7-7.鼓動が速い
消えていくドリーム童話の遺体を見下ろしながら、冥介はニヒルに目を細める。
「…所詮は寓話の像。偶像など、真実の前では儚いものだな…。」
ちなみにドリーム童話は身体に大きな穴が2つ開いてる。
ってことはコイツを倒したのは綾と沙紀。
冥介は何もやってない。
でもまあ、そのことを言及するヤツはいなかった。
っていうか、もう他の皆さんは帰ってしまっていて冥介しかいなかった。
「さてと。俺もそろそろ帰るか…。」
彼は長いジャケットをまるでマントのように翻し、去って行った。
◇◇◇
週一と沙紀は帰路についていた。
今は4時半。
日も長くなってきたので、まだまだ明るい。
綾の姿が見えないが、彼女は例のレポート3万字が書けず、再び大学へ戻って仕上げるらしかった。
まあ、無理だろうけど。
ちなみに週一は昨日の夜、気合で戦ったのだが…やっぱり無理だった。
そしてダメもとで1枚だけ提出。
…評価が怖い。
「センパイは…今からどうする?」
沙紀が訊ねる。
週一は少し考えた。
「う~ん、アパートに帰るのも早いけど、どっか遊びに行くには遅いし…夕食までも時間があるなぁ…。本屋でも寄ってこっかな?」
「ふぅん。本屋、か…。マンガか何か?」
「図鑑だよ。超弩級甲殻類図鑑。斎月書店って言う本屋にしか置いてない図鑑なんだ。ホントは欲しいけど、12万円もするから買えない。だからいつも立ち読みってわけ。」
12万円、専門書だ。
一般人が買うものではない。
「…センパイらしいね。あ、そうだ。」
沙紀はそう言うと、バッグから丸めたポスターのようなモノを取り出した。
先日、持ってきていた例のブツだ。
彼女はそれを週一に手渡す。
「何これ?」
「家に転がってたポスター。多分貰い物だと思うけど、貼ることもないしさ。センパイにあげるよ。」
貰い物?確か値札が貼ってあったような…?
でもそんなこと週一は知らない。
何だろうって顔で受け取った。
「…?」
そのポスターを広げてみる週一。
「!!」
彼は目を見開いた。
そしてガタガタ震える。
「こ、これは!!甲殻類絵画の第一人者、トネースキン画伯のワタリガニのポスター!!しかもシャレボー博士のサインまで入ってる!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ポスター一面に、芸術的なのかヘタなのか不明な蟹の絵が描かれている。
そしてその下の方には、筆記体なのかヘタなのか不明なサインが書かれていた。
「多分コピーか何かだと思うけど。」
沙紀が言ったが、週一はブンブンかぶりを振った。
テンションが異常に上がってる。
「ホンモノだったら、2万円以上するんだから…とても貰えないって。でも!」
週一はもの凄く嬉しそうに沙紀の手を握る。
そして――――。
「…っ。」
抱き締めた。
シャイって言うか興味ないって言うか分からないけど、週一がこんな大胆な行動を取るなんて…。
よっぽど嬉しいのだろう。
一方の沙紀はというと、一瞬目を見開いたものの嫌がりもせず…微笑んだ。
「ありがとう歐邑!!トネースキン画伯のポスターってなかなか売ってないんだ!前から欲しい欲しいって思ってたんだけど…最高だよ!!」
そして彼女を離し、ポスターを再び丸める。
慎重にそれを自分の鞄に入れ、彼はうんうん頷く。
「…よし、今日は本屋中止。家に帰って壁に貼って、しばらく眺めてよう。」
笑顔でそう言うと、彼は曲がり角のところまで駆けて行った。
「そういうわけで、一刻も早く僕は帰るね!ありがとう歐邑!お礼は必ずするから!!」
「どういたしまして。じゃあね、センパイ。」
やたらはしゃいでる週一に沙紀は苦笑しながら言った。
週一は手を振り、もの凄い速さで走り去っていく。
よっぽど早く部屋に飾りたいようだった。
◇◇◇
週一の姿が見えなくなった頃、沙紀は大きく息を吐くと、自分の胸に手を当てた。
鼓動が、速い。
しかし驚きとかそういうのとは違う、心地よいビートだった。
そして空を仰ぐ。
「…お礼か。これでもう十分なんだけど…な。」
そう言う彼女の声は、何て言うか…かなり幸せそうだった。




