14-3.蟹令李3兄弟
「でもびっくりしたよ、ちゅう兄が救急車で運ばれるなんて。でも…よくそんな怪我で済んだよね。聞いた話だと10m以上吹っ飛んで八百屋に突っ込んだんだって?現場は血の海、誰もが死んだって思ったって言ってた。」
「ああ、八百屋特製トマトジュースの製造機に突っ込んだんだ。血じゃないさ。でも僕も気絶しちゃったから…死んだふうに見えたかもね。」
トイレから出てきた週一&厨は笑いながら話していた。
「鎖雪は緊張が解けた瞬間に泣き出すし、父さんや母さんは海外から駆け付けようとするし…大変だったよ。まあ、時速100km以上出してるバイクに撥ねられたんだから仕方ないかもしれないけど。」
「僕だって死んだかと思ったさ。奇跡的に助かったのはきっと、コノハがくれたコレのおかげだよ。」
そう言って懐からビーム果物ナイフを出す。
コノハと初めて出会った時に渡された例のアレだ。肌身離さず持っていたらしい。
…どうやら厨が助かったのは本当にビーム果物ナイフのお陰のようだ。
現代のあらゆる兵器、攻撃が無効化されるダークキャン・Dグッズの恩恵ってわけ。
それでも吹っ飛んでしまったのは、ほんの僅かバイクが生身の部分に当たったのだろう。
「その棒が?あんまり関係ないと思うけど…。」
確かにビーム果物ナイフは抜かなければただの棒にしか見えない。
それに週一は兄の恋人はダークキャン・D四天王ではなく、木下コノハさんっていう人間女性だと思ってるからなおさらだった。
「シュウ、愛は奇跡を起こすものなんだよ。」
専売特許の穏やかな表情で微笑む厨。
週一は何か反論する気が失せ、苦笑した。
「でも、そのコノハさんにも心配かけずに済みそうで良かったね、ちゅう兄。」
「ああ、実のところ…それが一番なんだ。彼女の悲しむ顔だけは見たくないからね。」
…もう遅いってことに馬鹿兄弟は気付いてない。
◇◇◇
病院から1kmほど離れた場所にある警察署、その裏手にある取調べ専門の棟に向かって1人の女性が歩いて来ていた。
大人しめな茶色の服にロングスカートという格好で、端正な顔立ちをしている。
しかし右目を葉っぱが眼帯のように覆っており、葉で隠しきれない頬の辺りに痛々しい裂傷跡のようなものが見受けられた。
「…。」
虚ろな瞳でゆっくりと門に近付く彼女に守衛らしい警官が駆け寄って来る。
「どうかしましたか?警察署に御用でしたら表口から入って下さい。こちら側は一般の方の立ち入りを禁止していますので…。」
「…バイク事故を起こした人は、ここに?」
警官を見ず、建物だけを見詰めて彼女は呟くように訊ねた。
「先程の商店街で起こった人身事故ですね。ええ。ですが面会などは、」
「今すぐ、連れて来て下さい。」
「それは…できません。」
「なら、私が行きます。」
女性はそう言うと再び歩き出そうとする。
警官は慌てて彼女の腕を掴んだ。
「一般の方の立ち入りは禁止です!!お引取り下さい!!」
「…退いて下さい。」
「ダメだと言っているでしょう!?」
彼の問いに女性は即答しなかった。
怪訝に思った警官が再び問い掛けようとした時、彼女の右目を覆っていた葉がひらりと地面に落ちる。
その瞬間、警官は目を見開き、掴んでいた腕を放した。
「なっ…!?右目が…、」
「…あなたは、邪魔です。」
ゆっくりと女性は右腕を掲げ、振り下ろす。
同時に緑色で三日月状の波動みたいなのが警官を襲い、彼は悲鳴を上げる間もなく吹っ飛んだ。そしてフェンスに激突する。
「…。」
気を失った警官を一瞥し、彼女はゆっくりと歩き始めた。
何か、マジでヤバい雰囲気だった。
◇◇◇
「あ、ちゅう兄&シュウ。」
トイレから戻って来た兄2人に鎖雪が駆け寄る。
もう涙は流していなかったが、泣き腫らした跡はバレバレなまでに残っていた。
「やあ、さゆ。待ったかい?」
「お待たせ。んじゃ帰ろっか。」
爽やかな笑みと馬鹿っぽい笑顔の厨&週一。
本当に脳天気な奴らだ。
「うん。…あ、それとさっきコノハさんにファリアさん経由で電話して、ちゅう兄が撥ねられたって伝えたんだけど…途中で電話切れちゃって。と、思ったら目の前にコノハさんがいて、一瞬目を離したら消えてた。」
そんな2人を見上げ、鎖雪は言った。
「ごめんな、さゆ。心配掛けすぎたせいで幻覚が見えちゃったんだね。」
厨は変わらぬ笑顔で妹の頭を撫でる。
流石の実兄でも彼女の説明は意味不明だったのだ。
まあ、鎖雪の意味不明ぶりは今に始まったことじゃないんだけど…今回は本当に錯乱しててもおかしくない。
「…だよね。うん、アタシも変だと思ったんだ。あんなに一瞬で病院に来れるはずないもんね。それに、」
ペンペンポン♪ペペペンポロン♪
その時、マヌケそうな着信音が週一のポケットから鳴り響いた。
ちなみに2222年の携帯電話は電磁波がゼロなんで病院内で切る必要はなくなっている。
もちろん病室ではマナーとして切るけど。
「シュウ、マナーモードにしなくちゃいけないよ。」
厨がやんわりと注意する。
週一はゴメンと小さく謝り、携帯を取り出す。
「このエンブレムは…歐邑か。もしもし?」
通話を始めて数秒。彼の顔から脳天気さが消えた。
で、似合わないシリアス面をして携帯をしまう。
「ど~したの?シュウ。」
「急用かい?」
訊ねる兄妹に、週一は向き直った。
「警察署にダークキャン・Dが現れた。しかも…何だかシャレにならないくらい強いらしい。」
「ダークキャン・Dが…。行くの?」
「対抗できるのって僕らウゴクンジャーしかいないかしね。」
苦笑しながら答えると、鎖雪が微笑んだ。
「ううん、ここにもう1人。『ヴァンカ=ヒール』!!」
ピシッ…!
鎖雪の声と共に空間に亀裂が入り、ガラスを割るみたいにヴァンカ=ヒールが姿を現す。
「危険だぞ?…って言っても無駄か。」
「えへへっ、そうそう。だから一緒にGO♪どんな怪人か見たいしねっ。」
少し前まで泣いてたのに、今は好奇心に目をギラつかせたアホ娘になっている。
流石は鎖雪、蟹令李家の女だ。
「…僕の知らない間に2人とも何だか凄い事になってるようだね。僕も手を貸そう。」
実は週一がダークキャン・Dと戦ってるとは知らなかった厨。
もちろんヴァンカ=ヒールを見るのも初めてだ。
でも別に驚いていないのが彼らしかった。
「え?手を貸すって…。ちゅう兄、普通の人はダークキャン・Dを倒せないよ?」
「大丈夫。以前に1体だけだけど…倒したことがあるからね。」
カチャッ…
懐から例の棒を取り出し、抜き放つ。
それは地味な棒からダブルのビーム果物ナイフへと真の姿を現した。
「それは…!?」
「今重要なのはコレが『何か?』ではなく、コレで『何ができるか』だよ、シュウ。」
彼の肩に手を置き、微笑む厨。
微妙に頼り甲斐があるように感じる。
だからってわけじゃないけど、週一は頷いた。
「だね。…じゃあ、行こうか。どんな敵でも多分何とかなるさ!」
「そうそう!歐邑さんや綾さんもいるんだし!」
「うん、兄弟みんなで何かをやるって素晴らしい事だね。」
遂に(?)結成された蟹令李3兄弟。
総合能力は…まあ何ていうかあんまし期待できないけど、結束力だけは良さそうだ。
そしてコイツらは今から現場に向かう。
…そこに待ってるのが『彼女』だとは知らずに。




