15-3.女の闘い
「セ、センパイっ…!!あの、わ、私っ!」
「罪なきヒトを苦しめる悪女、このワタシが成敗してやるアル!!」
…決意を胸に振り返った沙紀の目の前に立っていたヤツ。
それは待ち人じゃなかった。
性別が違った。
ってか知らないヒトだった。
拳法着を着て頭にラーメンどんぶりを被るような知り合いなんぞいない。
「…。」
顔から熱が一気に引いていく。
沙紀は自分が平常心を一瞬にして取り戻したのに気付いた。
ついでにもの凄い脱力感に見舞われる。
緊張していたぶん、強烈だ。
「…誰?あんた。」
だからやたら機嫌の悪そうな(事実悪いが)目付きで相手を睨んだ。
口調も不機嫌さが滲み出ている。
「悪に名乗る名前ないヨ!無実のヒト虐めて何が楽しいカ?許さないネ!!」
「はァ?何言ってるのか知らないけど…待ち合わせしてるんだからどっか行ってよ。変人に付き合ってる暇はないんで。」
「その相手は来ないアル。ワタシが今、アナタの魔の手から匿ってるネ。」
そいつ…ビイはエセ中華拳法の構えを取りながら言った。
沙紀は眉を顰める。
「…センパイを、蟹令李週一を知ってんの?」
「もちろんヨ。アナタみたいな凶悪人には関係ないネ。」
「…もしかしてあんた、ダークキャン・D…?」
「ワタシはあんな外道と違うヨ!むしろ正義の味方アル!さあ、どこからでも掛かって来るヨロシ!正義は勝つネ!悪は惨めに敗北ヨ!!」
「!!…へぇ、ま、どうでもいいけど…アンタ、イラつくね…。」
折角の決意を邪魔されて気が立っている沙紀なのだが、外道とか悪女とか凶悪人とか、普段は鼻で笑い飛ばせるような挑発も効いてしまった。
ヒュッ…
何のモーションもなしに沙紀の拳が突き出される。
それはビイの目の前で止められた。いわゆる寸止めってヤツだ。
「!?」
直前まで反応できなかったビイが目を見開く。
沙紀はそんな彼女を睨み付け、言い放った。
「…センパイの知り合いだか何だか知らないけど、あたしが本気で怒る前に消えな。」
ブオッ…
沙紀の頬を風が撫でる。
顔の真横にビイの脚があった。
こっちも寸止めだ。
「…へぇ。大人しく消えるつもりはない、か。」
こっちは目を見開いたりはしなかった。
蹴りの軌道が見えていたのだ。
ビイが寸止めすることも。
…それは沙紀の方がビイより上だという意味でもあった。
それを知ってか知らずか、ビイはゆっくりと脚を下ろすとほんの少し身を引く。
「…これは苦戦必至みたいアルね。」
少し間合いを取った2人はそれぞれの構えを取った。
「手加減、しないよ?時間ないしね。さっさと終わらせる。」
古武道っぽい構えの沙紀。
カイネのような隙がありそうでない構えではないものの、威圧勘はバッチリだ。
「カニさんのためアル!負けないネ!!」
やっぱりエセ中華拳法の構えのビイ。
それなりに型にはなっているから、一見すると強そうに見える。
…互いの間を風が吹き抜ける。
沙紀の一大決心の場が、いつの間にやら戦闘修羅場。
で、その原因となった馬鹿は現在蕎麦屋で留守番中。
これからどうなるんだろう…。
何にしても沙紀、運悪すぎ。
◇◇◇
「それで…アタシはここで待ってればい~の?」
寛和蕎麦には鎖雪が着ていた。
週一が呼んだのはコイツだったらしい。
まあ、確かに綾を呼んでも仕方ないし、冥介は役に立たない&携帯番号知らない。
憬教授はアレでも一応教授だから呼び出せないから…仕方のない人選だったのやもしれない。
「悪いな、さゆ。何だか歐邑と中国の人が対戦しそうな予感がするんだ。」
週一が疲れた顔して言う。
その予感はもうすでに的中してるけど。
「中国の人?」
「そう。拳法着姿で頭にラーメンどんぶり被ってる人。以前、ダークキャン・Dに襲われてるのを助けたら何か感謝されて…その後会った時に酷い生活してたからアパートとか紹介してあげたら余計感謝されてさ。恩返しの強行を喰らってる。」
「義理堅い人なんだね。」
「…僕としてはあんまり恩人恩人言われるのはちょっと…。」
力なく笑い、彼は立ち上がった。
「ま、そういうわけで留守番よろしく。わざわざ来て貰って悪かったな。埋め合わせは今度必ずするから。」
「ちょうど近くにいたから別にOKだよ。あ、でも埋め合わせはしてもらおっかな♪」
「何がいいか考えといて。んじゃ。」
シュバって手を挙げ、店から飛び出す。
ビイが店から出て15分、もう彼女は萌木公園に到着しているだろう。
原付だし。
そして週一が目的地に到達するのはダッシュで行って10分。
でもきっと途中でヘバるから15分だ。
戦闘は終了してる可能性が高い。
しかし急げ週一!もしかすると間に合うかもしれない!
間に合っても解決できる確率10%未満だけど、それでも一応主人公。
走れ週一!




