表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下等生物戦隊ウゴクンジャー  作者: 深爪リオ
SECTION16-言えなかった言葉-
208/211

16-1.雨と邂逅

「日和!!くっ!しっかりしろ日和!!今、修理に…、」


冥介は跪き、倒れている日和を抱き起こした。

彼が買い与えた白いワンピースは無残に破れ、肌…いや木製のボディが所々に露出している。

腕は両方とも折れてアスファルトに転がっており、身体中に亀裂が走っていた。

決して崩れることのない笑顔も、顔の汚れと亀裂のせいで悲しい表情に見える。


「ご…主人、様…。」


弱々しい声が日和の口から漏れた。


「すまない…日和。俺の判断ミスだ。もう少し早く駆けつけていれば…!!」


悔しげに言う冥介だったが、日和は静かにかぶりを振った。


「い…え…。ご主人…様は、間に合って、くれました…。私は…もう、救われてます…。」


「…もう喋るな。今すぐ車を呼んで搬送する。俺の手では無理だが、一流の技術者に修理させる。大丈夫だ。今は安静に、」


「ご主人…様。」


冥介の言葉を遮り、日和は言う。

弱々しさには変わりがないが、口調には強さがあった。


「…何だ?」


「1つ、お願い…いい、ですか…?」


「後だ。完治したら何でも聞いてやる。1つと言わず、幾つでもだ。」


「今じゃなきゃ…ダメ、なんです…。」


「…日和…?」


日和の顔を見詰める。笑顔は崩れていない。しかし。


「…いい、ですか…?」


「…ああ。」


頷く冥介。

日和は嬉しそうに微笑んだ。

元から笑顔だが、それでも嬉しそうに。


「抱き締め…て、下さ…い…。ホントは、私から、したいけど…腕、なくなっちゃい、ました…から…。」


ドクン…


言いようのない不安が冥介に押し寄せ、心臓が激しく鼓動する。

彼は目を見開き、殆ど無意識に日和を抱き締めた。


「日和…?お前、まさか…。」


木製の身体、しかもメタルハムスターによってアスファルトに叩き付けられたせいで割れたそれは、所々がささくれ立ち、抱き締めた冥介の腕を傷付ける。

しかし冥介は日和を強く抱いたまま離さなかった。


「ご…主人…様。この、街を…仲間、を…守って、下さい…。私の、カッコいい…ご主人、様なら…絶対、できます…。」


「当然だ、そしてお前はそれを俺の隣で見届けるんだ。だから行くな。お前は俺の助手だろう!?最後まで責任を果たせ!」


視界の片隅で道に散らばった小さなカケラが消滅していく。

日和の千切られた腕も消え始めていた。


「最、後…、そう、最後…に、言わせて、下さい…。私の、戯言…聞いて、下さい…。」


冥介は抱き締める腕を静かに緩め、ゆっくりと彼女の顔を見た。

…日和はいつものように、毎日していたように、微笑んでいた。

穏やかで弱々しい唇が、まるで歌でも口ずさむように動く。


「…大…好き、です…。…冥介、様…。」


◆◆◆

目を見開き、冥介は浅い眠りから覚めた。

ベッドから上体を起こし荒い息を整える。


「…また、か。」


小さく呟き、彼は左手で髪を少し掻き揚げた。

壁に掛けられたデジタルの時計は夜中の2時を表示し、暗い部屋に赤く光っている。

激しく鳴っていた鼓動が収まっていくと、彼の耳に微かな雨音が聞こえた。

どうやら外は雨のようだ。

冥介はベッドから立つと、リビングに向かって歩く。

そしてソファの横にあった小型の冷蔵庫からミネラルウォーターの瓶を取り出した。

彼は瓶を開けようとして、オーディオ棚の上に乗っている電話の留守番ランプが点滅しているのに気付いた。


ピピッ


再生ボタンを押す。

内部のNCナノカードが瞬時に録音したメッセージを探し、詳細を分析し始めた。


『メッセージは1件です。録音時刻1:20、フォルダ:仕事関連03、音声暗号化:なし、シークレットではありません。音声最適化し、再生します。』


滑らかな女性の声でのナビゲートが終わり、ピーッという電子音の後、メッセージが再生された。


『…あの、冥介さん?私です。七樂…です。あの…明日、会えませんか…?立場は、分かっているつもりです。でも、会いたい…です。どこかに連れてってとか、我が侭、言いません。ただ、会いたい…です。あの、私…。』


不安そうな少女の声。

それは小さくか細くなっていき、沈黙する。

録音許容範囲まで数秒となったその時、再びスピーカーから声が漏れた。


『…13:00に、伺います…。会いたくないなら…出て来てくれなくても構いません。…あの、こんな遅くに、電話して…ごめ、』


そこで唐突に音声が切れる。

許容を超えてしまったようだ。

冥介はしばらく赤から青になったランプを見詰めていたが、やがて静かに踵を返した。


「…。」


微かな雨音が聞こえる。

しかしそれが止みそうな気配は、なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ