11-2.目覚めよ、暴力女子高生
コンコン
週一は船内にある小部屋のドアを叩いた。
この部屋に綾と沙紀が仮眠しているのだ。
ちなみに憬教授は仮眠もしていない。
後片付けをするとか言って徹夜していたのだ。
だから他の小部屋には鎖雪が2つのベッドを独占している。
「歐邑、起きてる?」
ドア越しに訊ねるが、返事は返ってこない。
だから週一はドアノブを回した。
カチャッ…
鍵は掛かっておらず、すぐ開く。
中を覗き込むと2つベッドが並んでいた。
「…うん、対称的。」
綺麗な形のベッドで寝ているヤツと、毛布がどっかへ吹っ飛んで枕もなく、上半身がベッドから落ちかかってる寝ているヤツ。
育ちの違いが痛いほど現れている。
何か楽しい夢でも見ているのだろう、締まりのない笑みを浮かべて寝ている綾に苦笑して彼は沙紀のベッドに近付く。
この場合、起こすのは沙紀だけでいいだろう。
起こす必要はないし、寝起きがデンジャラスな綾を起こす勇気はもっとない。
「歐邑、お母さんが迎えに来てるよ。」
「…。」
綾を起こさないように小さな声で呼び掛けるが反応はない。
普段の強気な表情とは違い、何とも可愛らしい顔で眠っている。
もともと美少女な沙紀だ、週一がマトモな男性ならこの寝顔にノックダウンしただろう。
それだけ理性ブレーカーな寝顔だ。
でもこの蟹野郎はいろんな意味でダメ人間だから別に何とも思わなかった。
「お~い、GetUp、起きろ、目覚めよ、朝ですよ~、オキテヨ、学校遅れるよ~。」
様々なレパートリーで再度呼び掛けたが、やっぱり反応はゼロ。
「…目覚めよ、暴力女子高生。」
恐る恐る変な言葉も掛けたみたけど、起きない。
でもこの場合は起きない方がよかったからOKだ。
というか、面と向かって言えないようなコトを言えていい気分だった。
やり遂げた男の顔でフッって笑みを浮かべる週一。
でもこんなアホなことしてる暇はないってやっと思い出した。
「…っと、早く起こさなきゃな。でもどうやろう…。」
声を大きくすれば起きるだろうけど、そうすると綾も起きる。
起こしたらきっとえらいことになるだろう。それを考慮すると音に頼るってテはなしだ。
だとしたら。
「1、毛布を剥ぎ取る。2、懐中電灯の光を目に当てる。3、ほっぺ叩く。」
彼は呟いた。
その3つは彼が実家に帰った時とかに妹の鎖雪にやる方法だ。
で、週一は厨にやられるてる。
このアホは、沙紀をこのどれかで起こそうと思っているらしい。
…本当にアホだ。
実の妹にはやっていいことでも、他人でしかも女性にやっていいはずない。
しかしガールフレンドは綾っていう変わり者しかいないし彼女イナイ歴をそのまま人生として歩んでいる週一君だ。
そんなの分かっちゃいない。
少し考えた週一はやがてポンと手を叩いた。
「よし、手堅く1番でいってみるか。眩しかったり痛かったりするよりはいいだろ。」
…最悪の選択をしたことに、この馬鹿は気付いていない。
◇◇◇
「それで、母さんが迎えに来てるんだって?」
甲板に出ながら沙紀は訊ねた。
「うん。何でも急用とかで。」
ちょっぴりボロボロになった週一が答える。
…あの後、布団を剥がした瞬間に5発ほど殴られたのだ。
でも気絶してないのは、沙紀が少し手加減をしてくれたからだろう。
でも殴らないっていう優しすぎる選択肢はなかったようだ。
当然だろうけど。
「おかしいね、母さんはイタリアにいるはずなんだけど…。」
「急用だから帰って来たんだよ、多分。」
「う~ん…。」
2人は話しながらタラップを降りて行く。
と、待っていた冴が微笑みながら軽く会釈をした。もう座ってはなく、
なぜか集まってきていたカモメにパン屑を与えている。
「あ、冴さん。歐む…じゃなくて沙紀さんを連れて来ましたよ。」
「沙紀さん…?」
冴は少し小首を傾げて沙紀を見た。
沙紀の方も不思議な顔をしている。
「センパイ、この人…誰?」
「誰って歐邑のお母さんじゃないのか?」
週一もアレッって顔をする。
これでその場にいた3人全員が頭上にハテナマークを浮かべたわけだ。
何ともカオスな空間、どうしようもない時間が流れる。
このままずっと固まってるのか?って状況を打破したのは、タラップの所から顔を覗かせた『あの人』だった。
「あ、お母さん。」
…それは、27歳の大学教授。
柱都憬、その人だった。




