11-4.優しい目覚め
「…何者だ。」
海を見詰めたまま冥介は口を開いた。
船を港に着けた直後からずっと船の先端で海を見ていたのだ。
「ヘエ、アタシノ気配ヲ見抜クナンテ流石ハうごくんじゃーノ男デ最強ノ戦士ネ。」
例のポンコツ、イミテイト沙紀だった。
いつの間にかクルーザーに侵入したらしい。
といっても、もう港に到着して1時間近く経っているから別に侵入しようと思えば誰でも侵入できる。
「ほう…、俺のことを調べたのか。その情報、完全に近い。」
多分、ウゴクンジャーの男で最強って言葉に反応したんだろう。
そういう人なのだ。
っていうか、ウゴクンジャーの残りの男っていうとヘタレの蟹さんしかいない。
冥介もヘタレだけどそれでもヤツよりはマシだろう。
そう考えると喜ぶようなことでもない。
「だがな、俺の実力は男の中で最強というわけではない。」
「蟹令李週一ノ方ガ強イッテ言ウノ?」
「いや。俺は…、」
ジャケットを翻して振り返る冥介。
その瞬間、ピンク色の光刃が唸りを上げて発生する。
「ウゴクンジャー最強の戦士だ。…覚えておくがいい、名も知らぬ怪人よ!」
「歐邑沙紀ガ最強ッテ聞イテタンダケド、ソウダッタノ。でーた書キ換エナイトネ。」
素直っていうか頭の悪いポンコツは、納得顔で頷いた。
◇◇◇
ギシッ…
ベッドに腰を掛ける週一。
視線を下げるとそこには鎖雪が静かな寝息を立てて眠っている。
「…さゆ。もう朝だよ、起きるんだ。」
普段は絶対出さないような優しげな声で語り掛ける。
本来なら叩き起こすんだけど、沙紀に脅されたから仕方ないのだ。
「ダメだ。声掛けただけじゃ起きない…。」
やっぱり毛布を剥ぐか、頭でも叩いてやろうかとか思ったけど、やっぱり沙紀が怖いので躊躇われる。
で、考え抜いて出した結論は…、
「さゆ、起きるんだ。いい子だから…。」
「ん…?んんっ…。」
目をゆっくりと開く鎖雪。
しかし開いた途端に広がっていた光景に、彼女は少し固まった。
「…ええと、シュウ。何してるの?」
互いの顔の距離、およそ10cm。
週一はまるで自分を抱くみたいな感じで屈み込み、髪を優しく撫でていた。
…確かに優しく起こせとは言われた。
でも、何か違う。
根本的に何か違うって言うか、違いすぎだ。
微妙な沈黙がいつまでも流れる…。
◇◇◇
「ふぅん。それで、先生帰っちゃったんだ。急用なら仕方ないよね。」
大きな欠伸をして綾は言った。
口元には涎の跡が付いており、色気もクソもない。
そういうのに無頓着って言ってもにも程がある。
「まあそれはいいとして…、鎖雪ちゃんはどうして沙紀ちゃんの後に隠れてるの?」
…昨日は週一にぴったりくっ付き、仲良しこよしで彼とアホな話をしていた鎖雪なのに、今朝はその週一を避けるみたいな形で沙紀の後に控えてる。
表情も何だか微妙だ。
「え?それは…、」
鎖雪は答えようとしたが、途中で声を濁す。
そして誤魔化し笑いを浮かべた。
「何でもないですよぉ。綾さんの気のせいですって。」
「…怪しい。」
鈍感馬鹿の綾でも一応は女。
野生の勘の方が鋭そうなコイツだけど女の勘ってのも申し訳程度に存在する。
だから鎖雪がおかしいって気付いたのだ。
「鎖雪ちゃん、いいからお姉さん達に話してみて。私も沙紀ちゃんも人生の先輩。勉強の悩みに部活とかの確執、恋の悩みに友人関係。きっとどんな事情でも万事解決だよ。」
「綾さん、ちょっとそれは言い過ぎ、」
沙紀が苦笑して言うけど聞いちゃいない。
ちなみに勉強の悩みは脳味噌ボンバーな綾じゃ解決できないし、部活も両者共に帰宅部出身。
恋の悩みは解決できるほど経験値がない。
というかゼロ。
唯一対応しているのは友人関係だけど、綾の親友は週一君で沙紀の親友は水面さんと、どっちも特殊な人間だ。
役に立つとは思えなかった。
「だから言って、ね?ホラ、早く。マッハで。」
好奇に目をギラつかせる綾。
きっと鎖雪を心配してるんじゃなく、好奇心を満たしたいだけなんだろう。
バレバレだ。
でも鎖雪の鈍感度は綾よりも達しているらしく、それに気付いてない。
少し迷った後、口を開いた。
「…じゃあ、言いますね。」
「うんうん!そうだよ、言って楽に、」
ドンッ!!
その瞬間、もの凄い轟音が鳴り響いた。甲板の方だ。
「沙紀ちゃん!」
「…まさかダークキャン・D…。」
綾&沙紀は真面目な顔になって目配せする。
そして駆け出して行った。
まあ、十中八九沙紀の勘は当たりだろう。
残ったのは週一と鎖雪だ。
「…さゆ。」
小さく息を吐いた週一が鎖雪に向き直る。
鎖雪はちょっと後ず去った。
「シュ、シュウ。ごめんね、アタシまだ心の準備とか、」
「さっきから言いたかったけど、お前は何か勘違いしてる。僕はノーマルだ。無実だ。アレは歐邑に言われてやっただけの事なの!」
「…ホントに?」
「だから頼むから綾に変なコト言わないでくれ。絶対妙な反応するから。」
少しの沈黙。
数秒後、鎖雪の顔にいつものアホっぽい笑顔が浮かんだ。
「分かったよ、シュウ。実はちょっと困ってたんだ。ホンキだったらどうしようとか思ってて。でも安心したよ、うん。」
「僕もそれを聞いて安心した。お前はすぐ暴走するからな。」
週一はそう言って微笑む。
緊張感とかゼロだ。
今さっきダークキャン・Dが原因と思われる轟音が鳴り響いたのってのに。
「よし。じゃあ僕はみんなの加勢に行くから。さゆはここに隠れてな。」
「アタシも行く。止めたって行くから。」
「…仕方ないな。無茶するなよ。」
というか止めようにも術がないのだ。
映画の主人公がやる首筋アタックやボディブローで気絶させる芸当も持ち合わせてないし、言葉でどうこうなる問題じゃない。
「OK、シュウ。ほどほどにするね。」
「よし。行くぞ!」
そうしてアホ兄妹は駆け出した。
綾と沙紀が去ってすでに5分近く経っている。
もう戦闘とか終わってるっぽかったけど、それでも2人は駆けて行った。




