10-14.兄妹の怪しい会話
「で、誰だったの?」
携帯電話をポケットにしまう週一に綾が訊ねる。
「海月さんだよ。」
「水面ちゃんから?感心しないなぁ、こんな場所でコソコソ2人きりで密談してちゃ。」
「アホなこと言うなよ。別に普通の話だって。」
そう言う週一だが、綾の追求は止まなかった。
「一応水面ちゃんは人妻なんだから、あんまり怪しまれるようなことはしない方がいいよ?それで何を話してたの?」
「KOするチャンスだからどうとか言ってた。意味不明だよ。」
彼はやれやれと肩を竦める。
本当に分かってないのだ。
その様子に付き合いだけは長い綾はどうやら納得したようだった。
まあ、週一君に人妻に手を出すような甲斐性はNOTHINGだってことなど最初から分かってたんだけど。
「ふぅん。確かに意味不明ね。まあいいや、それより週一君。」
「自分から話振っといて『まあいいや』はないだろ…。で、何?」
「八又乃さん知らない?ポーカーの必勝法を教えくれるって言ったのに、どっか行っちゃったの。」
…昼にやってたポーカーのことだ。
あれで週一は全敗したが、冥介は勝率7割という偉業を成し遂げていた。
週一の次に負けていた綾はやたら悔しがっていたが…どうやら必勝法とかいうのを教えてもらう約束をしたらしい。
「さっきまでここにいたけど、船室に戻ってったよ。多分、どっかの部屋にいるんじゃないか?外にはいないと思う。」
「じゃあ行き違いかな?分かった、探してみるね。」
うんうん頷き、綾はさっさと船内に戻って行った。
しかし彼女と一緒にやって来た鎖雪は戻らない。
怪訝な様子の週一に微笑みかけながら、彼の所に歩いて来た。
「何だよ、さゆ。お前も八又乃さんに用があるんじゃ?」
「ううん。アタシはシュウの方に用事。」
「僕に?まさか何かおごれとか帰りの電車賃がないから貸せとか?」
「ハズレ。」
笑顔のまま彼女は週一の隣に立つ。そして手摺りに背を預け星空を仰いだ。
◇◇◇
「…言いたいことは分かったよ、さゆ。」
鎖雪と同じように手摺りに背を預けた週一は、すぐ隣にいる彼女を見ずに言った。
「でも、僕じゃなくてもいいんじゃないか?もっといいヒトがいるだろ?」
鎖雪はかぶりを振る。
「ううん、シュウじゃなきゃヤダ。…と言うかシュウ以外にはいないよ。」
「どうしてそう思うんだ?」
「それはね、」
少しだけ弾みをつけ、手摺りから離れる。
彼女はそのままくるっと反転し、週一の正面に出た。
手を後で組み、微笑みながら彼を見る。
「性格がピッタリ。ずっと昔、ふざけてやった相性診断でも100%だったよね?ケンカも一度もしたことないし、一緒にいて楽しいし。それに他の男の人にはない雰囲気が好き。凄く寛容で誰に対しても同じように接するしね。下心とかそういうのがゼロって感じがするから。」
「う~ん、それは買いかぶりだと思うけど…。」
週一は苦笑した。
そしてそのまま困ったような笑顔で言う。
「…それに、やっぱりマズいんじゃないかな?」
「何が?」
「だってホラ、僕達一応は兄妹なんだし…。」
「そんなの大した問題じゃないよ、シュウ。大切なのは気持ちなんだから。」
「気持ち、か…。」
「そう。気持ち。それさえあれば何だって大丈夫だよ。…ううん、障害だって大丈夫にしてみせるよ。」
「…まったく、お前らしいって言うか。」
そう呟き週一は目を閉じる。
しばしの沈黙が流れた。
「…ふぅ。」
「…。」
小さく息を吐き、彼は目を開く。
そして鎖雪を見て微笑んだ。
「分かったよ、さゆ。僕でよければ。」
「ありがとう。シュウ。」
鎖雪も微笑む。
そして言った。
「あと、約束してね。浮気はしないって。」
「当然だよ。蟹に誓って浮気なんかしないさ。」
そしてダブルで微笑む兄妹。
…それにしても、コイツらは何の話をしていたのだろうか?
知らない人が見たら兄妹の会話とは思えない会話。
そして『兄妹じゃマズい』事で、『浮気』しない約束を。
何だか本当にヤバい雰囲気爆発だ。
前回の『激走!蟹レース』でもこんな感じの抽象的な台詞でよからぬ予想をさせたが、今回はもっと危険な香り。
ひょっとすると、ひょっとするのか?
インモラルな世界へ旅立ってしまうのか?
波の音のする夜空の下、疑念の兄妹は仲良く笑っていた。




