14-6.日本終了まであと4分23秒
ジャッ!!
アルビィネの角から緑色のレーザーが迸る。
それは警察署から直線状に200mくらいを焼き払った…いや、レーザーの通った部分に植物を生やした。
ビルの鉄筋はその部分だけ木製に変わり、道路にはアスファルトを砕いて雑草や花が生える。
運悪くレーザーの直撃を受けた人間は、肉体に影響はないものの服が葉っぱに変えられてしまった。
『コォォォォォォゥゥゥゥッ…。』
動物の声というよりはくぐもった呼吸音のような低い鳴き声を響かせ、アルビィネは眼下に広がる街を悠然と見下ろす。
もうその目には綾&沙紀、そして権下など映ってはいなかった。
何の制約もなく新種の植物を誕生させ、星の生態系を破壊できるこの生き物にとってウゴクンジャーや人間なんてあまりに小さく取るに足らないのだ。
本気でヤバい生命体。
4分23秒で日本が滅んでも別に不思議はない。
「…くっ…!!あんなの、反則だよッ…!!」
飛び降りた時に足首を捻ったのだろう、片足を引き摺るようにして立った沙紀が悔しそうに声をあげる。
「痛っ…、飛んでるから攻撃できないね。お手上げお手上げ。私もう帰りたくなってきた。」
膝の擦り傷をハンカチで拭いながら不機嫌そうに綾が言った。
空飛ぶ怪物に驚愕とか戦慄する以前に服が汚れたり怪我したりしたのにご立腹なようだ。
正義のヒーローにあるまじきことに。
『コォォォォォゥゥゥゥッ…。』
パリッ…!
アルビィネの角に緑色の光が収束していく。
今度は角だけでなく、無数の触手の先にも同じ光が集まってきていた。
…例のレーザーを放つ気だ。しかもさっきとは比べ物にならないくらいの量&出力で。
マジメに日本が植物でどうかなりそうだ。
「マイクロスタンミサイル!!」
ボンッ!!
その時、女の声と共にアルビィネの頭部に小さな爆発が起こった。
「!?」
沙紀は声の聞こえてきた方向に振り返る。
聞き覚えのある声…っていうか該当者は1名しかいない声。
そしてその予想は的中した。
「鎖雪ちゃん!?それに…センパイ!!」
「え?週一君?…あ、鎖雪ちゃんにお兄さんも!」
沙紀に続き綾も反応する。
でもコイツは週一や鎖雪よりも厨に反応したって方が正しい。
「お兄さん?…もしかしてそっちの人、センパイの?」
「また会ったね、彩さん。そして君は…歐邑さんか。シュウから話は聞いているよ。初めまして。」
微笑んで自己紹介する厨。
でも当然ながら今はそんなことやってる暇はない。
「そういう話は後で!それよりあの怪獣をどうにかしないと!!」
週一が叫ぶ。
しかし彼にもアルビィネを攻撃する手段なんてNOTHINGだ。
そう、攻撃できるのは。
「だねっ!アタシに任せて!!…ヴァンカ=ヒール!マイクロスタンミサイル一斉掃射!!」
鎖雪の頭上に浮いていた超小型補助戦闘機ヴァンカ=ヒールからマジックインキ大のミサイルが放たれる。
しかし。
ボンッ!!
ミサイルはアルビィネ本体に届く前に触手の一振りで破壊された。
全4発あったのに、破壊音は1つ。
触手のスピードが異常に速いのだ。
居合切りみたいな勢い、人間でも両断されそうな勢いだった。
「うわ。」
「やっぱアタシに任せるのは無理。」
納得した様子で言う鎖雪。
まあ、誰もヴァンカ=ヒールの攻撃であの怪獣を倒せるとは思ってなかったので悲観はしなかったが…。
中途半端な攻撃のせいでアルビィネの注意が彼女に向けられることになった。
ヒュン…
触手がまるで鞭のように唸りを上げ、鎖雪に襲い掛かる。
そして、あまりに速いそのスピードは誰も対応することができなかった。
◇◇◇
「奴の動きが…止まった?」
ビルの屋上で合体巨大ロボが届くのを待っていた(きっと届かないが)冥介が呟く。
緑のレーザーを放ち、いよいよ本格的な攻撃が始まるかと期待してたのにあの怪獣は動かなくなった。
それはいいことなんだけど、彼は残念そうだ。
「マズいな…。暴れてくれなければロボットの登場はないぞ…。」
…そういう理由で。
「そうですね。でも暴れないに越したことはありませんよ。私達はハンターではありません。争いを求めてはダメですよ。そう、私達の目的は…。」
「…なるほど。さすがチーフ、俺もまだまだ修行が足らないな…。」
目を細め、意味ありげな笑みを浮かべる(ハッタリだけど)憬教授とニヒルな笑みの冥介。
本人達はきっとカッコいい伏線みたいな状況を考えているんだろうけど、もちろんギャラリーはゼロだ。
だからアホが2人で意味のない会話をしている以外の何物でもない。
「さてと、これからどうしましょう?私としてはひとまず退くっていう作戦を一度やってみたいんですけど…。現場がああだと電話に出てくれないかもしれません。」
「確かに『ここはひとまず退くんだ!』という台詞は魅力的ですね。強大な敵を前にしたヒーローは一度退き、そして修行をして再び相手と対峙するものですから。」
現場では未だかつてない危機的状況だってのに、ここにいる2人はマジで緊張感ゼロだ。
奇跡の力とかを何の根拠もなしに信じてる冥介。
そしてチーフとは名ばかりで実際は何の役にも立ってない憬教授。
そんな2人だからこその余裕だった。
と、憬教授は思い出したように冥介の方を見た。
「そういえば八又之君は戦わないんですか?巨大な敵に挑むのはなかなか素敵だと思うんですが…?」
「俺はどちらかというと巨大な敵より強大な敵に挑む方が好きなんです。できれば相手はビジュアル面強化の気高そうな敵がいいですね。それと華麗に剣を交えて勝利する、それが俺のヒーロー美学です。」
意味不明な理想。
でも冥介らしい。
だから憬教授は、なるほどと微笑んで頷いた。
「その夢、叶うといいですね。」
…多分、叶わないと思う。




