3-2.慰安旅行と流行りの曲
所変わって…というか変わりすぎて月面。
憬教授に宛てられた手紙にあったように、ダークキャン・D御一行は慰安旅行に来ていた。
小型宇宙船で月面に着陸後、人類の皆さんが作った月面基地に乗り込んだのだ。
管制室にて対人監視レーザー機と浮遊型ガードロボを破壊し尽くしたカイネがそう通信すると、やはりこの月面基地からかっぱらった通信機からコノハの声が返る。
「ご苦労様でした、カイネ。ウェキスの植物プラント制圧も完了したようです。中央ホールに来て下さい。」
やりたい放題だ。
月の施設を全て奪い取り、勝手にレクリエーション施設に改築する。
でもまあ、コイツらは一応悪の集団だから略奪とかはしてもおかしいことではないんだが…。
と、目の前のモニターに突然人の顔が映った。
金髪のおじさんだ。送信しているのは…地球。
どうやらNUSA職員らしい。
監視カメラでカイネの顔を確認し、英語で何か叫んでる。
「…ほう、ようやく地球でもここの状況を把握したようだな。」
カイネは口元に笑みを浮かべる。
『お、お前らは何者だ!どうして月の施設にいる!?』
やっぱりパニックになってらっしゃるようだ。
モニターにはいつの間にかやたらと多くの人間が映っている。
地球のNUSA本部研究員の皆さまだろう。
「我々はダークキャン・D。この施設はすでに我々の支配下にある。貴様らは地球で見物しているがいい。」
『Oh!NO!!バカな!観測センターからは宇宙に何か飛び立ったという情報はないぞ!どうやってこの施設に!?セキュリティは!?』
「地球から小型宇宙船で15分だ。それに貴様らの低レベルなセキュリティなど、1秒もあれば破れる。まあ、1泊2日の予定だからな、明日の午後には解放してやる。…一旦はな。」
『…は?』
流石に意味をはかり損ねた職員たちが眉を顰める。
カイネは鼻で笑った。
その笑みはまさに悪の幹部そのもの。
でも、出た言葉は…、
「この施設は我々の手により『ダークキャン・Dわくわくふれあいパーク』となった。これから後、我々の慰安旅行の宿としてちょくちょく役立ててやる。安心するがいい。」
…地球制服を企む悪の組織。
本当に、やりたい放題だ。
でも…何かアレだった。
------------------------------------------------
綾は一世一代の決断を迫られていた。
まあ、彼女の一世一代なんてのは2日に1度はあるんだけど、とにかく綾にとっては重大な決断を迫られていた。
手にした2枚のCD。
『KIN=NIKU』っていう、2222年の日本ではバカ売れグループの5thアルバム。
そして『七樂 アイ』っていう、やっぱり2222年の日本でCD出す毎に1位をかっさらうっていう歌手の新作CDだ。
そのどっちを買うべきか悩んでいる。
「『KIN=NIKU』のアルバム、前から欲しかったんだけどなぁ…。でもシングル持ってるからアルバム買わなくても…でも、ファンとしてはそういうのってダメだし…。」
ず太いCDアルバムを眺めて呟いた綾は、今度は薄っぺらいシングルCDを見る。
「でもアイの新曲って凄くツボにはまってるから欲しいし…。それに流行に後れるのはイヤだし…。」
そんな時、聞き覚えのある声が耳に入った。
「本当にこんなモノでいいのか?お前たちの科学は理解できんな。」
「大丈夫ですってぇ♪記憶媒体なら何でもOKって説明書に書いてありましたし。」
…声からでも分かる二枚目とアホ娘のペア。
綾の知ってるレパートリー内には該当者はあいつらしかいなかった。
「八又乃さんと日和ちゃん?」
振り返ったらやっぱり正解だった。
冥介と日和がこっちを向く。
「…お前は甲虫。偶然だな。」
「こんにちはぁ♪」
そこで気付いたんだけど、日和の背中から例のエセ翼は突き出していなかった。
まあ、あれはなくたって別にいいわけだし、日和のパーツは簡単に取り外せるわけだから外したのだろう。
服を破ってまで翼を生やしておく必要はないから。
ちなみに頭上の輪はどうやって浮いてんだか分からないから外せないのだろうか、そのままになっている。
「八又乃さん何買ったんですか?記憶媒体とか聞こえたけど、パソコンとかで遊ぶんですか?」
「…俺にはそんなもので遊んでいる暇はない。」
冥介は憮然として言うと、袋からメモリーカードを取り出した。
80TBのメモリーカードだ。
2222年、空を飛ぶ車とかは発明されてないがそういった分野はわりと発展してるのだ。
…どうでもいいけど。
「メモリーカード?どうするんですか?」
「これで私の容量増やすんですぅ♪」
代わりに日和が答えた。綾は?ってな顔をする。
「…ああ、お前もこいつの性能は知ってるだろう?命令を1つ以上実行できないんだ。『敵を倒せ』と言ったら倒すんだが融通が効かん。『誰かを護りながら敵を倒せ』というような2つの命令が同時進行しているようなものは受け付けられないんだ。」
説明した冥介だけど、綾の脳味噌は週一と同レベル。分かるわきゃない。
「へぇ、凄いんですね。」
だからチンプンカンプンな納得をした。
「いや、逆に凄くないんだ。…お前、分かってないだろう?」
「…。」
綾は少し苦笑いをしたが、構わず続ける。
「ええと、それでどうやって容量増やすんですか?まさかそういうのを取り付けるスロットが日和ちゃんにあるとか?」
「さあな。…どうなってるんだ、日和?」
冥介が訊ねると日和は自分の胸を叩いた。
やっぱりボディは木製だからポンっていう軽い音がする。
中は確か空洞になってるし。
「この中にコアが入ってるんですけどぉ、その辺りに入れとけばOKなんですぅ♪便利でしょ?」
…それだけでいいのか?接続とかは?
少し機械に詳しい人ならばそう疑問に思うんだけど、脳味噌ボンバーな綾と冥介はそういうもんなんだと納得した。
で、綾は次の話題に移る。
「ところで八又乃さん。実は私、悩んでるんですけど…こういう時は第三者の意見を取り入れようと思うんです。」
「…何だ?俺の意見は聞いておいて損はないからな。言ってみろ。」
綾はまだ持ったままの2枚のCDを見せた。
「『KIN=NIKU』のアルバムか『七樂 アイ』のシングル、どっちを買うかです!まあ、値段的にはアルバムは3000円、シングルは1000円でシングルの方が安いんですけど…お金は1万円しか持ってないし。」
「…両方買えるじゃないか。」
「それがダメなんです!この1万円は昨日の服の弁償代だから、服は買わなきゃいけないんです。前から欲しかった6500円のを後で買うから、実質3500円なんです。」
冥介は眉を顰めた。
「随分と勝手な悩みだな。」
「それで冥介さんはどっちがいいと思います?」
綾の手から2枚のCDを取って眺める。
片やマッチョのうさぎが描かれたアルバム、片や可愛らしいけど頭の悪そうな少女が写ったシングルだ。
「…アイのこの曲は、『朝焼けのスプリンクラー』か。」
小さく冥介が呟くと、日和が横から覗き込んでCDを見た。
「あ、この人って昨日の夜に、」
パシッ!
言いかけた日和の額に冥介のデコピンがヒットした。
「…?」
笑顔のまま怪訝な顔をするっていう器用な芸当をする日和を無視し、冥介はアルバムにも目を向ける。
「『KIN=NIKU』のアルバム…か。これも…。」
「ああ、この曲って確かご主人様が、」
ペシッ!
またしても日和の額にデコピンがヒットする。
「…。」
学習能力ゼロの日和だったが、さすがに引っ込んだ。
「そうだな、甲虫。どちらもよく聞く曲ばかりだろう?現にこのCDショップでもアイの曲が流れている。ということはどういうことか…分かるか?」
「どういうことですか?」
冥介はニヒルに笑った。
「流行りとは風のようなもの。追いかけなくても、今吹いている風を感じればいい…。」
そう踵を返してその場を去っていく冥介。
追いかける日和の背を見つめながら、綾は頭にハテナを浮かべている。
「八又乃さんに聞いた私がバカだった。」
彼女は改めてCD両方を眺めて呟く。
「そういえば、どっちも作曲してる人が同じだったのよね。」
いつの時代にも人気作曲家はいる。
歌手の力よりも、その作曲家が作曲したってことでのほうが売れるのだ。
「『MAY=SUKE』かぁ。一体年収、いくらくらいなんだろ。」
2222年になってもCDは存在しているのでしょうか?
8TBのメモリーカード(SDカードって名前かも不明)はさすがに発売されてそうですね。




