3-15.ファントム茸の脅威
「うん、いい町並みだ。緑も多いし、空気も悪くない。でも、ここは一体どこだろう?」
駅から歩いて20分、例の青年は表通りからちょっと外れた道を歩いていた。
時間がないとか言ってたけどバッチリ道に迷ってるあたり、彼の脳味噌があんまり高級じゃないことを示している。
と、彼の耳に衝撃音が聞こえた。
…角を曲がった辺りだ。
「…?」
何だろう?って感じた青年は、穏やかな足取りのまま、音のした方へ歩き始めた。
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「…っ!」
コノハは膝をついたままファントム茸を睨んだ。
あれから何回転ばされたことか、服が汚れてしまっている。
「ほれ、立ち上がるモエ?転ばすモエけどね?キノッコッコッコ!!」
いい気になったキノコ野郎は余裕の表情で彼女を見下ろした。
「…立たなければいいだけのことです。貴方の技は、破れました。」
コノハが息を整えながら言う。
その証拠にさっきからファントム茸は転べと言ってこない。
弱点発見♪と思ったのも束の間、キノコは笑みを浮かべた。
「オイの力をこの期に及んでまだ舐めてるモエか。」
そして背中から大量の画鋲を取り出す。
「…?」
不思議そうにするコノハ。
ファントム茸はその画鋲を彼女の周りに投げ捨てた。
「キノッコッコッコ!!転ぶモエ!!」
コノハの身体が意思とは無関係に勝手に立ち上がり、そして…、
どすん!!
転ぶ。
周りに落ちていた画鋲が彼女の体に突き刺さった。
「くぅっ!?」
彼女は今日初めての苦悶の声を漏らす。
いつもは無表情なのに痛そうな表情もした。
ある意味快挙だ。カイネやウェキスが見たらさぞ驚くことだろう。
「キノッコッコッコッ!どうだモエ?座ってればとか寝てれば大丈夫とかは通用しないモエ!ダークキャン・D四天王も大したことないモエ!!」
爆笑するファントム茸。
ふいにその笑い声が止んだ。
「…もういたぶるのも飽きたモエ。」
カチャッ…
最初に取り出した、例の漫画チックな銃を抜く。
そして銃口をコノハに向けた。
「死ぬモエェェェェェェェェ!!」
コノハは自分に銃口を向けるファントム茸を見る。
あの銃、確か加速石ころ銃だ。
凄まじいスピードで放たれる石ころは、『この状態』の自分では防御しようがない。
当たれば多分…死ぬ。『この状態』ではダメだ。
『この状態』での死は『あれ』に暴走状態でなってしまうことを意味する。
そうなれば全てが終わりだ。
全ての計画、全ての想いが無に帰してしまう。
…このままでは。
「くっ…!!」
コノハは唇を噛んだ。
悔しい。こんな下等生物に…、
ポヒュンッ!
あんまり緊張感のない、でもやたらと大きな音が辺りに響いた。
ドサッ…
そして何かの落ちる音。
それは無残にも脳天に大きな穴が開いたコノハさんの遺体…ではなかった。
「…え?」
コノハは目を見開く。
彼女の瞳には誰かの背中が映っていた。
「…凄い威力だね。おかげで僕のパソコンがオシャカだよ。仕事用の特別頑丈なものだったのに。」
その誰かの手には大きな穴の開いたパソコンバッグがぶら下がっている。
どうやらさっきのドサッって音は中身のパソコンが落ちたものだったようだ。
「アンタ、何だモエ!?何でオイの邪魔をしたモエ!!」
んで、コノハ殺害を邪魔されたファントム茸が金切り声をあげた。
コノハは自分を庇った誰かの背中を見る。
すると、その誰かはファントム茸の質問に答えた。
「当たったら大変なことになっていたんだよ?ダメじゃないか、女性に酷い事をしちゃ。」
やたらと穏やかな声だ。
言い換えると緊張感のない声。
「当てようとしてたんだモエ!だから当たってもいいんだモエェェェェ!!」
「…なるほど、確信犯か。そうすると君は悪人かな。」
「そうだモエ!!っていうか、アンタは何なんだモエ!これ以上邪魔すると、アンタも殺すモエよ!?」
ぷっちんしたファントム茸は銃を再び構え直す。
「殺されるのは嫌だよ。でも、邪魔はする。人殺しの邪魔なら、いくらでもね。」
刹那、壊れたバッグを投げつける。
ファントム茸が一瞬怯んだ隙に、青年はポケットから液晶クリーニング用のスプレーを取り出した。
静電気除去成分たっぷりの泡が勢いよく吹き出し、キノコの視界を奪う。
「ぬおっ!?目、目が!!」
「人体に害はないから安心していいよ。」
言いながら青年はキノコの手を蹴飛ばす。
しかし相手はダークキャン・Dの怪人だ。
普通なら銃を落とすはずなのに、微動だにしなかった。
「え?…なら!」
バシッ!
銃を奪うのを諦めると同時に顔面へ蹴りを叩き込む。
しかし…またしても手ごたえがなかった。
「無理です!退いて下さい!」
後ろから声がかかる。
青年はその言葉に従い、キノコから飛び退いた。
「やあ、大丈夫かい?」
青年はコノハの隣に来ると、座り込んでいる彼女に手を差し伸べた。
「ありがとうございます。ですが、立ってもまた転ばされますから…。」
「?…言ってる意味が分からないけど、無理なら休んでいた方がいいかもね。」
笑顔のまま手を引っ込め、彼はコノハの服に付いた無数の赤い染みを見付けた。
画鋲の上で転ばされた時のものだ。
しかもそれ以前に何度も転ばされたせいか、服は汚れている。
「…これは、彼の仕業かな?」
「え?はい、少し油断をして。ですがもういいです。これは私の撒いた種。ファントム茸は私が何とか、」
そこまで言った時、コノハの前にハンカチが差し出された。
電車の中に忘れ、女の子が拾ってくれた例のアレだ。
「傷口をこれで。…見たところ、結構酷い目に遭わされたようだね。キノコの着ぐるみなんてファンシーな格好しているけど…酷い人だな。ああいう危険な人はどうにかしないと。」
穏やかな口調なんだけど怒気を孕んでいる。
「あの、貴方は逃げて下さい。あれはダークキャン・Dを裏切った怪人です。普通の人間はダメージを与えることができません。貴方では無理です。」
ハンカチを受け取りもせずコノハが言う。
でも青年は笑顔でかぶりを振った。
「怪人…?まあ、僕の攻撃が通用しないことは分かったよ。でも、逃げるのは嫌だな。君みたいなか弱い女性を放って置いてなんてね。」
「…私が…か弱い女性…?」
青年のちょっぴりクサいトークはそこで中断された。
ようやく泡を拭い終えたファントム茸が気を取り直したのだ。
「むぉぉぉぉぉぉぉっ!邪魔しやがってぇぇぇぇ!!人間、オイは怒ったモエ!!2人まとめてブチ殺すモエェェェェェェ!!」
なぜか銃を放り投げ、突っ込んでくるキノコ野郎。
青年はハンカチを半ば無理矢理コノハに渡すと、それを迎え撃った。
「キノコ蹴りモエ!!」
ぺしゃん
威力ゼロの蹴りが青年の腹に当たる。
さっきみたいに脚が拉げないのはダークキャン・Dの特性が働いているせいだろう。
でも、青年にダメージを与えるには至っていないようだ。
「これ以上は傷付けさせない!」
ぽふっ
ダークキャン・D怪人の特性で青年のパンチも無力化された。
どっちの攻撃も効かないってワケだ。
凄まじい攻撃の応酬だけど、両方ともダメージゼロ。
それでも2人は殴り合いを続ける。
傍から見たら凄い戦いだ。
「…。」
そんな無謀な戦いをコノハは無言で見詰めている。
少し何かを迷うような表情をしたが、やがて意を決したように頷いた。
そして、ポケットから30cmほどの棒のようなものを取り出し、叫ぶ。
「これを!これを使って下さい!!」
叫んだのだ。
コノハが。ク○ラが立った並の快挙。
でもその快挙を凄いって思うヤツはあいにくここにはいなかった。
「!!」
声に反応し、青年が彼女の方を向く。
コノハはその棒みたいなのを投げた。
ナイスキャッチ。
なんとも家庭的な木製の果物ナイフ?だ。
シュッ!
どうせ当たっても効かないから避けなくてもいいんだけど、青年はファントム茸の攻撃をかわしながらそれを抜く。
刹那、半分になった棒の片端から緑色の光の刃が発生した。
抜くまでは100円ショップで売ってそうなモノだったが、そこは宇宙技術の結晶。
ビーム果物ナイフだったようだ。
「すまない。」
謝罪と同時の攻撃。緑の刃がファントム茸の頭に突き刺さった。




