7-9.役立たメンズ
翌日。
週一と冥介は商店街をぶらぶら歩いていた。
何で2人が一緒にいるかって理由は簡単で、ちょっと前にバッタリ出会ったってだけだ。
でも両者ともやることがないから、暇潰しにぶらぶらしてる。
「時に蟹、ウゴクンジャークラゲの候補は見付かったのか?」
もう暑いってのに、紺のジャケットを脱ごうとしない冥介。
しかも汗ひとつかいてない。
やはり二枚目キザ男として生まれてきた者には、天生のそういう才能(?)があるのだろうか。
暑いとすぐに半袖になる週一には理解できない領域だ。
「まだです。なかなかいないんですよね…。八又乃さん、誰かいい人います?」
「知り合いに頼めばOKするだろうが…あいつらは仕事上の仲間だからな。この戦いに巻き込むわけにはいかない。」
「ですよね。ダークキャン・Dって弱い怪人が多いけど、カイネとかウェキスみたいに反則レベルなツワモノもいるし…。」
その弱い怪人にも勝てないことが多いのが、今会話してる男×2だ。
はっきり言って役立たメンズ。
こいつらよりも綾1人の方がよっぽど役に立つ。
「困ったものだな。しかし次の仲間は男がいいとは思わないか?女2人に男3人、それこそが戦隊の黄金比だ。」
例の思想を持ち出す冥介。
週一は苦笑した。
「まあ、確かにウゴクンジャーって男性陣の陰が薄いですよね。」
「ああ。俺も数々の敵と戦ってきたが…それでも蝶や甲虫には及ばん。それは俺が本物の強者としか戦わないことにも原因はあるのだがな。」
やっぱり自分の都合のいいように解釈してらっしゃる。
冥介らしいけど。
と、苦笑いしている週一の肩を誰かが叩く。
振り返ると…そこにはにこにこ微笑んでいる憬教授がいた。
「奇遇ですね、冥介君に週一君。」
「先生。」
「チーフ。」
彼女はいつものグレーのスーツ姿ではなく、涼しそうな白いワンピースを着て麦藁帽子を被っていた。
そのせいで、普段はスーツのお陰で何とか大人に見えていたのに、どう見ても10代の少女にしか見えなくなってしまっている。
女子大生ですって言っても、確実に通用するだろう。
いや、女子高生でも違和感はゼロだ。
27歳の大学教授とは絶対に信じてもらえない。
「どうしたんですか?今日、大学は?」
ちなみに週一は講義がない。
そろそろ夏休みってことで、休みが待ちきれないっていう酔狂というか大人気ない教授が授業を放棄して渡米、臨時休講になってしまったのだ。
「私の受け持ちは社会情勢学だけですよ。週一君がここにいるってことは、今日は講義がないってことですよ?」
「でも、別スケジュールの講義は?」
「それは訊かないで下さいね。」
にっこり微笑んで言う憬教授。
…ズル休みしたに違いない。
なんて教授だ。
「まあ、それより2人はどうしたんですか?デートとか?」
「…先生、僕はホモの人じゃないですよ…。」
「俺もノーマルです、チーフ。」
「ふふっ、冗談ですよ。」
否定する週一&冥介に憬教授は微笑んだ。
出会って5分もしてないのに何だか疲れた週一は大きく溜息を吐く。
「僕らはさっき出会って、暇だからウロウロしてたんです。先生は?」
「時計屋さんに行こうと思って。」
…また増やす気らしい。
社会情勢学研究室はこうして徐々に時計によって蝕まれていくのだ。
「そ、そうですか…。」
「はい♪あ、そうです。週一君に冥介君、暇なら一緒に行きませんか?楽しいですよ。」
「…蟹、俺は急用を思い付いた。」
冥介が手をポンと叩いて言う。
思い出したんじゃなく、思い付いたのかよ…。
「じゃあ失礼します、チーフ。買い物は蟹と一緒に行って下さい。」
彼はそう言ってさっさと去って行ってしまった。
まあ、時計フェチな憬教授に付き合って時計屋に行きたくないのは分かるけど…。
「…ああ、そうだ。僕もこれから用事が、」
じゃあ僕も逃亡しよう!って思った週一だったが、憬の言葉に遮られた。
「一緒に来てくれたらお昼ご飯をおごってあげますよ。」
…ヘタレ大学生、蟹令李週一。
昼食タダの誘惑に勝てるほど、精神鍛錬がなっちゃいなかった。
◇◆◇
昼食に目が眩んだ週一が時計屋へ向かっている頃、綾は大学で講義を受けていた。
といっても、人生の80%を真面目に生きていない彼女が真剣に講義を受けているはずはなく、持ち込んだトランプを並べて1人神経衰弱をしている。
携帯電話でメールとかするのが一般の(ダメ)女子大生の姿なんだけど、トランプっていうのが綾らしい。
でも周りの人々もそんな綾には慣れてるようで、別に驚いたりしてなかった。
「ねえ、」
綾は斜め前に座っていたタンクトップ男の細川君(憬教授に携帯テレビを取り上げられた奴)の背中を叩く。
細川君は振り返った。
「何だよ、彩さん。」
「スペードの3をなくしちゃったんだけど、細川君、持ってたら貸してくれない?」
「いや、普通はトランプなんて携帯してないと思うんだけど…。」
「そっか。ゴメン、ありがとね。」
細川君は首を傾げながら再び前を向く。
いきなりスペードの3を貸せとか言われたって無茶な話だ。
そんなもん持って来てるアホは綾くらいしかいないだろうに。
「…まいったなぁ…、神経衰弱やめて、ババ抜きにしよっかな…。」
1人呟く綾。
1人でやるババ抜きほど虚しいものはないって気付いてない。
「それとも…ブラックジャック?」
…そんなこんなで、綾の大学生活の1日が無駄に過ぎていく。




