3-13.天然のフェロモン分泌野郎
『…それと、』
ふいに真剣な表情になった水面がディスプレイに顔を近付ける。
内緒話っぽい感じだ。
だから週一もそれに応えた。
僻んでる綾の目を盗み、携帯電話に耳を近付ける。
『多分、あと少しでオトせるから!今度食事にでも誘ってみたら?何なら私がレクチャーして、』
そこまで言った時、沙紀の声が割って入る。
『ミナ?何コソコソ喋ってるの?』
『え?あ、何でもないの。あははっ♪じゃあ、沙紀に戻しますね。』
何だか白々しく水面は言い、画面が沙紀に替わった。
『センパイ、ミナ何て言ってたの?』
「よく分からんことを。」
週一は小首を傾げながら答えた。
隠してるわけじゃない、本当にどういう意味か分からんのだ。
脳味噌が蟹味噌だから。
『…ま、いいわ。そういうことだから、一旦切るね。』
ピッ!
ディスプレイから沙紀の姿が消え、週一の待ち受け画面…例によって蟹だが、それに切り替わった。
「これで実質的にウゴクンジャー海月は引退かぁ…。新たなウゴクンジャーのメンバー考えないと。」
「憬先生でいいんじゃない?ど~せヒマだよ。きっと。」
「聞いてみよう。」
ちょうどいいタイミングでドアが開き、にこにこ笑顔の憬教授が入ってきた。
携帯をいじっているところから、水面からのメールを読んだようだ。
「あ、先生。」
「週一君に綾さん。水面さんが旦那さんの実家へ帰るそうですね。うん、入院費もばかになりませんし、やりくり上手です。」
憬教授はそう言うと冷蔵庫からオレンジジュースのペットボトルを取り出す。
そしてそれをコップに注ぐと、コーヒー用のミルクを加えた。
…まあ、この人のやることにいちいち驚いていたら持たないってんで、2人とも静観するに留めてる。
「ふぅ。新しい味ですね。まぁまぁです。…あ、今日は冥介君は来てないんですね。いつもは一番最初にいるんですけどねぇ。」
「八又乃さんなら隣の哲学研究室でピアノ弾いてます。もう少ししたら来るんじゃないかな?それより先生、ウゴクンジャークラゲのチェンジユニットなんですけど…。」
きっと自分がなるって言うと思った週一&綾だが、憬教授はかぶりを振った。
「私はダメですよ。何たってチーフですから。戦隊ヒーローの博士が戦うのはダメです。」
…そういやそうだった。
戦闘後に食事をおごってくれるだけの存在だと思ってたけど、最初の設定では彼女はチーフだったのだ。
忘れてた。
「そうですか…じゃあ、どうしましょう?」
この日、ウゴクンジャー本部成立以来初めての…まともな議題が持ち上がった。
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電車のドアがプシュ~って音を立てて開く。
その中からけっこう背の高い青年が降りてきた。
「電車にこんな長い時間乗ったのは久しぶりだな…。」
誰もが振り返る二枚目ってわけじゃないけど、女性10人中6人は振り返るんじゃないかっていう容姿の青年だ。
でもやたらと穏やかな表情、というか微笑みのおかげで爽やかさが倍増、物凄くカッコよく見える。
笑顔美人ならぬ笑顔二枚目って感じだ。
「あ、落としましたよ!」
出てきた彼を中学生っぽい女の子が追ってくる。
手にはハンカチを持っていた。
「ん?」
青年は振り返る。
そして微笑むと差し出されたハンカチを手に取った。
「ありがとう。君は優しい人だね。」
「え?あ、い、いえ…。」
女の子の頬が赤くなる。画面効果でキラキラが舞ってもおかしくないほどの笑顔にノックアウトされたようだ。
プシュ~
硬直してたもんだから電車のドアが閉まった。
でも女の子はうっとりとその青年を見詰めたまま未だフリーズしてる。
電車がガタンゴトン走り出してもだ。
「…っと、時間がないんだった。」
突然思い出したように青年は呟いた。
そして再度ハンカチの女の子に輝く笑みを向ける。
「それじゃ。ありがとうね。」
で、2度目の礼を述べると、そのまま踵を返して去って行った。
…キザってわけじゃないが、何かアレだ。
そう、天然のフェロモン分泌野郎。
大多数のシングル独男さんたちの敵。
そんなヤツが何故にこの街に?
その疑問が解決する日は…案外近い。




