10-6.クルーズ開始
「そうですか。週一君の妹さん…。」
クルーザー『時航丸』が出航して数分、デッキでは憬教授と鎖雪が自己紹介し合っていた。
この2人は一応、初対面なのだ。
「はい。鎖雪っていいます!ええと、柱都さんもウゴクンジャーなんですか?」
「いえ。私はチーフです。変身はしませんよ。でもチーフと言ってもみんなの上司と言うわけではありません。仲間です。」
両者ともズレてる方々だ。
だからか知らないけど、いきなり意気投合した。
「でも柱都さん、スゴいです!私とあまり年変わらないのに、チーフだなんて!」
「え?ああ、言い忘れましたけど、私はもう27歳ですよ。鎖雪さんよりきっと10歳以上年上です。」
「え?そ~なんですか?でも…見えないです、スゴいです!」
2人は笑顔でお喋りを続ける。
その様子を苦笑いしながら見ていた週一だが、ふいに鎖雪を呼ぶ声がした。綾の声だ。
「あ、綾さんが呼んでますから、アタシ行きますね。」
彼女はそう言うと駆けて行く。
残った憬教授はその後姿を少し眺めていたが、やがて視線を週一に移した。
「妹さんですか…。お兄さんとしては心配でしょう?ボーイフレンドとか。」
「ははっ、全然です。あいつ、鎖を集めることしか頭にないから。そういう話はゼロですよ。」
…そういうオマエは蟹集めしか頭にないだろ?って感じだが、憬教授は微笑んだだけで何も言わなかった。
っていうか、以前言ったんだけど効果がなかったのは実証済みだ。
だから手すりに背を預けて話題を変える。
「でも本当に可愛らしい妹さんですよね。性格も明るくていい子です。顔もスタイルも申し分ないですし、そのうち週一君も悩殺されちゃうかもしれませんね。」
「…妹に悩殺されたらヤバいです。って言うか、僕はノーマルです。」
「ふふっ、照れなくても大丈夫ですよ。」
「どこをどう解釈すれば照れてるって言えるのか教えて欲しいですよ…。」
週一は苦笑すると、立ち上がった。喉が渇いたのだ。
「先生、水とかってどこにあります?」
「中に入って3番目の船室です。冷蔵庫の中に何でもありますよ。」
憬教授は後ろのデッキ、綾と鎖雪は多分、側面の釣りにちょうどいいスペース。
そして冥介は運転中ってわけで、船内は静かだった。
ライトグレーを基調にした明るい内装で時計型の照明からの淡い光が高級感を醸し出している。
「先生って一応お金持ちなんだな。クルーザーって高そうだし。でもあのアパート見る限りじゃあんましリッチには見えなかったけどなぁ…。」
冷蔵庫から取ってきたオレンジジュースを片手に週一は船の廊下を歩く。
デッキに上がってもよかったけど、船内捜索もいいかもって思っているのだ。
と、彼は前方にメインホールと描かれた扉があるのを発見した。
ドアの小窓から覗くと、それはどうやら船の船首部分を観覧室にしたみたいなヤツで、大きな長い窓から海が一望できる。なかなか洒落た仕組みの部屋だった。
◇◇◇
「あ、こんないい部屋あったんだ。」
入ろうとドアノブに手を掛けた週一だったが、そこで中にいる人物に気付いた。
…沙紀だ。
集合時には普通にしてたけど、今も彼は沙紀に命を狙われている(と勘違いしている)身。
他の仲間がいない場所で顔を合わすのは、とくにこんな密室で会うのは危険かと思われた。
しかし…。
「…。」
週一はドアノブから手を離し、少し考える。
そして意を決したように頷くと…もと来た通路を引き返して行った。




