1-1.謎のヒーロー
「痛い痛い痛いっ!ちょ、やめろって、痛っ!」
人々が避難した街で、あんま強そうじゃない戦闘員が何かを集団リンチしている。
「ひぁっ!?待てっ、そこはダメだって!痛っ!!」
切れそうもない剣でタコ殴りにされているモノの正体、それは戦闘員に負けず劣らずの怪しい全身タイツ男だった。
…あんまりかっこよくない全身タイツ風戦闘スーツに、胸に輝くカニの絵。
しかもチョイ手抜きのディフォルメ絵。
レリーフとかじゃなくて、直接ペイントされているのがチャームポイントだ。
ヘルメットもベタで、額にはやっぱりカニの絵だ。
そう、コイツこそ数週間前に現れた謎のヒーロー『下等生物戦隊ウゴクンジャー』、ウゴクンジャー蟹だった。
----------------------------------------------------------------
日本国某県某町。
ド田舎ってわけじゃないけどあんまり都会でもないそんな街の住宅街を青年が1人、氷嚢片手に歩いていた。
頭にできたたんこぶを冷やしながら少し足を引きずり、顔には絆創膏装備の痛々しい様相の彼こそ…先日戦闘員の皆さんと戦闘、もといリンチされていた正義の味方の正体だ。
名は蟹令李週一。
20歳の現役大学生。
2枚目じゃないが3枚目でもない、2・5枚目というのが妥当な容姿に優男っぽい雰囲気、かといって知的でもないその外観は正義のヒーローとして及第点にも一歩届かずってクオリティだ。
「…うぅ、たんこぶできてるし…最悪だ…。」
週一は昨日の悪の戦闘員から受けた傷を押え、ブツブツ文句言いながら大学への道を行く。
正義のヒーローが職業なら本日休業な気分でも、本職は学生。サボれば素敵な1浪生活が待っているのだ。
…と、そこに。
「おっはよ~!」
元気のよさそうな声と共に彼の肩を誰かが叩く。
振り返ると、立っていたのはロングヘアの女性だった。
知的にはどう頑張っても見えない笑顔を向ける彼女は、週一の通う大学の友達、彩綾だ。
「綾か。おはよう。…朝からテンション高いね。」
「うん、コンビニでコーヒー買うつもりがチューハイ買っちゃって。ちょっと酔ってる。」
「…高いわけだ。でも朝から酔っ払って登校する女子大生って一体。」
顔が赤くなってるわけでもないし、アルコールの匂いは漂わせてないのだが…ダメだろう。
しかし綾は聞いちゃいなかった。
「あ、また怪我増えてない?昨日は足引きずってなかったし、そんな氷嚢もなかったし。また転んだの?」
心配してる口調ではないが訊ねる綾。
週一は苦笑いをして答える。
「ああ、昨日は階段から落ちて。もう大変だよ。」
もちろん(定番的に)ウゴクンジャーの事は誰にも内緒である。
怪我の理由は転んだりしたことにしてあった。
「気をつけた方がいいよ?昨日テレビでやってたけど、石に頭ぶつけて死んじゃうこともあるらしいしね。」
「そんなドジで死なないように頑張るよ。ってかそのテレビってテレビドラマじゃなかったっけ?」
「うん、『ロンリーユー~仕事と私どっちが大事~』。可哀相だよね、タカヤ。」
「まさか主要キャラが転んで死ぬとは予想外の展開だったね。」
「そうかなぁ?だってあのドラマ、ヒロインと仕事どっちを取るかが最大の焦点でしょ?恋のライバルとか別にいらないってプロデューサが気付いたんだと思う。」
「う~ん、微妙に納得いなかない気もするけど…。」
怪我の話題は一瞬で消え、昨日見たドラマの話題になっていた。
この話題のまま大学まで行くのかと思いきや…。
「あ!そうそう、週一君ってさ、レポートやった?対象自由っていうアレ!!」
急に学生らしく勉強の話題に変わった。
「え?ああ、社会情勢学の。まだだけど。」
「本当!?私もまだなんだぁ!…ね、今日さ、ヒマなら一緒にレポ調査しない?」
「提出期限いつだったけ?いいよ。…でも何について調べようか。」
調査が必要なようなレポートを提出期限前日に調べてもいない学生。
それは2人が同レベルのダメ学生だって事を物語っている。
しかし、綾の顔はYESの答えにぱぁっと明るくなっていた。
いつも(無駄に)明るい彼女だが、意思表示をする時はさらに一層明るくなる。
まあ、ぶっちゃけていえば脳味噌がいつも快晴なお方なのだ。
「洞窟調査!」
「…何がどうなってそういう発想が出るんだ…?」
あんまりにもな返答に週一は眉を顰める。
「そう!この前ニュースでやってたじゃない!2駅離れた山に4日前の地震で開いた大きな洞窟!!何か人工的に入り口が閉ざされてたっぽいって事だったよね!」
「あ~、そういやそんな話あったような。でもあそこは何だか国をあげての調査中で、立入禁止…。」
「そこまで大掛かりな調査なんて、ちょっと気になるじゃない?」
「…気になるってあんた…。」
ちょっぴり呆れ気味に週一は苦笑する。
しかし、かくいう彼も彼女の言うような洞窟へ探険に行ったことがあった。
場所と時期こそ違えど、同じように突如現れた洞窟。おっかなびっくり入ってみて…。
「ね?行こ!?大丈夫よ、見付からないようにするから。」
思い浮かべかけた回想を遮り、綾はNOと言えなくなるような笑顔で言い寄った。
「う…そう言ってもなぁ…。」
週一は言い淀む。
…行くとしても、レポートになるだろうか?それに危険を冒してまでも行く価値は…?
「…一緒にやってくれるって言ったのに…。」
一瞬、綾の表情が翳り、涙が表面張力した。
泣き落とし作戦開始というわけだ。
乙女の涙とは核兵器並の破壊力があるのだ。
「でも別のにした方が、」
涙が一瞬で消え、綾の目がオニのように鋭くなった。泣き落とし作戦失敗なら実力行使するけど?ってわけだ。
「…行くよ、行く。…行きます。」
「ホントに!?」
「…行かないとダメなんだろ?選択肢ないんだろ?」
「わあ!さすが週一くぅん♪」
綾は天気予報で快晴って表示されそうなくらい明るく言う。
…まあ、どうせ立ち入り禁止ですって追い出されるのがオチだろうし…。
週一は心の内でそう思い、自分を納得させた。




