10-3.夏の海といえば…
「あれ?まだみんな来てないんだ…。」
週一はいつもの蟹印のバッグを下げ、半袖の開襟シャツに綿パンっていうファッション性軽視の格好で呟いた。
「先生にメールでも…、」
携帯を取り出そうとしたその時、彼に向かって何者かが駆けて来る。
で、それに気付くと同時にマイクが向けられた。
「!?」
「こんにちは!富清テレビです!あなたは大学生の方ですか?」
「え?はい、そうですけど…。」
答える週一。
でもレポーター朝倉は回答を終える前に次の質問をぶつけてきた。
「今日はここに何をしに?やっぱり夏と言えばこの臨界海岸ですよね?誰かと待ち合わせですか?それとも出会いを求めて来たんですか?」
ラッシュの速さは変わっていないようだ。
矢継ぎ早な質問に週一は答えられないでいる。
と、そんな彼の背に声が掛かった。
「シュウ!取材されてるの?凄いね♪」
「え?」
振り返ると、そこには週一と同じような半袖開襟シャツを着た鎖雪が立っていた。
でも下は半ズボンだ。
何ともボーイッシュなスタイルでいる。
「さゆ!?どうしてここに…。」
「驚いた?実は綾さんに誘われたの。それよりテレビだよね、コレ!?凄い!アタシ、本物見たの初めて!」
鎖雪はにっこり微笑むと、週一の隣に出る。
「あ、どうやら愛しの彼女が来たみたいですね。やっぱり今日はデートなんですか?」
朝倉がニヤリと笑って言った。
違います、コイツは我が愚妹ですって週一が言おうとしたのだが…朝倉のマシンガンジャブが遮る。
「はい、とても可愛らしい彼女ですね。あなたも大学生ですか?」
すでに週一は眼中にNOTHING!
テレビカメラも鎖雪を映す。
「アタシですか?いえ、アタシは高校生です♪」
取材されてるのがそんなに嬉しいのか、鎖雪は楽しげに答えた。
というか、その前に自分たちがカップルじゃないって言って欲しい。
何だか前にもこういうことがあったような気がする(事実あった。憬教授の件)週一だったが、そんな彼の疑念を後目にレポートは続く。
「じゃあ女子高生の方なんですね!うん、やっぱりクラスの男子より目上の彼氏というわけですか!その気持ち、よく分かりますよ!」
朝倉は勝手に頷くと、2人の反応も見ずに次の言葉を放った。
「実は今日は、今年の海水浴の傾向についてリサーチしてるんですよ!今日は彼女、どんな水着を持ってきたんですか?やっぱり彼氏を悩殺するためにキワドイのを…、」
「あの、水着なんて持ってきてませんよ?」
鎖雪の言葉で、ようやく朝倉のマシンガントークが止まる。
やっとのことで反応してくれたみたいだ。
「え?でも今日は海水浴に来たんじゃ…?」
「アタシ、釣りに来たんです。ここはよく釣れるって聞きましたから♪」
「さゆ、お前…釣りなんかしに来たのか?僕はてっきり岩場で蟹探しかと…。」
気まずい沈黙が流れた。
レポート目的は海水浴客だ。
でも、目の前のコイツらは釣りとか蟹探しとかほざいてる。
「…あの、朝倉さん。別の人を取材しませんか?」
おずおずと田辺が提案した。
朝倉は数秒考えたが、やがてうなだれたように頷く。
「それしかなさそうね。」
…こうして週一&鎖雪アホ兄妹の初テレビ出演は幻に消えたのでした。
◇◇◇
週一と鎖雪からターゲットを変えた富清テレビ。
今度はあの場所から少し離れた所を歩いていた男女にマイクを向けていた。
「ハンサムですね!もうどこかのタレントって言ってもおかしくないです!こんな彼氏をGETしたあなたはラッキーですね!」
朝倉の前にいる相手は…冥介と綾だった。きっと集合場所に向かっている最中だろう。
「ええと、彼氏ってわけじゃ…、」
「それでやっぱり今日は海水浴に?実は今年の水着とかリサーチしてるんですよ!今日は彼女、どんな水着を持ってきたんですか?」
「水着?そんなの持ってきてませんよ。」
苦笑いする綾。
何だかさっきのパターンと似てるなぁって朝倉の脳裏を不安がよぎった。
「今日は潮干狩りに来たんです!もう家では酒蒸しや味噌汁がいつでも作れる準備ができてるんですよ。家庭的でしょ?こんな家庭的で可愛い私は今、彼氏を募集中です!奮ってご応募…、」
テレビカメラに捲し立てる綾。
コイツも朝倉に負けないくらい周りが見えない人だ。
そしてまたしてもダメな奴を取材してしまったテレビクルー達は肩を落とす。
「何?甲虫は潮干狩り目的で…。俺はてっきり、波止場で波を見詰めて黄昏るものだと思っていたが…。」
頭の悪いことを言っている2名を残し、富清テレビは再度新たなターゲットを求めて旅立った。
…こうして冥介&綾の自己中コンビのテレビ出演は幻に消えたのでした。
◇◇◇
「今度こそ!!あなたは海水浴に来たんですよね!?そうですよね!?」
「違いますよ。」
半泣きの入った朝倉の叫びも、そいつの微笑みで打ち砕かれた。
にこにこ笑顔で答えているのは憬教授だ。
胸元に大きなリボンの付いた純白のワンピースに麦藁帽子って格好をしている。
もう実年齢が何歳なのか計測不可能な領域に達していた。
きっとどこかのお嬢様(女子高生か女子大生の)だろうと踏んで取材した富清テレビだったのだが、またしても玉砕。
「海といえばクルージングです。あ、それと私はお嬢さんじゃありませんよ。27歳の大学教授です。」
「…。」
何だかげっそりしたクルー達は、ゾンビみたいな足取りでその場を去っていった。
まあ、海水浴の人気スポットで見付けた5人中5人が取材対象外だったのだ。
そのクジ運の悪さと言ったら航空機事故遭遇に匹敵するだろう。
…こうして童顔アホ教授のテレビ初出演は幻と消えたのでした。




