7-10.大学生・女子高生?カップル
「あ、テレビ局だ。」
時計屋に向かって通行中の週一は、前方にいる微妙な人数の人だかりを見て呟いた。
近くには富清テレビと書かれたロケバスも停まっている。
何か知らないけれど、ここで取材かなんかをやっているようだ。
「もうだいぶ暑くなってきましたからねぇ…。テレビ局の人も今か今かと待っていたんじゃないでしょうか。」
笑顔でワケの分からんことを言う憬教授。
まあ、この人の脳味噌がカオスなのは周知の事実だから週一は特にコメントしなかった。
「まあ、僕らには関係ないですよ。行きましょう。」
そう言って再び歩き出した時、人だかりが割れた。
そして若い女性レポーターが週一&憬教授を見てニヤリと笑う。
「先生、何だか取材されそうな気がするんですけど。」
「みたいですね。」
自分らに向かって歩いて来るレポーター&カメラを見て2人は呟いた。
「こんにちは!富清テレビです!大学生と…あなたは高校生ですね?今日はデートですか?でも今日は平日だから、高校はサボって彼とデート?だったらテレビになんて映ったらオニと呼ばれる進路指導教諭に呼び出される可能性大ってのと、彼とのツーショットを撮られて親御さんにバレそうっていうので、もう心臓爆発寸前ですね!」
若くてあんまり頭の良くなさそうなレポーターが早口言葉並のスピードで捲し立て、週一と憬教授にマイクを向ける。
ちょっと童顔でアホっぽい週一を大学生と認めてくれたのはいいんだけど、やっぱり憬教授を女子高生と間違えたようだ。
まあ、週一だって彼女のことを前もって知ってなければ27歳の大学教授だなんて分からないんだけど。
「違いますよ。」
憬教授は笑顔で言った。
デートじゃないですって言うと思った週一だが、彼女は別のことを言った。
「進路指導の先生には怒られたことないですよ。」
…そっちかよ。
週一が付け加えてこれはデートじゃないこと、実はコイツは大学教授だってことを言おうとしたが、レポーターの興味はすでにそこになかった。
「はい、大学生・女子高生カップルのお2人には、今から全世界共通の夏の基本、肌年齢測定を受けてもらいます。こっちへ来てくださいね~!」
ずいぶんと勝手なレポーターだ。
週一は遠慮しますって言って逃亡しようとしたが、憬教授はにこにこ笑顔のままついて行ってしまう。
ダメ教授だ。
彼は溜息を吐くと、あんまし気乗りしない足取りで憬教授の後に続いた。
◇◇◇
「う~ん、若いのにかなりしっかりしたお手入れをしているようねぇ。」
多分どっかの美容整形クリニックの人だろう中年のおばさん医師が言った。
無駄に化粧をしているせいで何歳くらいだか全く分からない。
道に設置されたよく分からん機械が並ぶ中、一際妙なディスプレイには肌のアップ写真とデジタル表示で、肌年齢19歳と表示されていた。
「でもちょっと実年齢より上だったでしょ?まあ、なかなかいい感じなんだけど、これから夏本場になると紫外線とかでお肌がえらいことになっちゃうかもねぇ。」
偉そうに言うおばさん医師。
それを聞く憬教授はやっぱりにこにこ微笑んでいる。
と、レポーターが週一にマイクを向けた。
「彼氏さん、どうですか?せっかく可愛い彼女なのに、肌年齢は実際よりも上。怖いと思いませんか?あなたも男の子だからって舐めちゃいけません。男の子だって肌年齢を気にしないと、早いうちから老けて…、」
「ええと、2点ほど突っ込んでいいですか?」
苦笑いしながら週一は言う。
「何でしょう?」
「僕は別に彼氏じゃないです。それと、この人は女子高生じゃないです。」
「じゃあ女子大生?だったら肌年齢はバッチリ実年齢ですね!素晴らしい!」
すると憬教授が笑顔のまま言った。
「女子大生でもないですよ。私、27歳の大学教授です。」
…沈黙が辺りを包んだ。
◇◇◇
「どうしてあのテレビ局の人は逃げていってしまったのでしょうか?」
数分後、再び時計屋に向かう道で憬教授が呟く。
「う~ん、きっと番組が成り立たなくなったんじゃないですか?実年齢より上の肌年齢を測定する、この時期によくやる特集だろうけど…アレじゃ整形外科クリニックの先生の面目丸潰れになっちゃったし…。」
「悪いことをしちゃいましたね。」
そう言う憬教授だけど、全然反省の色はない。
まあ、あのレポーターが勝手に勘違いしたんだから彼女に非はないんだけど。
「それにしても…先生。」
「はい?」
週一は呆れた顔で言った。
「先生って、ホントに27歳なんですか?あの測定結果を見て、何か凄く疑わしく思えてくるんですけど…。サバ読んでません?」
「年上にサバを読む女の人なんていませんよ。週一君は本当に無邪気ですね♪」
相変わらずのにこにこ笑顔で答える憬教授。
何で無邪気なんだ?とか聞きたかったけど、聞いても無駄だと思い、週一は溜息を吐いた。
------------------------------
商店街の外れに、その時計屋はあった。
その名は『時計仕掛けの時計』。
何て言うかアレな店名だ。
でもそこは突っ込むところではない。
問題は内装だった。
憬教授のコレクションが可愛いものに見えてしまうほどの時計の群れ。
壁にはほとんど隙間なく時計が掛けられ、陳列棚にもおぞましい量の時計がある。
何の意味があるのか不明だが、天井と床はそれ自体が巨大な液晶になっており、デジタルで時を刻んでいる。
多分、ここにこの世の全ての時計があるって言われても信じるだろう。
そんな恐ろしい時計の館だった。
「先生、僕もう帰りたいです。このままここにいたら脳が秒針を刻みそうです。」
すっかりへこんでしまった週一が嬉しそうに時計を選ぶ憬教授に言う。
すると彼女はにこにこ微笑みながら1つの時計を差し出した。
「!?」
その途端、彼の顔から死相が消し飛ぶ。
憬教授の掌の上に乗っていたのは、リアルな蟹の腕時計だった。
「甲殻類時計シリーズです。今のところ全2000種類で、そのうち蟹は500種くらいありますよ。見てみますか?」
…週一がもの凄い勢いで頷いたのは言うまでもない。




