10-9.楽しいクルージングの向こうの海で
冥介は船首の甲板に立ち、遠くを見詰めていた。
吹き付ける風が彼の髪とマントみたいなジャケットを激しく旗めかせる。
何て言うかとてもカッコいい光景だ。
「海の風は俺の心を裸にする…。フッ、こうしていると、訳もなく感傷的になるな。」
呟く冥介。
別に誰かに見られているからカッコつけているのではない。
もはやカッコつけるのが日常になっている彼にとって、これはむしろ自然なのだ。
「潮風。あんまり私は好きじゃないなぁ。だってベタベタしません?」
カッコつけるとかカワイコぶるとか縁のない女、綾がいきなり現れて言った。
手にはオレンジっぽいシャーベットが握られている。
「甲虫か。もう釣りは終わったのか?」
「みんな、船室にいますよ。船首の方に凄くいい部屋があって。八又乃さんは行かないんですか?」
綾はシャーベットを一口齧ると、それをシャクシャクやりながら答えた。
本当に色気のカケラもないヤツだ。
「そうだな、仲間たちと共に過ごす時間は何物にも替え難い。俺も行くとしよう。」
バッとジャケットを翻し、彼は歩き出す。
綾は残ったシャーベットを全部口に突っ込み、残った棒をそこら辺に置いた。
片付けるとかそういうつもりはないっぽい。
彼女は踵を返し、船室への入り口に向かって歩きながら言う。
「じつはトランプやってるんです。でも週一君がザコ過ぎて。八又乃さんは得意ですか?トランプ。」
「ポーカーなら得意だ。俺は冷静だからな。誰もその本心を窺い知ることはできんというわけだ。」
そう言いながら冥介は綾の捨てた棒を拾い、彼女に続いた。
…カッコつけてはいるけどゴミとかはちゃんと片付ける男、冥介。
海に来てあんまり目立ってない彼は、トランプって言う海とは関係ないゲームで目立てるのか?
そこのところはまだ不明。
◇◆◇
ウゴクンジャー御一行様が夏休みを謳歌しているその頃。
『ダメです!銃器は通じません!最新鋭のレーザー銃も全く無効です!!』
『うわぁぁぁっ!ぶ、武器が!武器が全部お菓子に!!』
『新型の軍用アーマー、効果ありません!そ、それどころか装甲が剥ぎ取られて!!』
司令室では、通信機からの悲鳴が止まなかった。
ちなみに悲鳴も声も全部英語。司令室を慌しく走り回ってる人々も、みんな外人さんだった。
「長官!ボブ・ユナイテッド隊、全滅しました!ステルス機まで簡単に風船に変えられ、兵士は全員着ぐるみ姿です!!」
「マイケル隊も全滅です!これで西海岸の全ての主要基地は制圧されました!」
軍服着たマッチョ兄ちゃんが叫ぶ。
で、報告を受けた禿頭の軍人…多分コイツが長官だろう。
彼はプルプル怒りで身を震わせ、荒い息のまま机に手を付いた。
禿頭に血管が浮き上がって何だかキモい。
「何が…何が起こっているというのだ!!!」
長官殿は、もう何が何だか分かりませんって感じの声で叫んでいた。
ヒュッ!!
何かが通り過ぎるように煌き、遅れて風が吹き抜けた。
兵士たちは目の前にいたはずの男が消えたのに気付き、慌てて振り返る。
「男の裸は見たくねぇ。特にマッチョは嫌いだ。」
植木鉢を頭に被った青年がそう呟くと同時に兵の8割(男性)の服がバラバラになり、ブリーフ1枚っていう悲惨な格好になる。
銃火器は全て細かく裁断されていた。
「オゥ!?な、何が起こったんだ!?」
叫ぶ(英語で)男性兵たち。
その様子を一瞥すると、青年は続けて言った。
「だが、戦場の花には大いに興味がある。ま、ゴツイ女が多いのは兵士だから仕方ねぇけどな。」
チンッ…
彼は背に十字に背負った鞘に、日本刀っぽい刀を納めた。
すると残りの2割(女性)兵士の服が、男性兵同様にバラバラになる。
でもこっちは下着もバラバラだった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして悲鳴。
戦場では似つかわしくない種類の悲鳴だ。
女性兵たちは近くにいた男性兵にびんたをかまし、凄まじい勢いで逃げ去って行く。
びんたによって我に返ったブリーフ姿の男性兵も悲鳴をあげて逃亡した。
「って、裸になっても健気に向かって来るヤツはいねえのかよ。根性ないねェ。」
残された青年はそう言いながらヘラヘラ笑う。
…言わなくてもバレバレだけど、この青年の正体はダークキャン・D四天王、双剣のウェキスだった。




