7-13.社会情勢学講義は通常運転
翌日の社会情勢学の授業は、やっぱり混沌としていた。
超高画質・高音質の最新ムービーに映し出されるヒヨコの群れ。
『ワシら農家にとって、ヒヨコは愛玩動物じゃないのじゃよ。だから縁日で売られているカラーヒヨコは邪道なんじゃ。』
そしてよく分からない麦藁帽子のお爺さんが、保育園児にしては背が高い園児服のガキンチョに穏やかな笑顔で語り掛けている。
『じゃあ、ヒヨコはどうして黄色いの?』
すでに声変わりした声でガキンチョが訊ねる。
するとお爺さんは少しだけ悲しい顔をして、空を仰いだ。
今まで青空の下だったのに見上げた空は何故か最新CG技術によって超空間っぽくうねり、夜空に変わった。
その演出の意味が分からない。
そして夜空にエコーがかったお爺さんの声が響いた。
『星に…なったんじゃよ…。』
光に包まれていく画面は、美しいバイオリンが流れるED画面に映っていき、なぜかニセモノっぽい中国人の格闘映画NG集が映し出されていた。
プッ…
映像が消え、電気が点く。
「はい、今日はここまでです。」
そして憬教授が授業終了の言葉を言って、この日の社会情勢学講義は終了した。
◇◇◇
「何だかよく分からないビデオだったね。」
帰り支度をする学生で騒々しい教室内で綾が言った。
「うん。お爺さんと孫(?)の言葉が噛み合ってなかったしね。」
週一が頷く。
「でも凄いCGだったよね。特に花束がお爺さんに変化して、驚く外人さんが肩を叩かれて振り返ったらそこにお爺さんがいて、花束は元の花束に戻ってたところ。」
「まあ、凄かったけど…意味が分からなかったよね。農業と何が関係あるんだろ?」
「…さあ。私にはさっぱり。」
「だよね…。」
溜息を吐き合うと、2人は自分たちも帰り支度を始めた。
帰り支度を終えた週一の頭を何者かが背後からナデナデする。
でもやるヤツは1人しかいないからその正体はバレていた。
「ええと、先生。僕はもう大学生なんですし、頭撫でられても嬉しくないです。」
週一は溜息混じりに言った。
するとにこにこ笑顔の憬教授が彼の前に回り込む。
「ふふっ、お茶目さんですねぇ週一は。綾さんが怒るのも分からなくはないです。」
「先生、私別に何も怒ってませんけど…?」
「僕も別にお茶目じゃないです。」
綾と週一は再び溜息を吐く。
今日の憬教授はご機嫌だってことは分かるが、やはり何を考えているのかは全く分からない。
カオスだ。
「そうでした、週一君にお話があるんです。」
彼女は掌を胸の前に合わせて嬉しそうに言った。
その仕草はまさにうら若き乙女。
27歳とは思えないし、違和感ゼロだ。
「はい?もしかして成績の件ですか…?」
「いえ。でも、とても大事なお話ですよ。」
…成績以外で大事な話。
ウゴクンジャー関係なら綾も含まれるのに自分だけ?
週一の頭脳は一瞬で推理し、答えを導き出した。
「蟹ですね!」
「…?」
さすがの憬教授もその言葉に少し首を傾げた。
でもすぐに笑顔に戻る。
「来て貰えれば分かりますよ。ああ、綾さんはもう帰っていいですよ?この話はちょっと立ち入った話なので。」
「え?でも、週一君だけに話して私に話してくれないなんて不公平ですよ。」
綾が膨れる。
すると憬教授は綾の耳元に口を寄せ、彼女だけに聞こえる声で言った。
「…前回のレポートに関してなんですけど、綾さんもそんなに聞きたいですか?」
そして微笑む。
綾も微笑み、週一に向き直った。
「週一君、私先に帰るね。」




