2-10.四天王『破甲のカイネ』4
(…これは…何だ?)
カイネは考えていた。
自分を抱きしめている青年。
自分より背が低いから腕の上からホールドして両手の自由を奪うことはできていないし、サバ折りっていう必殺技にしてはあんまりにもパワーが足りなさ過ぎる。
何がしたいのかよく分からない、とにかく抱きしめてるだけだった。
(技?いや…こんな技は有り得ん。だったら…一体…)
そういえばダークキャン・Dアジトでウェキスがふざけて抱き付いてきたことがあった。
でも、この青年はあの時のウェキスのようなニヤニヤ顔ではない。
怖いのか、目をしっかり閉じているものの、童顔であんまり頼り甲斐のなさそうな青年なんだけど彼の必死さは伝わって来る。
(どうすべきか…。投げ飛ばすべきか?引き剥がすべきか?)
対処方法が思い付かない。
攻撃してくる相手ならばいくらでもあしらえるが、こういう状況は初めてだ。
カイネは数分間悩んだ後、ある結論に達した。
「…。」
彼女の右手が、ゆっくりと週一の頭に降りていった。
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ヒュドラはくらくらする頭を抱え、ゆっくりと立ち上がった。
援軍に来た瞬間から戦闘不能になり、変身後は勝手に気を失っていた役立たずだが、さすがに活躍ゼロってわけにはいかない。
役に立たないと思うけど戦線復帰だ。
「…くっ、少しヘマをしてしまったようだな…。」
彼は腕に負った軽い擦り傷を見てニヒルに呟く。
ここに綾や週一がいたらさぞかし特大の溜息をついただろうけど、今は彼の周りに誰もいないから反応はゼロだった。
「しかしまずいな…。俺がいないとあいつら…!」
別に大した怪我じゃないけど、大袈裟に痛みに顔を顰めながらヒュドラは道に出る。
そして辺りを見回した。
…ベンチの近くに甲虫が転がっている。
でも気絶と言うより…。
自分の片腕を枕にしていびきをかいてやがる。
どうやら気絶ついでに眠ってしまったようだ。
ヒュドラは少しその寝姿を見ていたが、やがて視線をずらした。
…沙紀と水面が気絶している。
何故に変身が解いてあるのか不明だが、こっちは普通に気絶しているようだ。
「ん…?」
視線を上にずらしたヒュドラは小さく声を漏らした。
そこにあった光景は…何ていうか、場に不釣合いだった。
カイネに抱き付いてる週一。
そしてその週一の頭を…カイネが撫でている。
週一は目を閉じ、必死の様子なのに対してカイネは何だか穏やかな微笑みを浮かべている。
状況が掴めない。
「…何故に蟹は…抱っこしてもらっているんだ…?」
答えてくれそうなヤツは、あいにくそこにはいなかった。
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(…ああ、この感覚…何だろう…?)
カイネは週一の頭を撫で撫でしながら目を細めた。
最初は何となくだった。
しかし頭を一度撫でた瞬間、自分の中で何かが熱く脈動した。
そしてどうしようもなく、必死で自分にしがみついているこのヘタレ君が可愛く感じてしまった。
保護欲がとめどなく溢れてきている。
…要するに母性本能が目覚めちゃったってワケだ。
「よしよし…、いい子だな、お前は。」
そして彼女は週一の背を優しく撫で始めた。
そうしたらさっきより余計にキュンときてしまい、至福の表情を浮かべる。
(私は今まで何をやっていたのだろう…。戦いだ、任務だ、そんなことばかりに感けていて…。ああ、荒んでいた心が一気に癒されていくぞ…。)
カイネは週一の頭に頬を寄せた。
「大丈夫。私がついているからな…。もう怖くないぞ…。」
(…?)
週一もようやく自分が頭を撫でられていることに気付いた。
でもやっぱり怖いから目は閉じたままだが、どうも反撃される様子はない。
大好物の蟹味噌と同レベルだと噂される頭脳をフル回転させて考えたが…間違いなく自分は頭を撫で撫でされているようだった。
しかも、背中まで優しく撫でられている。
母親が、お子様時代にベソをかいた自分を抱っこしてくれた時と同じ感じだ。
「よしよし…、いい子だな、お前は。」
妙に優しい声が頭上から掛けられた。
そして頭に新たな感触が。
「大丈夫。私がついてるからな…。もう怖くないぞ…。」
…はい?
そこで週一の頭から恐怖とかそういう系の感情が吹っ飛んだ。
「なっ!?な、な、何で僕が撫でられてるんだ!?」
カイネから慌てて離脱した週一はちょっぴりどもりながら叫んだ。
で、一方のカイネは週一が離れる時に小さく「あっ、」とか漏らしたものの、捕まえようともせず、ただ残念そうにしている。
「それに…いつの間にかタクティカルフレームが脱げてる!?変身解いた覚えないのに!」
再変身しようとする週一だが、変身には蟹印の例の鞄が必須。
なのに鞄はどういうわけかカイネの傍らに転がっているので、変身したくたってできない。
「おい。」
「う!?」
声を掛けられ、週一は身構えた。
格闘センスがゼロってことがまる分かりの貧相な構えだが、必死で構えてるから気迫だけはそれなりにある。
猫くらいなら追っ払えそうな気迫だったが、やはりカイネは動じる様子もなかった。
「お前、名を何と言う。」
「か、蟹令李週一だ!」
逃げ腰のまま答える。
ウゴクンジャー蟹って答えるテもあったけど、今は変身してないから本名で名乗った。
そういうとこだけは律儀な男だ。
「週一か。ふむ。週一、だな。」
反芻するように呟いてから、カイネは微笑む。
しかしさっきまでの悪役笑顔じゃなくって、優しそうなおね~さんの笑顔だ。
「…?」
週一は眉を顰めた。
毎度の事ながら綾に虐待(?)されている彼は殺気に関する本能がスズメとか野鳥なみに発達している。
そんな週一の殺気センサーは今のカイネに反応していない。
「…いいだろう。お前に免じて今日は退こう。」
いきなりカイネが撤退宣言した。
彼女は呆気に取られて構えたまま固まっている週一に笑みを向けると踵を返す。
そしてそのまま去って行った。
…徒歩で。
怪人『カオスチョコボール』:投石によって撲殺。
怪人『やんごと筆』:石で殴られ撲殺。
怪人『消しゴム怪人(正式名称不明)』:一本背負いで地面に叩き付けられ昇天。
四天王『白隼のキヨスク』:憬教授の味噌汁と消える。
怪人『カカシタゴサーク』:ボディプレスで圧死。
怪人『動くドール』:ダンプに撥ねられ逝去。
怪人?『人面犬(正式名称不明)』:蹴り殺される。
そして四天王『破甲のカイネ』:理由は不明だが…撃退成功。
ウゴクンジャー蟹しかいなかった不遇の時代から1ヶ月、下等生物戦隊は同志をいい具合に増殖し、結構な成果をあげてきた。
そして戦果と同時に彼らの日常にも変化が…。
次の話は明日公開します!




