2-11.時計の館2
大学は休みだってのに社会情勢学研究室の明かりは灯っていた。
ここは社会情勢学研究室。
またの名をウゴクンジャー本部。
別名、時計の館。
360度から聞こえてくる時計の音に常人なら発狂してもおかしくないが、今ここにいるのは...。
「今日は珍しく週一君が来てませんね。」
コーヒー?を片手に憬教授が言う。
「週一君なら多分、アパートで寝てるんだと思いますよ。休日はいつも連絡不能だし。」
知恵の輪を必死で解いている綾がその質問に振り向きもせず答えた。
目の前には様々な知恵の輪が無造作に転がっている。
「アパート?そうか、あいつは1人暮らしをしているんだな。…流石は大学生。」
綾の向かいに座っていた冥介が綾の手から知恵の輪を取り上げると、簡単に解いて返した。
「…私、2時間もやってたのに…。」
解かれた知恵の輪をげっそりした表情で見詰める綾に憬教授は笑顔で頷いた。
「休日はアパートで、ですか。うん、分かりますよ。週一君も男の子ですからね。誰もいない部屋で1人きりでやりたいことだっていろいろあるでしょう。」
「…。」
「…。」
綾と冥介が微妙な表情で固まった。
それに気付いたか、憬教授は付け加える。
「あ、別に深い意味はないですよ。それより綾さん、やっぱり週一君の部屋は年頃の男の子らしく散らかっているんですか?」
「え?さあ、私、週一君のアパートってどこかすら知らないし。」
新しい知恵の輪に手を伸ばす綾。
「知らないって…遊びに行ったりしないのか?」
言いながら、また綾の手から知恵の輪を取り上げて解いてしまう冥介。
綾は何が起こったのか理解できず、おめめをパチクリさせてる。
「てっきり俺はお前と蟹は深い仲だと…。」
そんな綾を尻目に、次々と机の上の知恵の輪ん解いていく冥介。
1つ解かれるたびに綾の顔から正気がなくなっていくのにはまったく気付いていないようだ。
そして...。
「うぅ…私の知恵の輪が…これで1ヶ月くらい遊べると思ってたのに…。」
冥介の問いかけはもはや耳に入っておらず、綾は見事に解かれた知恵の輪たちを手に取り、悲劇のヒロインやってる。
「冥介君はそういうのダメですね。確かに週一君と綾さんはよく一緒にいますけど、付き合ってるとかそういう雰囲気じゃないですよ。どっちかというと…。」
少し考えるように一呼吸置き、続ける。
「週一君は綾さんの友達兼パシリ君ですね。最近は女の子、強いです。」
植木鉢に水をやりながら憬教授が微笑む。
ちなみに植木鉢には大根が1本突き刺さっており、『80円』っていうラベルが貼ってある。
…そう、『キヨスク』だ。四天王キヨスクとは別の…まあ、話すと悲惨だから言わないが。
どうやら憬教授は『キヨスク』を栽培するつもりのようだった。
「そうか…。しかしそういうのに鈍感なのはいいことだ。ヒーローの実に7割が鈍感だというからな。俺はまさしくヒーローというわけだ。」
冥介がニヒルに笑ってレバー煎餅を齧る。
でもすでに誰も彼の言動に注意を払ってなんかいなかった。
「あぁ…知恵の輪…知恵の輪…。私のマイブームが…。」
綾はさっきからずっと知恵の輪、知恵の輪と呟いている。
「大きくなって下さいね、お米さん♪そしたらまた横跳び見せて下さい♪」
『キヨスク』に語りかけながら、憬教授は今度は肥料をやっていた。
…この部屋はいつものように混沌としたアホな空気で満ちている。
まあ、常識人っぽい沙紀や水面は滅多に来ないんだから仕方ないが。
いつもと違うことといえば、週一がここにいないってだけだ。
いたとしてもこの空気は一切かわらないが…。
「そういえば、どうして皆さんここに集合してるんでしょう?今日はウゴクンジャーはお休みですよ?」
肥料片手に憬教授は微笑んだ。
ウゴクンジャーがお休みって…、大学は確かに休みかもしれないが、いつダークキャン・Dが襲ってくるかもわからないこの状況を彼女は理解しているのだろうか。
こうやって何の生産性もない時間が過ぎていく。




