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下等生物戦隊ウゴクンジャー  作者: 深爪リオ
SECTION7-待ち人、現レズ-
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7-11.1億5千万倍美味しいラーメン

同刻、講義を終えた綾は鞄から引っ張り出したイヤホンを装備し、ご機嫌で帰路についていた。


「あっ、綾さん。今日は研究室に行かないんだ?」


そんな彼女の前に沙紀が現れる。

綾はまだボリュームをそんなに上げていなかったイヤホンを外した。

もし完全にノリノリだったら沙紀を無視してどこかへ去って行っただろう。


「沙紀ちゃん。うん、今日は先生大学に来てないみたいで、部屋が開いてないのよ。」


「そう…。じゃあ八又乃サンも来てないってワケだ。センパイは?」


「ホントなら講義あったんだけど…その講義の教授が、休みが待ちきれないって言って授業を放棄して渡米しちゃったのよ。無許可で自由の女神にロッククライミングするとか叫んでたから…2、3日中にはニュースに映ると思うよ。逮捕されて。」


…どうやら渡米した教授は有名なようだ。

悪い意味で。


「いないんだ。」


「多分。講義ないのに学校に来るタイプじゃないから。」


「…そう。」


沙紀は少し残念そうな顔をする。

でも鈍感な綾は気付かず、笑顔を向ける。


「というわけで、沙紀ちゃんヒマだよね?ヒマだったら今から駅前に行かない?あそこに新しく超有名なラーメン屋ができたんだ♪」


◇◇◇


「…まさかこういう場所だったなんてね。」


嫌な沈黙の流れる店内で、沙紀が小さく呟く。

2人は駅前に新しく出来たというラーメン屋にやって来ていた。

そこは長い行列があり、確かに美味そうだったのだが…。


「おいそこ!スープは麺を2度食ったら飲め!まずは口の中で転がして風味を味わい、次に喉の手前で香りを堪能しろ!」


神経質そうなオヤジが叫ぶ。

そう、ここはガンコオヤジが経営する店だったのだ。

味に相当自信があるのか、やたらデカい態度で食べ方を指図する。


「あ、あの~、水を、」


1人の青年が水を求めた。

するとオヤジは凶悪な顔で彼を睨み付ける。


「水なんぞ飲んだらスープの味が薄くなるだろうが!バカかお前は!お前のような味の分からんヤツはウチで喰う資格はない!出てけ!勘定はいらん!!」


「ひっ!?ひぃぃぃぃ!!」


…青年は逃亡していった。

最悪だ。

まあ、確かにラーメンは美味いのだが。

沙紀は店内にやたらと貼られた食べ方の順序を守りながら、嫌な気分でラーメンを食べる。

どうしてこんな店に。

こういう系の店は苦手なのに…。

そんなコトを思いつつ箸を勧める彼女の隣に座っていた綾が、突然手を挙げた。


「すいませ~ん、水くださ~い。」


沙紀は思わず口に含んだラーメンを吹き出しそうになる。

たった数秒前に水を要求して青年が追い出されたってのに…。


「あぁ?」


案の定、オヤジが綾を睨み付ける。

でも綾の面の皮の前にはそんな小技は通用しなかった。


「水ください。冷たいの1杯。」


「お前、バカか?そこの張り紙が見えねぇのか!?」


怒るオヤジ。

すると綾は逆ギレして立ち上がった。


「バカ?私をバカって言ったわね!?そういうコト言う人がバカなのよ!それにさっきから何よ、偉そうに!緊張しながら食べてたから味なんて全然感じなかったじゃない!代金返してよ!!」


周りの人々がうんうん頷く。

しかしもちろん彼女は代金なんて払ってない。後払いだし。

昔ガンコオヤジの店を紹介する番組を見たことがあるが、ここまで店長に対抗するヤツは初めて見た。


「何だと!?ウチのラーメンは日本一だ!味がしねぇなんて、」


「日本一?どこが!?私はコレよりずっと美味しいラーメンを何度も食べたことあるんだから!例えば友達とおしゃべりしながら食べたカップラーメン、それに家族旅行で旅館に泊まって夜中に屋台で食べたラーメン!楽しい雰囲気で食べたラーメンの方が1億5千万倍美味しいんだから!」


「黙れ!この味オンチ!お前みたいな、」


「出てけって言われる前に出てくよ!こんなへっぽこラーメン屋!」


オヤジに台詞を最後まで言わせず、綾は立ち上がった。

そしてオヤジを睨み付ける。


「あ、代金払わなきゃダメ?さっきの人には払わなくていいって言ってたから私も払わなくていいよね。当然。」


彼女はそう言った後、コロっと表情を笑顔に変え、沙紀の肩を叩いた。


「沙紀ちゃん、お腹減ったからラーメン食べにいこ?向かいのラーメン屋さん、75歳のお婆ちゃんがやってるんだけど、とってもアットホームでしかも安いの。」


そしてさっさと出て行く。

残された沙紀はしばらく呆然としていたが、やがて微笑むと財布から代金を出し、カウンターに置いた。

まだラーメンは半分も食べていないけど立ち上がる。


「ごちそうさま。代金は置いとくよ。」


「え?おい、まだ残って、」


オヤジが言いかけると、沙紀は不敵な笑みを浮かべて言った。


「あたしも急にラーメンが食べたくなってね。もし代金いらないんだったら、寄付でもしといてよ。」


そして彼女は綾に続き、店から出て行く。

呆然とするオヤジ。

すると、さっきまで大人しく食べていた他の客も立ち上がった。


「ふぅ、急に俺もメシが食いたくなってきた。牛丼屋にでも行くかな。」

「私、ファミレスでパスタ食べよ。」

「あ~、わざわざ気ぃ遣って喰ってたのがバカみたいだぜ。コンビニ行くかな。」


どんどん立ち上がる客たち。


「え?あ、おい!ちょっと!!俺の日本一のラーメンを食わせて欲しくないのか!?」


さっきまでの威勢はどこへやら、オヤジが叫んだ。

でも店から出て行く客の足を止めることはできない。

すると、1人の男性客が足を止めて言う。


「俺はラーメンが食いたい。でも、食わせて欲しくはないんだよ。」


オヤジの手から、おたまが転がり落ちた。


◇◇◇


「綾さん。」


綾に追いついた沙紀は彼女を呼び止める。

綾は振り返った。


「何?ラーメンじゃなくてハンバーガーの方がよかった?」


そう言う綾に、沙紀は笑みを向ける。


「やるね、綾さん。ちょっと尊敬したよ。」


「そう?あはは、1回やってみたかったの。それに、」


「それに…?」


綾は得意そうに言った。


「ああやって怒らせれば、代金払わずに食べれるじゃない!」


…セコい。

ちょっと尊敬したっていう台詞を撤回したくなった沙紀だった。

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