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下等生物戦隊ウゴクンジャー  作者: 深爪リオ
SECTION16-言えなかった言葉-
209/213

16-2.手紙

雨は人を無関心にする。

朝方に霧雨に変わった雨は、それでも十分に道を往く人々を鬱にさせた。

誰も彼もが急いで目的地へと歩みを進め、周りの情景を見えなくする。

普段なら話し声が溢れる雑踏だが、この日は足音と車が水溜りを通る水音しか聞こえなかった。


そんな中、赤い傘が立ち止まる。

なかなか可愛らしい少女だ。

静かな目で少し鬱な表情をしており、知的に見える。

コンビニに貼られた新発売ドリンクの宣伝、CDショップに飾られた新曲のポスター。

至る所に彼女が写っており、しかしそれが彼女の素なのだろう表情は、あまり頭の良くなさそうだけど明るい笑顔だった。


「…。」


無言のまま霞がかった道の先を見詰める。

時刻は昼の休憩が始まるか始まらないかのであり、会社員風の人々が苛立つような足取りでファミレスや定食屋に入っていった。

そんな中、彼女は黒い服を着た少女が路地裏に入っていくのを見付ける。

雨だというのに傘も差していないその少女は、笑っているように見えた。


「日和…さん?」


赤い傘の少女は小さく呟く。

そして眉を顰めた。


…知っている人だった。

しかも、忘れることのできない…。


彼女は唇を噛み締め、再び歩き出す。

しかしそれは目的地ではなく、黒い服の少女が消えていった路地裏へ向けられていた。


◇◇◇


「あんマり目立ツ行動はしなイデね。制約はそれダケ。ウゴクンジャーキラーの本分、思いっキリ発揮しテ。」


牛柄の傘を差した女子高生のような少女が、微妙にアクセントに違和感のある声で言った。

彼女の前には黒い服の少女が立っており、嬉しそうに微笑んでいる。


「分かってますってぇ♪てきと~にウゴクンジャー見付けて始末しときますね。作戦も順次考えるってコトで。」


女子高生のような少女…弧邑沙紀はその言葉に溜息を吐く。


「要すルニ、行き当たりバッタリってコトね。ホントに大丈夫ナノ?」


「へっちゃらですよぉ!あのですね、こう見えても私、A級並の実力持ってるんですよ。ドールシリーズ最強のこのゼペトパペットの実力&運、甘く見ないで下さい?」


「実力は認メテるけどサ。その運ッテのはちょット信用できないナア…。」


「もぉ、信用して下さいってばぁ…。今日の誕生日占いだって仕事運最高って、」


黒い服の少女、ゼペトパペットがそこまで言った時だった。

背後で物音がして、同時に声が掛かる。


「日和…さん?あの、日和さんですよね…?」


赤い傘を差した少女。

ゼペトパペットを見るその人物は、2222年の日本でバカ売れ中の歌手、七樂アイその人だった。

ゼペトパペットはアイを一瞥し、そして弧邑に向き直る。

そして嬉しそうに言った。


「ね?運いいでしょ?人質も手に入ったことですし、まずは八又之冥介から始末しましょう♪」


◇◇◇


冥介は何をするでもなく、椅子に座り窓から見える雨の景色を見詰めていた。

この雨の中、外に出掛けようとは思わない。

元より外出は好きではない。

ウゴクンジャーの仲間には電話番号を教えていないため掛かってくるはずはないし、仕事関係もこちらからする以外の連絡は禁じている。

それが彼の選んだ日常、穏やかで冷たい静寂だった。


しかし。

その日常は『彼女』との出会いで変わった。

少なくとも以前までは。

『彼女』はいつも微笑っていて、部屋の雰囲気はどんな時も自然と明るくなった。

そして外出も多くなり、足を運ぼうとしなかったような通りや店にも通うようになった。

それは自分がウゴクンジャーとなった時よりも大きな変化だった。


「…悲しい曲など数え切れないほど綴ってきたのだが、な。」


自嘲的に笑おうとする。

しかし、できなかった。

…理由は分からない。『彼女』を忘れるつもりはないが、できる限り引き摺らないようにしてきたつもりだった。

前と同じように振る舞い、慣れてきたと思っていた。

なのに、おかしい。

昨夜、あの時の夢を見てから妙に感傷的になり過ぎている。

同じ夢などもう何度も見ているはずなのに。


ピピッ


時計のアラームが鳴る。

時刻は13:00だ。

彼は考えるのを一旦止め、立ち上がる。

留守電のメッセージ…彼女が来る時間だ。

会いたくないなら出て来なくていいと言っていたが、そのままにしておくわけにはいかない。

彼女の、アイのことだ、雨の中でも待ち続けるだろう。

追い返すにしろ、入れてやらなければ。


ドアを開ける。

同時に何かがひらひらと彼の足元に落ちた。


「…手紙?」


それを拾い上げ、目を通す。

…瞬間、彼の目が鋭くなった。

手紙を投げ捨てる冥介。

唇を噛み、ジャケットを羽織る。

そして傘も差さずに外へ駆け出した。


『歌姫さんは預かりました。いわゆる人質ってやつです。他の仲間に連絡せずに潮騒海岸まで来て下さい。来ないと大変なことになっちゃいますよ。』


緊張感のない丸文字で書かれた脅迫文、それは降り注ぐ雨に打たれ、やがてその字は滲んで黒く消えていった。

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