1-3.2人目の戦士
「…え?」
湖に飛び込んだつもりが、何故か崖からダイビングしたことになってる。
綾は一瞬、空中で固まった。
…このままだと地面と熱いキスを交わすことになる。
んなことしたら、(違う意味で)お嫁に行けなくなるだろう。
しかし、綾は整形外科の世話にならずに済んだ。
ぐしゃ!
受身もできなかった彼女を、下にいた週一が抱きとめたのだ。
…というか、クッションになったのだ。
「び、びっくりした…。」
綾は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして声を漏らす。
「あ、綾、大丈夫か…?」
彼女の座布団状態の週一が声をかける。
綾はそれでなんとか我に返った。
「え、うん。何とか。」
「…良かった。じゃああとは、どいてくれると僕もハッピーかも。」
「あ、ごめんね。」
綾はそれほど気にした様子もなく、週一を座布団から人間へ戻した。
そうしながらも自分たちのいるこの『空間』を見回す。
「…。」
「…。」
そしてしばし顔を見合わせる2人。
でも、このまま無言でいてもアレなんでって、綾が口を開いた。
「…ええと、ここって湖…なの?」
「違うみたいなんだ。確かに崖?の上からは湖に見えたけど、あんないかにも怪しげな建物もあるし…。」
「…。」
「…これは確実に僕らみたいな一般人が首を突っ込んでいい事じゃないよね。政府に知らせるなり、知らせたら消されるって勘ぐって一生黙って墓にまで持ってくなりしないと。」
「…ふふ。」
と、今まで事の次第がよく分からず、ひきつり気味だった綾の顔が綻ぶ。
「ど、どしたの?」
「研究内容、早速決まったじゃないの!まさに怪我の巧妙!!」
「はァ!?研究内容ってまさかアレ…、」
「A評価間違いなしだね!!さあ!レッツゴ~!!!」
そう言うと、綾は何かに追われるかのごとく凄まじい勢いで神殿へ走った。
「ちょ、ちょっと待・・・、」
週一も慌てて走り出した。が。
バシュッ!!
足元に何かが放たれ、綺麗な穴が開く。
「うわっ!?」
「侵入者発見だみゃぁ~~~~~。早速任務開始するみゃぁ。」
で、聞こえる妙な声。
週一は、ふと後ろを振り返った。
「う、うわぁ!」
情けない声を漏らす週一。でも無理はない。
そこには、巨大な一つ目玉に無数の触手を付けた、何ともキモい怪物が宙に浮かんでいたのだ。
「おみゃぁ~~~、よぅ入り口見つけたのぉ~?この前来とったヤツらは誰一人発見できんかったんに、運がいいのか悪いのか。」
この前に来ていたヤツら…政府の調査チームのことだ。
どっかの方言っぽい日本語を操る怪物はさらに続けた。
「それにしたってショボそうだみゃぁ、自分?もうちょいマシなのが来るとばかり思うとったんだけどみゃあ。」
イマイチ状況が掴めないが、こんな場面に直面した時、正義の味方の選択肢は二つしかない。
『敵だ!倒せ!!』か、『味方に違いない!!』だ。
週一は2番を選択した。
というか、このシチュエーションには覚えがあった。
「ええと、話の途中でゴメン。まさかとは思うけど、あんたって守護者?」
「?…何で分かったん?」
…やっぱり。
彼は溜息を吐いた。
数週間前に(とある事情から)入ってしまった洞窟、そこで彼は異空間じゃないの?ってな場所で、意味不明な存在に遭遇したのだ。
ただし、そいつはこんなキモい怪物じゃなく光の球だったが。
「やっぱり!!アレの言ってたこと、本当だったんだ…。」
「?な~に言ってるかさっぱりだみゃ。とりあえず任務開始みゃぁぁぁぁぁ!!」
目玉怪物がそう言い放った瞬間、週一の頬を一筋の閃光が掠めた。
…び~むってヤツですか?
そして頬から流れ出る赤い水滴。
もしかしなくても、冷静に話し合えるような相手じゃないようだ。
悟った途端、彼はその場に身を伏せた。
ビュッ!
間一髪次撃をかわす。
見切ったわけじゃない、運でかわした奇跡の回避だ。
しかし安心してはいられない。
すぐにまた次の攻撃がくるからだ。
「ちょっ…!!ストップ!!話せば、」
バシュッ!!
やっぱり無理だ。
彼は辺りを見回す。
目に入ったのは丁度よい岩だった。
週一彼は咄嗟にその岩陰に隠れた。
そして岩に背もたれ、半泣きで手にしたバッグを握り締める。
…絶対100%変身したって勝てそうにない。
でも、やるしかない。
「だからこんなレポ調査気が進まなかったんだよ…!」
週一は岩陰から飛び出すと、バッグを掲げた。
「おっ?やる気になったかみゃ~?」
目玉怪物は相変わらずやる気のなさそうな口調で迎えてくる。
「接着!!」
本日2度目!出血大サービス!そんな気持ちで週一はバッグに頭を突っ込んだ。
「進化の道筋逆走し、脊椎蹴って無脊椎!下等生物戦隊!ウゴクンジャー!!」
あんまカッコよくない掛け声と共に、ウゴクンジャー蟹が姿を現した。
「行くぞ、目玉お化け!正義の力を見せてやる!」
格闘術経験皆無バレバレの構えをとり、蟹は叫ぶ。
ハッタリだと素人にも分かる虚勢。
しかし、相手は攻撃してこなかった。
「…?」
蟹は拍子抜けして構えを解く。
「おみゃぁ…そのタクティカルフレームは…!」
「え?もしかして冷静に話せる状況になったとか??」
…天は我に味方せり!!とか思ったその時。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」
あっちの方から女の悲鳴。
悲鳴をあげる該当者、約一名!週一の頭の中でそいつの姿がクローズアップされた。
「!!あっ、綾!?」
「あっ!どこに行くつもりだみゃ!?」
週一はガン無視し、そっちの方へ走った。
…しかし。
「あ…あれ?」
そこには倒れ、消滅しかかっている方々。
週一をいつも袋にしている憎くきヤツらに酷似した戦闘員の皆さん。
綾は叫びつつも大丈夫なようだ。
というか、見ている前で最後の戦闘員を殴り飛ばした。
「(そういや綾って合気道やってたんだよな)…だ、大丈夫?綾…?」
拍子抜けしつつも、優しく手を差し出す週一。
…が、
「うぐッ!?」
次の瞬間、急に謎の力が彼を地面に叩き付けた。
(だ、第二の敵か…?)
しかし彼をねじ伏せた“謎の力”とは紛れもなく綾のものだった。
全身真っ赤なタイツを着た週一を敵と見なしたのだ。
「いやぁぁッ!!来ないでッ!!」
「げふぅぅぅ!?」
ぶん殴られ、吹っ飛ぶ。
そしていい具合に目玉の前に転がった。
「追い付いたみゃ~!」
「あ、あはは…。」
週一はマスクの下で引き攣った笑みを浮かべる。
戦いは避けられそうにない。
「事情は何となく分かったが…お前を試すみゃ!」
目玉の触手がうねうねと、ちょっぴりHな動きで迫る。
どうやら、綾をどうこうする前に、こいつを倒さなきゃいけないっぽい。
「絶対無理!」
週一、いやウゴクンジャー蟹は情けない構えをとった。
「でもやらなきゃやられるし!やけくそパンチ!!」
とか言いつつ、蟹はパンチを繰り出した。
絶対避けれますって保証書付きのパンチだったが、どういうわけか当たった。
というか、目玉の方から当たりに行った。
ポコッ!
何とも頼りない音でパンチは目玉怪物にヒットする。
これではダメージゼロだろう?
「やられたみゃ~。」
でも目玉はやる気のなさそうな叫びをあげた。
が、やっぱりダメージはないっぽい。
「…え?」
「うわ~~~次の攻撃が来そうみゃぁ!でもダメージ硬直で動けないみゃ~~~!凄いピンチだみゃ~~~。」
「…。」
蟹は沈黙した。やな沈黙だった。
しかし、これだけははっきりした。
奴は、真面目にやろうとしていない!!
真面目じゃない相手なら何とかなる!!蟹は独りで頷き、目玉怪物に飛びかかった。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
ポコポコポコポコ!!
様々な角度、様々な場所へと威力皆無な連続攻撃が炸裂する。
案の定、敵さんは微動だにしなかったが・・・。
「ぎゃぁぁぁぁっ!や~ら~れ~た~みゃぁぁぁぁ~!!!」
時代劇に出てくる悪代官の断末魔みたいなざ~とらしい叫びを一拍遅れてあげた。
そしてよろよろと後ずさる。
「ぐふっ、もうダメみたいだみゃ…。仕方ない、おみゃ~を認めるみゃ…。」
ちょっぴりニヒルに目玉怪物は言った。
「じゃあ、わしの使命は果たしたみゃ。もうこんなシケた隔離空間とはおさらばみゃあ。第二の人生は南の島でのんびり生きるみゃぁ♪」
ついでに奴はこう言った。で、もの凄い爽やかな笑顔を残して消えていく。
「…それが目的だったワケだね…。」
実に空しい気持ちになりながら呟く週一だったが、ハッと本来の目的を思い出した。
「そうだ!綾!!」
…戦闘員を軽くのした綾ならお前より頼りがいあるって。ギャラリーがいたらそう言ってくれるだろうけど、今の蟹の脳味噌(蟹味噌)は、んなこと全然考えてない。
女の子は弱いものという時代錯誤的発想で動いていた。
しかし一応心配する必要はある。
戦闘員いるってことは、怪人がいたって不思議はないわけだし、あの神殿内にトラップがないとも限らない。
ただし、蟹が行って果たして助けになるかどうかは別問題であるが…。
タクティカルフレームが元のバッグに戻り、蟹は週一の姿に戻る。
「綾、今行くから…!」
彼は似合わないシリアス顔で呟くと、綾が入っていった神殿へと駆け出した。
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「明るい…?」
週一は神殿の中に入ると、まずその明るさにビビった。
見たところ、その“明るさ”は神殿の奥のほうから発されている光のせいのようだ。
(この光…もしかして…『アレ』がいるとか…?)
そんな予感を抱きつつ、週一は再び歩き出した。
そこに。
『…いち…』
「えっ!?」
突如聞こえた厳かな声に、周りを見回す。
『…週一…』
その声は前方から聞こえ、それはだんだんと大きくなっていく。
「…。」
週一は立ち止まった。
「やっぱり…!!』
『…週一…いえ、ウゴクンジャー蟹…』
声の主は、『光』。
冒頭で週一と対峙していた光の球だった。
『再び会うことになると、信じていましたよ…最初の戦士よ。今、この地球に大変なことが起こっているのは知っていますね…?』
「…ダークキャン・D襲来、だろ?まさかホントだとは思ってなかったよ…。」
『今この状況を救えるのは、あなた方しかいないのです。』
「いくら待っても仲間が現れないんだけど?」
厳かな口調で話す光と、全く緊張感のない週一。
『…敵の名は“ダークキャン・D”。宇宙の最果てで封印されていた破壊神…。」
「初めに来た時、自己紹介してたけど、破壊神じゃなくて悪の皇帝だって。」
『…彼らの目的は1つ。この地球の完全なる支配です。その力は、』
「って、ねえ、」
『…そして私はタクティカルフレームを守る守護者を各地に、』
「…その話、前回と一緒、」
『…最初の戦士が受け取ることで全ての隔離空間への扉が、』
「…あ~。」
光が一方的に話し続けること1時間。
『…鈍行列車で揺られるのが快感に思えてきたダークキャン・Dは…、』
(こ、こんなことしてられないな…。)
週一は、気付かれないように抜き足で逃げることにした。
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「綾、大丈夫かな…。絶対手遅れだし、無事でも完全に怒ってるだろうし…。」
光の球から脱出に成功した週一は溜息連発しながら、早足で神殿内を歩いていた。
神殿内にも戦闘員の皆さんがウロウロしてると予想していたのに、実際は一人も見かけない。
辺りは氷の如くし~んと静まり返っている。
「…でも、あの光は何なんだ?前と同じこと言ってるし。自己中だったし。」
週一は歩きながら考えた。
と、その時。
「週一君!!」
聞きなれた声。綾だ!
彼は声のした方向を向く。
「綾…って、誰だよ!?」
彼の目に飛び込んできたのは、茶色のタクティカルフレームだった。
額と胸元には、なんだか投げやりな感じでカブト虫が描かれている。
「私よ、綾!見て、週一君!!凄いモノ手に入れちゃった!!」
…装着しているのは綾のようだ。
週一は大きな溜息をついた。
「綾…。」
安心感と同時に、ちょっぴり物悲しくなった。
自分が必死こいて探してる中、こいつはタクティカルフレームを手に入れてはしゃいでいたのか?
「何か、取り扱い説明書がついててね、この姿はウゴクンジャー甲虫っていうんだって。」
甲虫はイエイって感じで親指をビシッと立てる。
「甲虫?それにしても…。」
週一はそこで口篭った。
…何で僕は蟹で、綾のはカブト虫なんだ?
加えて綾って女の子だろ?スーツの絵、明らかにオスのカブトじゃん。
ついでにどう見たって綾の方がカッコいいデザインだった。
同じようなタクティカルフレームでも蟹と甲とでは雲泥の差がある。
ってか、デザイン以上に綾の方が装甲が厚い。
(ウゴクンジャー蟹って一体…。)
複雑な思いの中、空しさが込み上げてくる。
だが週一は意外にも立ち直りは早い。
すぐにそれまであった哀愁の表情はすぐ消えた。
(ま、いっか。似合ってるし、レディファーストだし。僕、蟹好きだし。)
「似合ってるよ。綾。」
「そう?ありがと~!」
甲虫はそう嬉しそうに返した。
しかしその瞬間、週一は何かに驚いたように叫んだ。
「あ、綾!ひょっとして綾が2人目のウゴクンジャーなのか!?」
…考えてみれば反応が遅かった。
本来なら彼女が着ているスーツを羨ましがるよりも先に2人目の戦士が現れた事に驚くべきだった。
…週一らしいけど。
「2人目?どういう意味?ウゴクンジャーはもう1人いるの?」
そう訊ねられて週一は口篭る。
これまでずって秘密だった事を言うのは多少抵抗があるようだ。
だがもはや、違う。
相手もウゴクンジャーなら秘密にするのはアホだし、何よりあの光の球は仲間を見付けろとか言ってたような。
「うん。もう1人のウゴクンジャー。それは…、」
週一はゆっくりとバッグを掲げた。
そして、頭から突っ込む!
「!!?」
甲虫は引いた。
そりゃそうだ。
この行為を見て引かない奴はいないだろう。
「接着!!」
しょぼい光と共に週一はウゴクンジャー蟹に変身した。
「僕が最初のウゴクンジャーさ。名前はウゴクンジャー蟹。ダークキャン・Dと戦う正義の味方だよ。」
【初登場キャラ】
・目玉怪物(守護者)
・光
・ウゴクンジャー甲虫




