3-1.罠?
「はい、以上が私の大学時代に書いた論文、『宇宙人着ぐるみ嫌悪説』でした。」
笑顔で講義終了を告げる憬教授。
今日も社会情勢学とは別のことをやってるし。
ちなみに最後まで『女体の神秘』を発表し損ねたアホ学生のレポートは、教室の隅っこに貼ってある。
最後の抵抗ってことらしい。
学生たちが大きな溜息を吐きながら帰っていく中、憬教授は笑顔で週一と綾に歩み寄る。
「週一君に綾さん。今日の朝、こんな手紙が大学の私宛に届いたんです。」
胸ポケットから取り出した手紙を広げる。
どっかで見た覚えのある紋章が描かれたその手紙の内容はこうだ。
『今週の土日、我々ダークキャン・Dは慰安旅行と称し、月へ行って来る。だから安心してお前らも休むがいい。 By:四天王カイネ』
…威圧的だけど、何だか親切な手紙だ。
「慰安旅行?そんな、これはきっと罠ですよ!」
休んでい~よと言われたら、迷わず休むようなバカ素直な週一や憬教授よりかは常識人な綾が声をあげる。
しかし憬教授はにこにこ笑顔のまま、ポケットから新たな2通の封筒を取り出した。
「あ、それとこれは綾さん宛です。差出人は…ウェキスさんと書いてありますね。」
昨日のセクハラ双剣野郎だ。
綾は憬教授の手から封筒を引っ手繰る。そして乱暴に開いた。
そこには一通の手紙と…小切手が入っていた。
『ヒステリーお嬢さん。昨日の件で斬っちまった服の代金を弁償する。俺は戦いに犠牲は付き物だって思うんだが、カイネとコノハがセクハラは別だとか言いやがってうるさいからな。人類の服の価値っていうのは分からんが、1万円もありゃいいだろ。』
小切手には1万円と書いてある。
それを確認した途端、綾の顔に笑みが広がった。
「1万円!?昨日の服って4800円だったから…5200円も得したわけね!?やった!これで前よりもっといいのが…、」
そこで自分を見詰める冷ややかな視線に気付いた。
「綾。罠とか言ってたけど…、」
「え?あ、まあ、今回だけは信じましょ。うん。今回だけはね。」
誤魔化し笑いをしながらも、小切手をちらちら見る綾に週一は大きな溜息を吐く。
と、憬教授がもう1通の封筒を見詰める。
「ということは、これも弁償のお金ですね。沙紀さん宛ですし。」
そして彼女には珍しく困った表情で呟いた。
「…早く渡してあげたいのですが、沙紀さんの家、知らないんです。どうしましょうか?まあ、今度会う時に渡すのでもいいんですけど…。」
「そうすればいいじゃないですか?別に今すぐ必要はないんだし。」
まだ小切手を眺めている綾が視線をそのままに言う。
「いえ、そうもいかないんですよ。引渡し期限が火曜日午前までなので、確実に月曜には渡してあげないと。換金する余裕はあった方がいいですし。」
それを聞いた綾は目を見開いた。
「火曜日まで!?じゃあ早く換金しないと!!…週一君、先生、また来週ね。」
そしてダッシュで教室から去っていく。
と、週一が思い付いたように手を叩いた。
「あ、そうだ!僕が渡してきますよ。ついでに前もらいそびれたサワガニをもらってくればいいし。もうアパートには水槽も砂利も餌も用意してあるんです。」
彼は憬教授の手から封筒を取ると、笑顔で去っていった。
残された憬教授は小首を傾げ、呟く。
「…サワガニ?」
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ピンポ~ン。
週一はインターホンを鳴らした。と、前の時と同様、塀の上にあった監視カメラが動く。
『はい。どちらさまでしょうか。』
やっぱり前と同じ女の人の声が帰ってきた。
多分、使用人だろう。
「ええと、蟹令李といいます。沙紀さんに渡す物があって来ました。」
『蟹令利さまでしたか。どうぞ、お入り下さい。』
カチャって音がすると、門がゆっくりと開き始める。
入れって言った声は前と違って警戒心はなく、了承しているって感じだった。
でもそういうことには鈍感1000tの週一はのほほん顔で入っていった。
で、やっぱり出迎えたのは蝶滋郎だった。
前のような仏頂面ではなく、穏やかな表情でいる。
「おお、週一君か。今日はどうしたのかね?」
「はい、沙紀さんに渡す物があって。…これなんですけど。」
そう言って預かってきた封筒を差し出す。
何とも地味なその封筒に蝶滋郎が眉を顰めた。
「…ラブレターというやつかね?それにしては地味な…、」
「え?違いますよ、これは僕からじゃないです。大学の先生から預かってきた物です。」
…流石にダークキャン・Dからだとは言えないだろう。
それに憬教授から預かってきたってことは確かだ。
まあ、嘘じゃない。
「大学の…。ああ、そういうことか。沙紀も3年生だからな。」
蝶滋郎は納得したようだ。
封筒を受け取ると懐に収めた。
「ええと…それと僕の方でもお願いがあるんですけど…。」
役目は果たした。
ってことで、週一の脳味噌は早くもサワガニGETに満たされ始めている。
もの凄い期待を込めた声で切り出した。
でも例の如く蝶滋郎さんは勘違いしたようだ。
申し訳なさそうな顔をする。
「すまんが週一君。沙紀はいないのだよ。…前のような居留守ではなく、今日は本当にいないのだ。熱帯魚店『Jelly Fish』という店を知っているかね?そこに手伝いに行っているそうだ。」
「ああ、海月さんの店ですね。でも、僕の用事は、」
別に沙紀には用がないって言おうとしたその時、家の方から着物を着た女の人(多分使用人の人)が顔を出した。
「旦那様、お電話です。」
「うむ。…すまない、週一君。家の者に地図を描かせるから、訪ねてみるといい。」
そう言い残し、蝶滋郎は去って行った。
…こうして、またしても週一のサワガニ計画はフイになってしまったのでした。
めでたしめでたし。




