14-8.二人のエピローグ2
「本当に…君は、コノハなのか…?」
静まり返った中、厨が掠れた声で言った。
誰も喋らない。
あの綾すら黙ってしまう雰囲気。
皆、厨の気持ちを察しているのだ。
『…ごめんなさい…。今まで、どうしても言い出せなかった…。』
寂しそうな応えが響く。
厨は目を見開き、そして小さく何か呟くと膝をついた。
そんな彼の様子があまりに見ていられなくて週一らは彼らから視線を外す。
…掛ける言葉が見付からないのも事実だし、何より自分たちが介入していい場ではないのだ。
「そんな…、なぜ…なぜそんな重要な事を黙っていたんだ…。」
厨は片手で顔を覆うようにして言う。
相当なショックを受けているのだろう。
その姿はあまりに痛々しい。
『…厨…さん…。本当に…ごめんなさい。私、本当に厨さんが好きで…本当の事を言ってしまったら全てが終わってしまうと思うと…、どうしても言えなかった…!!』
アルビィネの声が響く。
その場にいる全員が鼓膜に痛みを感じるほどの慟哭だった。
しかし誰も黙ってそれを聞く。
…彼女もまた泣いているのだ。
「僕だってそうさ!でも、だからこそ言って欲しかった!!」
厨が叫ぶ。
彼がこんな大きな声を…普段では絶対に考えられないことだ。
『だって!!私、』
「せっかく買った婚約指輪、選びなおさなきゃいけないじゃないか!!」
…え?
アルビィネの声を遮って放たれた厨の言葉に、それまでとは違う意味で場が静まり返った。
しかし厨は続ける。
「それに式場も予定していた場所じゃ狭すぎるな。スイス辺りの小さな教会でやりたかったけど、巨大ホールを貸しきらないと。」
『え…?』
困惑している様子のアルビィネ。
週一たちはもっと困惑だ。
何も言えないでいる。
でも何だか嫌な予感だけはしていた。
何か、厨の考えが予想できそうなのだ。
そんな中、厨は普段の穏やかな表情に戻って言った。
「あと…すまないけどマイホームはしばらく待って欲しい。その大きさで十分にくつろげる広さの家を買うとなると、少し予算オーバーしそうなんだ。」
『え…?え…?』
戸惑う声が響く。
綾と沙紀もアルビィネと同じく困惑していたが、週一&鎖雪の蟹令李兄妹はすでに納得顔だった。
ああ、そういうことか…って感じだ。
さすが実の兄弟。
『あ…あの、厨さん…?私たち、もうお終いなんじゃ…?』
「?」
アルビィネの声に厨は少し不思議そうな顔をする。
「まさかコノハ、君は僕が嫌いになったのか?」
『そ、そんなこと!!』
「じゃあどうしてお終いだなんて言うんだい?コノハ、そういう事は冗談でも言うものじゃないよ。」
彼はたしなめるように言った。
そして続けて訊ねた。
「…それで、この状況とシュウ達の話から判断して君はダークキャン・D四天王で、その姿が本当の姿ということだね。他に僕への隠し事は?」
『え?あ、ありません…。』
「そっか。じゃあ、これがいい機会だね。」
…何がいい機会なんだか。
突っ込みたいところだけど突っ込めない。
突っ込む以前にコイツは言ってはならない事を言いそうだ。
微笑む厨。
穏やかさは変わらないが、少し照れているみたいな笑顔だった。
「コノハ。…僕と、結婚してくれ。」
◇◇◇
…。
アルビィネの体表面が幾つもの葉っぱになって散っていく。
その葉は旋風に乗ったように回転し、アルビィネを完全に包み込んだ。
その散りゆく葉の数が増えるにつれてアルビィネの姿は見えなくなっていく。
そして旋風が止んだ時…空中に浮かぶ怪物は消え、代わりにゆっくりと舞い散る木の葉の中に立つ『コノハ』の姿があった。
「…。」
彼女は俯いたまま無言でいる。
警察署内で暴走していた時のようなヤバさは微塵もなく、むしろ儚げだ。
右目も例の葉で覆って封印してある。
「私…、」
消えそうなくらいか細い声で彼女は口を開いた。
「人間じゃ、ないんですよ?あんな、厨さんから見れば怪物みたいな姿が…本当の私なんですよ…?」
「?…何か問題あるかな?僕はね、コノハ。」
厨は穏やかな笑みを湛えて言う。
「そこに愛があれば構わないと思う。僕は君を愛しているし、君は僕を愛してくれている。それでいいんだ。後はもう、何も要らない。」
「厨…さん…。」
ハッとしたように顔を上げるコノハ。
で、周りのギャラリー達(週一とか)は逆に顔を背けた。
あんまりにも恥ずかしい台詞だから直視できないのだ。
「それでも君が種族の違いを気にすると言うのなら…、そうだよ、僕たちが違う種で結ばれる最初の2人になればいいさ。」
「厨さんっ…!!」
瞳を涙で潤ませ、コノハは厨の元に駆けた。
そして抱き合う2人。
多分、このフレーズを出すのは最後だけど…片や正義の味方の実兄、片や悪の四天王。
…でも、まあ、それもいいのかも知んない。
◇◆◇
「ふん。」
モニターを見詰めていたカイネが鼻を鳴らす。
何だか小馬鹿にしているような感じだが、表情は穏やかで口元は綻んでいた。
「落ち込んで帰ってきたら、一杯付き合ってやろうと思っていたのだが…。要らん心配だったようだな。」
優しそうな瞳でモニターに映るコノハを見た。
「…その幸福、絶対に放すなよ。」
軽く微笑み、踵を返す。
自動ドアの静かな音と共に彼女はモニタールームから去って行った。
無人の部屋のモニターには抱き合う2人の姿が、誰のためにでもなく映し出され続けている…。




