14-2.集中治療室にて
その頃、週一の街にある警察署の一室で男が取り調べを受けていた。
茶髪で鼻に絆創膏を貼ったガラと頭の悪そうな男。
久々登場のヒサ君、そう権下 久だ。
「だから言ってんだろ?アイツが飛び出してきたんだって。俺はちゃんと青信号で渡ったんだ。信じてくれよ、刑事さん。」
ガムをくちゃくちゃ噛みながら弁解(?)する。
…厨を襲ったバイクに乗っていたのはどうやらコイツらしかった。
本当に週一と縁がある男だ。
前世からの因縁かもしれない。
「通行人が証言した。お前は時速100km以上でカーブを曲がり、減速もせずに横断歩道に突っ込んだとな。」
「誰だ!?その証言したヤツってよ!!ブッ殺す!!」
「…それにだ、ブレーキで溶けたタイヤ跡を調べたんだが、あれはどう見ても異常なスピードで急ブレーキをかけたとしか考えられない。証言者がいなくてもお前の違反は確かなものだ。」
「…。」
権下は舌を鳴らし、大きく息を吐いた。
そして取り調べ机に足を乗せる。
態度最悪だ。
「弁護士呼べ、弁護士。呼ばねぇんだったら話さね~よ。」
◇◇◇
「コノハさん?コノハさん?」
いきなり切れた携帯に向かって鎖雪は呼び掛け続けた。
病院の待合室、他に人はいない。
前面ガラス張りのお洒落な窓から差し込む夕日も、何だか寂しげだ。
「鎖雪さん!!」
「えっ!?」
いきなり後から声が掛かり、彼女は振り返る。
そこにはたった今まで電話で話していた相手、コノハが立っていた。
「え…?電話で話してたのに…?」
「そんなことよりもっ!!厨さんは!?」
血相を変えて言うコノハ。
いつもは乱れひとつない髪型が少し崩れ、息も荒い。
普段の彼女からは予想できないような姿だ。
鎖雪も泣き腫らしたみたいな顔をしていたが、コノハに会ったことでまた緊張感が切れたのだろう、涙をポロポロ流し始めた。
そして俯く。
「ちゅう兄は…今、集中治療室の、」
「っ!?そ、そんなっ!!」
ダッ!!
コノハは息を呑み、集中治療室がある棟へと走り出した。
◇◇◇
…厨さん。
コノハは病院の廊下を駆けながら、心の中で必至にその名を呼び続けた。
頭に浮かんでくるのは、これまで2人で過ごした短いけど幸せな日々。
そして厨の笑顔。
考えたくないと思いながらも、脳裏をよぎる最悪の結末。
…まだ生きてくれているのなら、病院関係者を蹴散らしてでもダークキャン・Dの要塞に彼を運び、宇宙最先端の治療を受けさせる。
その時に自分の正体が知れてしまっても構わない。
彼が助かるのなら、それでも。
「厨さんっ!!」
涙は流れなかった。
泣く余裕すらなかった。瞬間移動を使おうにも、正確な位置が分からなくては移動できない。
走るしかない。
ただ、早く。彼の元へ。
コノハを迎えたのは中年の医師だった。
集中治療室の10mほど前にガラス張りの扉があり、その前に立っていたのだ。
そして彼の背後に見える集中治療室のランプは消えていた。
「…お待ちしていました。ご家族の方、ですね?」
コノハは彼の前で立ち止まる。
そして頷いた。
走ったせいだけではない動悸が廊下に響くような錯覚を覚える。
彼女は自分の胸に手を当て、次の言葉を待った。
数秒にも満たない時間なのに、永遠にも感じられる時間。
医師は辛そうな表情をしてかぶりを振った。
「残念です。手は尽くしたのですが…あの状態では…。」
「!!」
コノハの目が見開かれる。
瞳孔が開き、輝きが失われていく。
そして彼女の表情は感情のない、無表情なものになっていった。
ピシッ…
壁に亀裂が入る。
医師はその音に顔を壁に向けた。
「…?ああ、そうです。お亡くなりになる直前、あなたに言伝を頼まれたのでした。」
彼は思い出したように言い、そして再びコノハの方を向く。
「『食い過ぎで死ぬなんて末代までの恥。難病とかで死んだと子供には伝えといてね』…だそうです。」
そこまで話した時、医師は目の前にいたはずの女性が消えているのに気付いた。
「あれ?」
「先生!!ウチの人は!?」
首を傾げる医師に太った女性が駆け付けて来る。
すると医師は再び辛そうな表情をして、かぶりを振った。
「…お待ちしていました。あなたがご家族の方、ですね?…残念です。」
「そんな!!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!太脂ぃぃぃぃぃぃ!!!」
泣き崩れる太った女性。
死んだってのはその女性の夫らしき人らしい。
ってことは厨は…?
◆◆◆
少し戻って…。
鎖雪は泣き疲れていたのだが、コノハに会ったことでまた緊張感が切れ、再び涙をポロポロ流し始めた。
そして俯く。
「ちゅう兄は…今、集中治療室の、」
ぐすっ…
嗚咽を飲み込み、彼女は疲れ切った笑顔で顔を上げた。
「集中治療室の前の角を曲がった所にあるトイレに行ってるの。軽い擦り傷で済んで…ホントに良かった…。」
そこまで話した時、彼女は目の前にいたはずのコノハが消えているのに気付いた。
「あれ?コノハさん?」




