7-17.待ち人、現れず!?
「そこの貴方、待って下サイ。」
「…?」
振り返る綾。
そこにはパンダの着ぐるみ以外の何者にも見えないヤツがいた。
「パチンコ屋の宣伝!」
決定!って感じの笑顔で指差す綾だが、パンダ野郎はかぶりを振った。
「不正解デス。ワタシはダークキャン・Dの怪人、占いフューチャー。100%くらいの確率で当たる予言が特技デス。」
「ダークキャン・D!?」
綾は身構えた。
他のウゴクンジャーとは違う反応だ。
でも…顔はへらへら笑ってる。
どうやら酔っ払ってるらしい。
「待って下サイ、ワタシは戦うなんて野蛮なコト、」
「うるさいだまれ。」
「エ?」
さっきまでの笑顔はどこへやら、綾の表情は怒りに満ちていた。
「よくも私の服を…!!」
「エェッ!?な、何の事ですカ!?ワタシは今初めて貴方と、」
ビュッ!!
慌てる占いフューチャーに問答無用のすりこぎが襲い掛かる。
「ヒッ!?」
「何で避けるのよ!!今度は私の番だって言ったじゃない!!自分だけデコピンするなんてズルい!!」
…酒乱のようだ。
占いフューチャーは初めて自分が手を出してはならないモノに手を出してしまったことに気付いた。
遅かったけど。
「な、何を言っているんでスカ!?ワタシはただ予言を伝えたいだけ、」
「…アンタ、もしかして痴漢?許さないんだから!!」
「ヒィィッ!!?」
ベコッ!
据わった目で繰り出されたすりこぎの一撃が、パンダ野郎の顔面にめり込んだ。
「ガパェツ!?」
「アンタのせいで!!」
ドスッ!!
よろけたパンダ野郎の後頭部にすりこぎがヒットする。
「デバャッ!?」
「アンタのせいで、…あれ?」
バキャッ!!!
不思議そうな顔をしながらも綾は留めの一撃を頭頂部に叩き付けた。
「ギェアッ…。」
ゴトリと音をたててアスファルトに転がる占いフューチャー。
綾はそれを見ようともせず、首を傾げた。
「このパンダに何かされたっけ?」
そしてしばらく悩んでいたが、やがてケタケタ笑い始めた。
「ま~いっかぁ。あははははははは、せ~かい~は、ま~わるぅ~♪あはははは♪」
彼女はそのままふらつく足取り千鳥足のまま、その場を去って行った。
後には可哀相な占いフューチャーの死体だけが転がっていたという…。
◇◆◇
時は過ぎ去り夕方4時。
今日の講義が全て終了した週一は大学構内からの脱出を図っていた。
綾からのメールで、本部には行かないって連絡があったのでもうアパートに帰るのだ。
それに確か今日は憬教授は出張だとか言ってたような気がしないでもない。
「帰りに魚屋さんによって蟹を見ていくべきか?それともアパートに直行してサブ太とアジ美の観察でも…、」
低レベルでしかも蟹主体な悩みを抱えて歩く週一は、出口に近い角の所で急停止した。
「お、歐邑!?」
彼の視線の先には沙紀がいる。
タンクトップ野郎の細川君に何かを訊いているようだ。
「マズい。僕の居場所を聞き出して殺害する気に違いない…!」
少し前の事件(ポスターもらって嬉しさのあまり抱き締めちゃったコト)で沙紀が自分の命を狙ってるものだと思い込んでいる頭の悪い週一君は勝手に予測して怯える。
その件については同じく頭の悪い妹の鎖雪ちゃんと話し合い、1つの決定事項が制定されたのだった。
“しばらく沙紀との接触は控える”
「よし!ここは…別の出口から帰ろう。」
彼はうんうん頷くと、静かに踵を返した。
◇◇◇
「柱都先生なら今日は出張って言ってたな。」
細川君はそう言うと、小さく付け足した。
「…多分。」
「そう。じゃあさ、知ってたらでいいんだけど…蟹令李っていうアホっぽい人知らない?」
「蟹令李なら知ってる。あいつが何か?」
「今どこにいるか分からないかな?」
その質問に細川君は腕組みをする。
「う~ん、君みたいな可愛い子の力になってやりたいのは山々なんだけど…ちょっと分からないな。悪いね。」
「そっか。ありがとう、お兄サン。」
沙紀は残念そうに言うと溜息を吐いた。
そして大学校舎を見上げ、ふと呟く。
「…『待ち人、現れず』?」
確か今朝会った着ぐるみパンダが言っていた『予言』だ。
今まで完全に忘れていたんだけど、なぜかふと思い出した。
彼女は少し眉を顰めたが、やがてかぶりを振る。
「あはは、ないない。センパイが待ち人?会いたい人?まさか。そんなことないって。あたしはただ…、」
そこで彼女の言葉が止まった。
しばらくしてその口から小さく声が漏れる。
「…ただ…何?」
それは誰かに対しての疑問文っていうよりも、自問に近い口調だった。




