10-11.圧倒的な温度差
ポーカー10連続最下位を喫した週一は、1人甲板に出ていた。
と、マナーモードにしていた携帯が震える。取り出してみると、
よく分からない紋章が映し出されていた。登録した覚えがないのにいつの間にか入っていたエンブレム。
…カイネからだ。
「ん?何か用?」
普通に出る週一。
敵から掛かって来た電話に普通に出るって、何だか根本から間違ってるような気がしないでもないけど、まあコイツだからOKだ。
馬鹿だし。
『海は楽しんでいるか?』
ディスプレイに優しい笑顔のカイネが映る。
「うん、おかげさまで。それで…何?まさか戦うとか?」
『今日は襲撃しないと約束したからな、約束は守る。今日は別の要件だ。』
「?」
『さっき、アメリカを征服したのでな。何か欲しい物があったら言ってみろ。アメリカで手に入る物なら何でもいいぞ?土産に持って行ってやる。』
…四天王が攻めてた国ってアメリカだったようだ。
しかも買い物に行って来たみたいな軽い口調で征服宣言してる。
「…征服って、冗談だろ?アメリカ征服できるんだったら僕の住んでる街とかって1秒で征服されてるし。」
さすがの週一も怪訝な顔で言った。
『冗談か。まあ、そう取ってもらっても構わん。どうせ表に出すことなく傀儡国家にして、表向きは今のままで継続させるつもりだからな。』
カイネは可笑しそうに微笑み、そして再び訊ねた。
『まあ、とにかく欲しい物はないのか?ないなら、私が独断で選んだ物を土産にするが。』
「う~ん、じゃあ任せるよ。くれるなら何でもいいや。」
『そうか。では楽しみに待っていろ。』
もう話は終わりかと思い通話を切ろうとした時、彼女は思い出したように言う。
『そういえば、ホワイトハウスをお菓子の家に変えた時、大統領とか言う男が我々のアジトに向けて“核ミサイル”とかいうモノを撃ったのだが…あれは何だ?微弱な放射性物質と、初歩的兵器レベルの爆発力を持っていたが?切羽詰って何でもいいから攻撃を、とでも思ったのだろうか?』
…アメリカは核ミサイルを放ったらしい。
ちなみに2222年、兵器は従来の火薬兵器に加え、レーザー系の武器とかも現れており、どっちかっていうと主流はそっちだ。
核は忌まわしき過去の遺産とかで封印されていたはずなんだけど…。
「核って…。ええと、放射能とか致死みたいな気がするんだけど。爆発力も。」
『放射能などで死ぬ生き物がいるのか?爆発力も、あの程度ならアジトにある設備で2分で作れる。ふむ、どうやら地球と我々では価値観が違うようだな。あれは一応、やつらにしてみれば強力な兵器だったということか。』
少し感心したように呟き、彼女は付け加える。
『まあ、どちらにせよ核兵器はもう意味をなさない。地球全体に一定以上の熱と放射能を無効化するフィールドを張ったからな。それに伴い、開いていたオゾンホールを修繕しておいた。我々の征服する地だ、オゾン層のあちこちに穴が開いていては見苦しいからな。』
一定以上の熱を無効ってことは、温暖化ストップってこと。
放射能も無効化だから核施設とかでの事故もなくなる。
で、オゾン層は修復されたという。
ダークキャン・D、人類が何年も悩み続けてきた課題を一気に解決してる。
「何だかよく分からないけど凄いっぽいね。」
でも週一君にはそれがどれだけ凄いことか分かってないようだ。
コイツがもし頭のいい人間だったらダークキャン・Dを賞賛するだろう。
「じゃあ、もう切るよ?僕はそろそろポーカーをリベンジしなきゃいけないんだ。」
『分かった。ポーカーか。頑張れ、週一。…ではな。』
カイネは再び優しい微笑みを湛えて言った。
で、通信が切れる。
携帯電話をポケットにしまい、週一は大きく伸びをした。
「さてと、中に入るかな。…次こそ勝ってやる!」
◇◇◇
『あ、厨さん…。』
厨の携帯電話ディスプレイには微笑むコノハの姿が映っていた。
「やあ、コノハ。ちょうど君の声が聞きたいと思っていたんだ。」
例の穏やかな表情で言う。
毎度の事ながらラブラブだ。
…ダメなんだけど。
『今、仕事でアメリカにいるんです。明日帰るので、厨さんは何か欲しいお土産ありますか?』
「ああ、あるよ。どうしても欲しいものが。」
『何でも言って下さい。』
厨は微笑んだまま少しの間答えなかった。
で、ほどよい間を取った後、口を開いた。
「君だよ。」
『え…?』
「君に、早く無事で帰ってきて欲しい。他に欲しいものなんてないさ。」
『厨…さん…。』
第三者が見ていたらそっちが赤面しそうな会話だ。
でもこれは携帯電話。
邪魔するヤツも傍観するヤツもいない、2人の世界だ。
『はい…。私も、厨さんに早く逢いたいですから…。明日、一番に逢いに行きます。』
本当なら例のスイッチで瞬間移動できるコノハ。
でも厨には自分がダークキャン・Dだって教えてないから使うわけにはいかない。
これでも一応、自制しているのだ。
「コノハ…。」
『厨さん…。』
ディスプレイ越しに見詰め合う2人。
今日は場所が離れてるからいつもみたいな展開にはならなかった。
…とは言っても、明日に持ち越しになっただけなんだけど。




