2-20.四天王『双剣のウェキス』3
キインッ!!
金属音が鳴り響いた。
そしてウェキスの刀は日和の胸に突き立てられてはいなかった。
何かを弾いた刀はそのまま再び構えられ、彼の傍には円盤投げの円盤が落ちている。
「そこまでです。お人形さんをいじめると祟りとか怖いですよ~?」
風に髪を靡かせ、グレーのスーツを着た憬教授が立っていた。
手には地面に落ちてるのと同じ円盤がある。
これは練習用の8kgモノなんだが…投げたらしい。
「…ダークキャン・Dの特性がなきゃ、折れてるとこだぜ。」
ウェキスは刀を納め、憬教授に向き直った。
「凄ぇな、お嬢ちゃん。その華奢な身体でこんな重い円盤を…。」
「ふふっ、これでも私、10年前は茶道部だったんですよ。昔取った杵柄です。」
茶道部やってたことのどこが昔取った杵柄か不明だったが、そこはまあいい。
ウェキスはその前の台詞に眉を顰めた。
「10年前?ってことは6、7歳?小学生じゃねぇか。」
「いえ、高校生でした。あ、私今年で27になります。もうお嬢さんじゃないですよ。」
「!?」
よほど衝撃を受けたらしい。
ウェキスは目を見開き、後ず去った。
「…この俺が女の年を見紛うなんてな…。」
「それは今の貴方は目先の勝利に目が眩んでいるからです。大局を見据えずに振るう刀では勝てませんよ。」
「いや、明らかに俺の勝利モードだと思うんだが。」
「それなら私の年も見抜けたはずです。…というわけで、撤退をお勧めします。今なら見て見ぬフリで見逃すサービス期間実施中ですよぉ?」
「…あー、何だ。今日は退けって言いたいわけだな?」
そして大きく溜息を吐くと、やれやれと肩をすくめた。
「OK、何か調子狂っちまった。ま、元々お前らみたいな面白そうな連中を即終わらせる気なんぞないし、そろそろ撤退しようと思ってたし、ちょうどいいタイミングだ。」
懐から変なスイッチを取り出す。
カイネも持っていた例のアレだ。
「じゃあ、続きはまた明日。お前らは授業とかあるだろうから4時半に中央公園に集合ってことで。」
シュン…!
軽い音と共にウェキスの姿は消えていった。
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「全く…手間をかけさせる奴だな。…立てるか?」
冥介はガムテープで日和の応急処置をしながら溜息を吐いた。
見栄えも悪いし安定も悪いが、両手片足がちょん切れたままよりはいいだろう。
「ごめんなさい、ご主人様。まあ、普通に歩くぶんにはだいじょ~ぶですよ♪」
そう言って肩をぐりぐり回してみせる日和。
調子に乗りすぎて右腕が吹っ飛んだけど。
「それで…そっちはどうだ?」
後は自分でどうにかしろと、ガムテープを日和に渡した冥介は綾たちの方を向く。
綾は冥介に貸してもらったジャケットを羽織り、切り裂かれた服の布キレを拾い上げてヘコんでいた。
「…この服、4800円もしたのに…。高いのに無理して買ったのに…。」
セコい意味で再起不能のようだ。
冥介はさっきよりも大きな溜息を吐く。
で、同じく服を切り裂かれ、マニアご用達の制服にリフォームされた沙紀はというと…、
「何か蟹味噌っぽい匂いがするんだけど。ちゃんと洗ってんの?」
週一の上着をかっぱらっていた。
どこに売ってるのか不明の蟹の絵が胸に描かれたトレーナーみたいな服だ。
サイズが大きいらしく、指がほとんど隠れてしまっている。
「お昼に蟹味噌おにぎり3個食べたんだから、多少匂いが染み付いても仕方ないだろ?」
起きたら何か新たな四天王と一戦交えたって聞いた週一君。
自分が何の活躍もせずに気絶してたもんだからちょっと立場がないのだ。
だからお気に入りの蟹トレーナーを奪取されてもあんまり文句が言えない。
「2人とも良かったですね。この時期でも流石にそこまで短いのはアレですから。」
憬教授が微笑む。
下を短くカットされなかったのは不幸中の幸いだ。
もしされていたら、冥介も週一もズボンまで奪われていただろう。
「さて、今日はみんな疲れているみたいですから、夕食に牛丼でもおごりましょうね♪」
その言葉に、ヘコんでいた綾の表情もほんの少しだけこっちの世界に帰ってきた。




