3-11.悪の組織と難解な授業
ダークキャン・Dの要塞。幹部特別室(通称:居間)は今日もまったりとした空気が漂っていた。
相変わらず盆栽をいじってるウェキス。
テーブルでココアを飲んでるコノハ。
そして軍服っぽい服の上からピンクのエプロンを着て何やら料理しているカイネ。
こいつらを見て悪の組織の幹部だって分かるヤツはまずいないだろう。
「そういえばコノハ、お前のアカデミーガム、全滅したそうだな。」
野菜炒めの味見をしつつ、カイネが言う。
「貴女のデスチクワだってやられたじゃないですか。」
やっぱり無表情のコノハがクロワッサンを齧り、反論する。
「どっちもどっちってとこだな。ま、俺もパラソル野郎がやられたから言えた口じゃねえけどさ。」
盆栽を満足そうに眺め、ウェキスが笑って言った。
ダメだ。緊張感なさすぎ。
本気で世界征服を企んでるとは到底思えない雰囲気だ。
「…ところでよ、カイネ。お前ってこの前から弁当とか作ってるけど、結局誰にやったんだ?俺にくれるとばかり思ってたんだが一向によこさねえし。」
「ああ、まだ誰にもやってはいないぞ。練習中だ。今は自分で食べている。」
カイネは応えながらフライパンを振るった。
卵焼きが宙に飛び、5回転くらいした後に再びフライパンの中へ着地する。
料理とかはからっきしのタクティカル女と見られがちなカイネだが、けっこう器用だ。
これで軍服っぽい制服を着ていなければなかなか様になって見えるだろう。
「練習中か。なるほどな。じゃあ、練習が終わったら当然俺にくれるんだろ?モテる男は辛いぜ。」
「寝言は寝て言え。」
ニタニタ笑ってるウェキスにカイネはぴしゃっと言い放った。
「…。」
ちょっぴりへコむウェキス。
無表情だったコノハの口元が少し綻ぶ。
「…ご愁傷様です、ウェキス。」
「そう思うんだったらお前が俺に愛の籠もった弁当作ってくれ。」
「いやです。」
…沈黙が辺りを包んでいた。
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「ここがこうなって、ですから原子の結合力が弱まるわけです。そこへラチルカーボンを加え、37倍の圧力と2580度以上の熱を…、」
教室に何やら難解な講義が響く。
理系の講義のようだが、教壇に立っているのは憬教授だった。
そう、これは社会情勢学の講義だ。
今日の憬教授の暴走はいつもより凄まじく、なぜか聞いたこともない特殊鋼の作り方を説明している。
でもこんな授業にも関わらず真面目学生はせっせとノートをとっているから不憫でならない。
ちなみに『女体の神秘』を発表し損ね、教室の隅っこに貼った例のアホ学生たちの姿はない。
資料と称してエロ本からの切抜きを貼り、学生部に呼び出しを喰らったままそれっきり帰ってこないのだ。
まあ、自業自得ってヤツだが。
「…以上がレデン鋼の組成と作り方でしたぁ♪うん、みんな静かにいい子で聞いてくれてありがとう。お陰で質問タイムが取れますね。何か質問はありませんか?」
…質問って言っても、こいつらは理系じゃない。
いきなり意味不明に難しい理系講義をされてもどうしようもないのだ。
「はい!」
でも手を挙げる酔狂な真面目学生がいた。
「はい、眼鏡が素敵な2年F組の山田君。」
2年F組の山田君は人差し指で眼鏡をカチャって押し上げると起立した。
「どうしてもラチルカーボンと水化銀オニリウムの反応が分からないのですが…。」
だから分かるワケないって。
憬教授はいい質問ですね、と微笑んだ。
「それはですね、ここはとても難しいです。とりあえず、オニリウムの組成から考えるといいのですが、それは大学院生になってから習うので今は知らなくてOKですよ。」
「なるほど…。」
山田君は納得したように手をポンと叩き、着席する。
「さて、もう質問はありませんね。じゃあ、今日の講義はお終いです♪」
こうして今日も学生たちの溜息渦巻く中、不毛な講義は終了した。
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「F組の山田君って頭いいのか悪いのか分かんないよね。」
例の如く社会情勢学研究室に向かって歩きながら綾が言った。
「でも真面目なのは確かだよ。うん、きっとあの勤勉さが将来実を結ぶに違いないな。」
週一は山田君の顔を思い起こすように目を閉じ、うんうん頷く。
「っていうか、あれで報われなかったら悲惨すぎるけど。」
「でも去年の哲学、落ちたって。あんまり成績はよくないみたいだよ。私、この前ノート見せてもらったけど、なぜかロシア語で4コマ漫画が書いてあったの。日本文学の講義だったのに。」
「…ホントに彼、真面目なのかな?」
「どうだろね。」
山田君の話題が尽きかけた時、2人は社会情勢学研究室、通称ウゴクンジャー本部へ到着した。
と、その耳に何だか柔らかなピアノの音色が聞こえてくる。
隣の部屋だ。
確かそこは哲学研究室。教授が音楽サークルの顧問で、研究室兼部室になっている。
最近は部員を軽音部や吹奏楽サークルに奪われて可哀相なことになっていたはず。
「哲学の澤田教授って、音楽好きだけど演奏の方はからっきしっていう単なる音楽好きのおじいちゃん先生だったよね?こんな上手く弾けたっけ?」
「無理無理。たまに音程外れたドレミのうたが流れてたけど、こんなの無理だよ。部員も確かタンバリンしかできない子が1人いただけだったし…。」
では一体誰が?季節外れの新入部員?
珍しいものを見るためだたら単位をうっちゃってでも行くというアホ2名は、好奇心丸出しで哲学研究室のドアに手を掛けた。




