それ以上は言わなかった。
と、部屋に突然音楽が流れた。
「ん?何だ?」
「私です。」
発信源はコノハのポケットだった。
彼女はそこから携帯電話を取り出した。
メールのようで、それを読むと立ち上がる。
「出掛けます。留守をお願いしますね。」
「は?何だよ急に。って、お前そんなの持ってたっけ?」
「買いました。…セット、オープン。」
コノハの声と共に彼女の服が変化する。
いつもの地味な長袖ロングスカートって格好じゃなく、白いタートルネックのセーターにライトブラウンのロングスカートだ。
首元にはお洒落な羽根の形をしたシルバーアクセサリーが揺れている。
そして右目も葉っぱじゃなく、包帯で隠してある。
お陰で葉っぱでは隠しきれないでいた傷跡も完全カバーだ。
「おい、そんな服初めて見たぞ?お前一体何を、」
「これも買いました。詮索は不要です。では。」
シュイン…
数々の謎を残し、コノハは消えた。
残されたウェキスは1人、首を傾げる。
…そういえば前の作戦から帰ってから、コノハの様子がおかしかった。
いつも無表情で憮然としていたのに、表情に柔らかさが出てきたみたいで…。
「…ったく、女ってのはつくづく分からんモンだ。」
ウェキスは大きく溜息を吐き、そして苦笑した。
「ま、それがいいんだが。」
…女好きだった。




