3-8.潮騒海岸の護り手と凶刃
週一と沙紀がアカデミーガムに塩を振り掛けている頃、冥介は潮騒海岸で戦っていた。
カカシタゴサークの遺体が埋まってる観測塔の下で目の前の敵を睨み付ける。
後ろには2名の女性が彼に庇われるようにして立っていた。
「防戦一方か。お荷物背負って、大変だなぁ?ひゃははっ!!」
ウニみたいな逆立った髪型の男がそんな冥介を嘲笑う。
顔や手足は人間そのものだが体がちくわだ。
「まぁ、いくらてめぇが本気でかかって来ようが、この俺『デスチクワ』に敵うわけねぇけどな?ひゃはっ!」
デスチクワはニヤリと笑って何やらゴソゴソやると、20cmほどのちくわを取り出した。
すると、ちくわの穴からピンク色の光棒が伸びる。エセビームサーベルだ。…カッコ悪いけど。
「マスター、気を付けて下さい。あの剣から感じるエネルギー、もの凄く邪悪です。」
庇われてる女性のうちの1人、日和が言う。
口調が変わっているのは多くのメモリーカードを入れてバージョンアップを繰り返したからだ。
でも例の鋼鉄の笑顔は揺ぎ無い。
その顔での真面目口調がなんともミスマッチだった。
「…日和、彼女を頼む。俺は…、」
冥介はどっから出したのか鉄パイプを抜いた。
「何とか足止めをしてみる。」
…もの凄くカッコよかった。
例によってマントみたいなジャケットを旗めかせ、海岸で謎の敵と対峙するハンサム青年。
でも相手がちくわ野郎だし、冥介はカッコだけの男だから微妙だけど…。
「冥介さん!!どうなってるの!?」
庇われてるもう片方の女性が声をあげた。
なかなか可愛らしいけどちょっぴりバカっぽい顔の少女だ。
彼女は砂浜に転がってる数体のチンパンGとデスチクワを見回すと、冥介の背に問い掛ける。
「…。」
冥介は答えずに鉄パイプを構える。
どっかの格ゲーキャラがしてそうなカッコいい構えだ。
まあ、確実に実戦向きじゃないだろうけど。
「冥介さん!!」
「マスターは誰もこの戦いに巻き込みたくないんです。分かって下さい。」
なおも訊ねる少女に、日和が言う。
そして彼女の手を取った。
「さあ、マスターが足止めして下さっている間に逃げましょう。」
「で、でも、」
少女がそう言った時、デスチクワが地を蹴って3人に斬りかかる。
「ひゃはぁっ!!させるかよっ!!」
「ッ!!」
ガキンッ!!
ピンクのエセビームサーベルを鉄パイプが受け止める。
なぜかパリパリ放電っぽい音がする鍔尻合いをしながら、冥介は2人に振り返らずに言った。
「…俺は護りながら戦うなんて器用な真似はできない。今は俺を信じ、逃げてくれ。」
ガッ!!
力任せにエセビームサーベルを押し返し、冥介とデスチクワに再び間合いが開く。
「わ、分かったわ。日和さん、お願いします!」
その様子にようやく納得した少女の言葉に日和が頷く。
2人は駆け出した。
「おっ!逃げる気か?させねえよ!!」
デスチクワが口元を歪め、エセビームサーベルを振り回す。
ピンクの光条が美しい軌跡を空に描いた。なかなかのカッコいい演出。
冥介といいコイツといい、カッコだけのヤツが今日は大活躍だ。
「宇宙剣術か…。なるほど、気が抜けそうにない。」
冥介は呟くと、鉄パイプを砂浜に突き刺した。
そしてゆっくりと右手を掲げた。
その掌にはあらかじめ書かれた『ヒュドラ』の文字がある。
どうやらカッコいい変身がいつでもできるようにしておいたようだ。
「ならば、こちらも本気でいかせてもらう!」
彼は腕をクロスさせ、一気に脇まで引いた。
ちなみにこういう演出は変身に必要ない。
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!接着ッ!!」
カッ!!
しょぼい光と共に、冥介はウゴクンジャーヒュドラに変身を遂げた。
「ウゴクンジャーヒュドラ、見参ッ!!!!」
「め、冥介さん!?」
日和と一緒に海岸を駆けていた少女が叫ぶ。
その視線の先には変身した冥介の姿があった。
「日和さん!!あ、あれは一体、どういうこと!?」
駆けながら訊ねる少女に対し日和は静かに、それでいて真剣な声で答えた。
「…マスターは宇宙からの侵略者、ダークキャン・Dと戦う正義の戦士なんです。巨悪に立ち向かう孤高の戦士、その真実は誰にも知られてはならないため、こうして影から命を賭して戦い続けているのです。」
…無茶苦茶だ。
ダークキャン・Dは別に巨悪でも何でもないし、仲間がいるから孤高でもない。
命なんて全然賭けてないし。でも少女は信じちゃったようだ。
「そ、そんなことって…!!」
「だから、あなたもこのことは誰にも喋らないで下さいね。マスターのために、そして、世界のために…!」
少女は真剣な表情で頷いた。
そして呟く。
「…冥介さん…。」
その表情は、99%の確率で恋する乙女のそれだった…。
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鉄パイプとエセビームサーベルがぶつかり合い、わざとらしい火花を飛び散らせる。
「ダークスラッシュ!!」
ヒネリのない技名を叫び、ただの突きを繰り出すデスチクワ。
「させるか!月鐘斬ッ!!」
対抗してヒュドラも意味のない技名と共にただの横斬りを放った。
ガキンッ!
再び飛び散る火花。
傍から見ると相当カッコいい戦いを繰り広げている。
2人は間合いを取ると、互いを睨んだ。
「ひゃははっ!その程度か!?ブッた斬ってやるぜぇ!!」
デスチクワは舌なめずりをしながらエセビームサーベルを振り回す。
切っ先がピンク色の光の軌道を描き、空中に『DETHE』の文字が浮かび上がる。
ちなみにコイツの持ってるエセビームサーベルに切断力はないから言ってることが実現する可能性は皆無だ。
「この俺をあまり甘く見るな…。」
そんな挑発に乗ってしまったのか、ヒュドラはゆっくりと鉄パイプを脇に持っていった。
何だか居合みたいな構えだ。
「…!!」
多分同じ波長の者にしか分からない殺気を感じたのか、デスチクワの顔から笑みが消える。
「八又乃流抜刀術奥義…、」
ヒュドラの声が波の音しかしない海岸に響く。
「うおっ!?こ、この『気』!!何かヤバい!!」
なぜか恐怖に引き攣った表情になったデスチクワはエセビームサーベルを握り締めると、それを振りかぶってヒュドラに向かって走り出した。
「ひゃはぁっ!技が出る前にブッた斬ってやるぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「…いくぞ。」
ヒュドラは小さく呟き、姿勢を低く構えた。そして、
「龍斬閃…ッ!」
胴体がガラ空きで突っ込んで来たデスチクワの横っ腹に、鉄パイプを叩き込んだ。
例の如く奥義って言った割にはスピードも威力も通常攻撃と大差なかったという。草々。
【初登場キャラ】
・デスチクワ




