11-7.カイネの暇つぶし
「うぅ、最悪ネ。せかくの休み、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないのカ?」
朝の廃れた商店街でビイの情けない声が響いた。
普段の拳法着っぽい格好じゃなく、半袖ブラウスに茶色のタイトスカートを穿いている。
きっとこのエセ中華娘にとってこの格好は普通の人間で言う部屋着に当たるのだろう。
ブラウスにシワがぐしゃぐしゃあることから、これをパジャマにして寝ている可能性が高い。
…いろんな意味で人間とは違う。
「そうだな、あえて理由を付けるとすれば…退屈だからか。」
答えるアダルトな声。
その主は…四天王、破甲のカイネだった。
5体ほどのチンパンGを控えさせビイに不敵な笑みを向けている。
「退屈なら散歩でもするよろし!」
「ああ、そうしていた。だがこちらの方が退屈をしのげる。」
カイネが目配せするとチンパンGが2体ビイに襲い掛かった。
「ヒトを退屈しのぎに利用しないで欲しいアルぅぅぅっ!」
叫びながらザコを吹っ飛ばす。
何だかんだいってクリティカル定食・ビイはA級怪人。
チンパンGなんてメじゃないのだ。
「それにお前はウェキスの剣から生き延び、2体の刺客怪人を退けたと聞く。なかなかの強者だ。…最近、骨のある相手に出会っていないものでな、拳を交えてみたくなったのだ。」
残った3体のチンパンGが襲い掛かる。
でもビイは流れるようなエセ中華拳法でそいつらを一瞬にして片付けた。
沙紀までとはいかないまでも、なかなかのクンフーだ。
「…ふむ。なかなかの動きだな。」
カイネは笑みを浮かべたままゆっくりと1歩進み出る。
キヨスクとは違う実力派四天王の威圧感が漂っていた。
「うぅ!勝てそうにないアルぅ!!ワタシはもう退かせてもらうヨ!奥義・發剄、」
「逃げようなどと考えないことだ。私のストリップ・レイはあらゆる装甲を1枚剥がす。…お前の場合、その1枚で消滅決定だぞ。」
そう、ビイは頭のラーメンどんぶりを取られたり割られたりすると消滅してしまう。
コイツにとってストリップ・レイは最悪な技なのだ。
「ッ!?」
「覚悟を決めろ。怪人の本分は戦うこと。逃げているだけの怪人に存在価値はない。」
少しだけ右半身を前に出すだけの構えなんだけど、隙がない構えを取るカイネ。
表情も余裕そのものだ。
そして何となく中華っぽい構えを取るビイ。表情はかなりヘコんでる。
「さあ、始めよう。…いい暇潰しを期待しているぞ。」
「…うぅっ、最悪最低最下位アルっ!」
人通り皆無な寂れた商店街で、戦いの火蓋が切って落とされた。
◇◇◇
「はっ!」
目にも止まらぬ…というわけではないけど、それなりに速いパンチを繰り出すビイ。
しかし当然ながらカイネは楽にかわし、逆に拳をビイの腹に叩き込んだ。
「…遅いぞ、クリティカル定食。」
「かぁっ!?…ッ!!」
本気の一撃ならきっとこれでKOだったろう。
しかしカイネの目的はビイの排除じゃなくて暇潰し。
手を抜いたようだ。
やられたビイは苦悶の表情に顔を歪めながらも下段の回し蹴りを放ち、カイネが避けると同時に自分も後方に跳んで間合いを取る。
「ケホッ!うぅ~、アナタ最悪ネ…。アザになったらどう責任とてくれるのカ?」
片手で腹を押え、彼女は涙目で言った。
敵にそんなこと言うのはアホらしいのだがそれでも言うのがこの自己中娘なのだ。
「顔は殴らん。安心しろ。それに怪人がアザなど気にして何の意味がある?」
「怪人は廃業したアル!アザを気にするのはオンナとして当然ネ!」
「…ほう、怪人も長く世にいれば完成した感情を持つようになるというわけか。興味深いな。」
「その言い方、何かワタシが実験動物みたいに聞こえるヨ!もうホンキで怒たアル!!」
ビイは腰に差してあった棒みたいなモノを抜く。
「武器だと?クリティカル定食シリーズにはそんな備品は付属していないはずだが。」
「貰い物ネ!」
バンッ!
軽い破裂音と同時に、その棒が扇状に広がった。
…扇子、カグヤが託した(ってか押し付けた)例の扇子だ。
「行くヨ!…満月扇ッ!!」




