3-10.語られるヒーロー誕生秘話?
「ふぅ、ようやく終わったね。」
ようやく全てのアカデミーガムを始末し終えた沙紀は大きな安堵の溜息を吐いた。
「塩もなくなったし、これ以上出てきてもらっても困るけど…。」
一方の週一は何だかいい笑顔をしていた。
そう、アカデミーガムは彼が自分の力だけで倒せた唯一の敵だったのだ。
チンパンGに袋にされ、カオスチョコボールにさえ馬鹿にされた彼にとってこの勝利はまさに快挙だ。
だから気前が良くなっていた。
「あ、そうだ。そろそろ小腹が減る時間だな、充実した戦いもできたし。」
彼は沙紀に向き直った。
「ハンバーガーでも食べよっか?僕がおごってあげるから。」
そんな週一に、沙紀は苦笑しながら頷いた。
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ハンバーガーを食べ終えて外に出ると、もう辺りは暗くなっていた。
駅の周りは商店街やら何やらでけっこう明るいけどちょと歩くと街頭もまばらな暗い住宅街になる。
沙紀にハンバーガーをおごったせいで電車賃を失った週一は、そんな住宅街を歩いていた。
電車を使えば10分でアパートだが、歩けば約2時間。
大変だ。
「お金なら貸してあげるのに。」
一緒に歩いてる沙紀が苦笑する。
彼女の家もこっち側なのだ。
車を呼ぶこともできるだろうけどなぜか徒歩。
ちょっぴり不思議に思ってた週一だが、多分ダイエットのためとかだろうってことで納得しておいた。
「ウゴクンジャーたるもの体力をつけなきゃね。だから歩く。どうせ今日はいい番組ないし。1人暮らしだから門限もないし。」
バカだけど週一君も一応男。
女に、しかも年下のやつにお金を貸してもらうのはいただけないってわけだ。
「…まあ、センパイ体力ないからいい運動になるだろうけどね。」
沙紀の呟きの後、少し沈黙が流れる。
人通りのない住宅街を並んで歩く2人。
知らない人が見たらアベックに見えるだろう。
…まあ、彼女イナイ歴が実年齢っていう週一は全然そういう発想を抱かなかったが。
でも、抱いた人がいた。
産婦人科からの帰り道を旦那様と一緒に歩いてた水面だ。
「あ…。」
丁度角を曲がる時に2人を発見した水面は小さく声を漏らす。
週一たちとの距離はおよそ200m、気付かれてない。
「あれは歐邑さんと蟹令李君。水面、声を掛けないのかい?」
彼女の隣にいる慎が訊ねるが、水面はかぶりを振り、微笑んだ。
「邪魔しちゃ悪いから。」
「?…ああ、あの2人は付き合ってるんだな。」
「ううん。付き合ってはないわ。」
「…どういうことかいまいち分からないんだけど。」
不思議そうにする慎に水面はくすっと笑って言った。
「ああやって育まれるものなのよ。私たちだって最初はそうだったでしょ、慎さん。」
「なるほど。見守るってわけか。」
「そういうこと。自分では気付いてないと思うけど、沙紀が男の人とあんなに親しくしてるの、今まで一度もなかったんだから。これはもしかすると、もしかするかも♪さ、私たちは別の道から帰りましょ。」
勝手な想像に笑みを浮かべながら海月夫妻はもと来た道を引き返していった。
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水面に見られたことなんて全然これっぽっちも知らない週一と沙紀は、取り留めのない話をしながら歩き続ける。
「で、ミナが財布を落とした穴っていうのがあたしらのタクティカルフレームが眠ってた洞窟への入り口だったってわけ。」
「へえ、2つ一緒にあったんだ。蝶とクラゲ、共通点なさそうなのに。」
「あはは、それはあたしも疑問に思ったね。で、訊いたらさ、『蝶は空を、クラゲは海を漂うように華麗に舞う存在。だから対となっている』だって。こじつけだね。」
「う~ん、それなら何となく納得っぽい答えだな。こじつけじゃないんじゃ?」
「守護者が何だかラブラブな犬と猫みたいなヤツでも?」
「あ~、本人達が一緒にいたかったからだな、確実に。」
目玉怪物もそうだったが、ヤツら守護者たる自覚があんまりないっぽい。
冥介が遭遇した守護者はどうだか分からないが…多分、似たようなもんだろう。
「それで、センパイはどこで?」
「海に蟹の観察に行ったんだ。そしたら引き潮で水溜りに閉じ込められてるワタリガニを2匹見付けて。でも入れ物ないから困ってたら洞窟を見付けたんだよ。」
「…洞窟と入れ物に何の関係が?」
「けっこう大きな洞窟だからね、ああいうのは人が入って遊んだりしてる可能性が高いんだ。で、ゴミとしてバケツとか落ちてる可能性も高い。…そう思って入ったら突然光の球が、ってわけ。」
「そこで侵略者から世界を守れって言われたわけ。センパイがよくOKしたね?」
「ううん、実はあんまり聴いてなかった。でも、蟹のマークが入った鞄くれるって言うから。ちょうど入れ物欲しかったし、選択肢なんてなかったけどね。」
「…まあ、らしいっていうか何というか。」
その後もてくてく歩き続け、ついに歐邑家の門前までやって来た。
「あ、歐邑の家はここだったっけ。」
今まで2回来たことのある豪邸だ。
その2回ともサワガニを貰うという目的を達成できなかった思い出がある。
「古い家でしょ。ま、あたしはマンションとかよりこういう日本家屋が好きだからいいんだけどね。あ、そういえばセンパイってまだサワガニ貰ってなかった?」
「うん。でも今日はいいよ。もう遅いし、虫カゴ持って来てないし。」
ちょっぴり未練だが仕方ない。サワガニはデリケートな生物だ。
準備もなく捕まえるのはいただけない。
「そう。」
ふぅん、と呟く沙紀。ほんの少しの沈黙の後、彼女は少し視線を外しながら訊ねた。
「そういえば、さ?…ここからセンパイの家まで、どのくらい?」
「徒歩だと多分1時間45分。ダッシュだと本当なら40分だけど、途中でバテるからやっぱり1時間45分かな。」
言った週一だが、自分の台詞に少しげっそりした。
高校時代も帰宅部さんで、大学入ってもやっぱり帰宅サークルに所属した身としては、1時間45分の徒歩はまさにフルマラソンだ。
途中で行き倒れるかもしんない。
「そっか。以外と近いんだ。」
「…?」
「あ。えと、15分歩いただけでバテてるセンパイには千里の道か。」
「ほっとけ。…んじゃ、僕はもう行くから。」
心情を読まれた週一は憮然として言うと、さっさと歩き出した。
寄り道してる暇はない。
いくら門限がないからって、夜の住宅街を1時間以上歩き続けるのは嫌なのだ。
怖いし。
「あははっ、そう膨れないでよ。…じゃあね。」
振り返らずに手だけ振ってる週一を見送りながら、沙紀は笑っていた。




