表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下等生物戦隊ウゴクンジャー  作者: 深爪リオ
SECTION7-待ち人、現レズ-
106/156

7-4.外れた天気予報と色んな関係

翌日、週一は昼間っから隣の駅前商店街を歩いていた。

本当なら講義を受けてる時間だけど、今日は教授の都合で休講になったのだ。

蟹を愛でる以外にやることがない週一は暇を持て余し、こんな場所まで歩いて来ている。


「…天気予報、外れそうだなぁ…。」


確か朝見たニュースでは晴れときどき曇りって言ってた。

でも、空には雨雲っぽいヤツが発生している。

このぶんだと降りそうだ。


「まあ、僕は保険掛けてきたからいいけど。」


週一はたすき掛けしたカッコ悪い鞄から覗く折り畳み傘を見て呟く。

雨が降るのは嫌だけど、雨の日はダークキャン・Dは暴れない。

だから平和だ。

そういう点では雨の日ってのもいいものかもしれない。

と、週一は見たことのある後姿を発見した。

後姿で人を判別するほど洞察眼優れてない彼だが、その後姿は分かる。

だって常時喪服を着ている人物なんて週一の知る限りでは1人しかいないし。

どうやら買い物をしていたようだ。

左手に巨大な買い物袋を下げている。


「あれってやっぱり葦和良さんかな。そっか、ここって歐邑の家から一番近い商店街、」


そこまで呟いた時、ポツポツと雨が降り始めた。

しかも加速度的に雨は強さを増してくる。


「…やっぱり。備えあれば憂いなし、だな。」


傘を差す週一。

そして傘を差す気配のない葦和良を見て呟いた。


「葦和良さん、忘れたんだ。天気予報を信じたから、」


バシャッ!!


言いかけた時、車が派手に水しぶきを飛ばす。

で、週一君びしょ濡れ。

傘を差してるのにそこらを走る傘持ってない人より濡れてしまった。


「…ははっ…、もう傘差してる意味ないや…。」


せっかく傘差したのに。

週一は脱力した声で溜息を吐く。

そんな彼の目には、傘を忘れたらしい葦和良さんの姿が映っていた。


◇◇◇


葦和良は降ってきた雨に目を細める。

予想では夕方頃に雨が降ると思っていたのに。

雨宿りしようにも、この通りは垂直なビルがほとんどで、大きなひさしのある建物は見当たらない。


と、突然自分に降り注ぐ雨が止まった。

雨が止んだわけじゃない。

彼女は振り返った。


「蟹令李様。」

「こんにちは、葦和良さん。」


そこにはアホ系笑顔で微笑む週一がいた。

彼が差した傘で自分は雨から逃れているのだ。


「買い物ですか?」


「はい。今日の夕飯の具材を。蟹令李様は大学ではないのですか?」


「今日は休講になったんです。だから町を歩き回ろうって思って。でも雨が降ってきたんでもう帰ろうと思ってます。」


そこで葦和良は気付いた。

週一は傘をほとんど彼女の上に掲げており、彼自身は雨に打たれている。


「あの、蟹令李様、このままでは蟹令李様が濡れてしまいます。私はいいですから、どうぞ、傘をご自分の方に…。」


「いえ、僕はいいですよ。葦和良さん、コレどうぞ。和服って洗ったりするの大変って聞きますから。僕は電車で帰るんで、傘は必要ないんです。」


傘を差し出す週一。

葦和良は少し困った顔をする。


「ですが…。」


悩んでる葦和良に、週一は笑って言った。


「葦和良さんには車で送ってもらったりしてますから、そのお礼です。それに確かここからあの家まで歩くと結構かかるからその間にびしょ濡れになっちゃいますよ。僕は次の駅で降りてちょっと歩けばいいだけだし。うん、優先順位です。それに、」


「それに…?」


「僕、すでにびしょ濡れです。」

「あ…。」


笑みを零す2人。

雨は激しさを増し、必死のダッシュで雨宿り先を探す通行人の方々は殺気じみていたけど、そこだけは穏やかな空気が流れていた。


◇◇◇


「電車で帰るって言ったのに…お金が足らないなんて。」


雨の中をげっそりした週一が歩いていた。

傘を葦和良さんに貸した後、言った通りに電車で帰ろうと思ったのだが…財布の中の残金は何と22円。

けっこう財布は膨らんでると思ってたんだけど、その内容は1円玉が22枚っていうアウトローな状況だったのだ。

で、徒歩。車のせいで全身びしょ濡れになったから傘は意味ないと思い彼女に貸したんだけど、これなら貸さないほうが良かったかもしれない。

アパートまで歩いてる間に多少は乾いたろうに…。

後悔だ。


「まあ、夏だから風邪はひかないだろうけど。」


溜息が自然に出る。

と、彼の肩を誰かが叩いた。


「…?」


振り返る週一。

そこには同じく雨に濡れた眼鏡の人が立っていた。

そう、眼鏡が素敵な2年F組の山田君だ。脇役のくせに最近よく出てくる。


「こんなところで奇遇だね。蟹令李君も散歩かい?」


「散歩だったけど、雨が降ってきたから帰るところ。山田君は?」


山田君は雨に濡れた眼鏡をハンカチで拭くと、頷いた。


「僕もだよ。どうもレポートが難しくてね、気晴らしに散歩していたんだ。」


「レポート?」


「うん、社会情勢学のレポートだよ。確か…『偽善と善』だったっけ。難しい哲学の問題だよね。」


「社会情勢学とは関係ないっていうのが一番難しい問題だよね。…まあ、いいや。でも僕は聞いてなかったなぁ?いつ出たの?そのレポート。」


宿題なんてないと思ってたのに。

週一は首を傾げる。


「先週だよ。期限は明日まで。まだレポート用紙12枚しか書いてないから大変だよ。」


さらっと恐ろしい事実を言う山田君。

週一の顔がちょっと青褪める。


「…ええと…、それってどれだけ書くの?」


「レポート用紙35枚以上だよ。3万字くらい書けばいいんじゃないかな?」


「さ、さんまんじ…。」


それって卒論レベルじゃん。

そんな恐ろしい宿題を1週間って期限で憬教授は出したのか。

無茶だ。

毎回の授業みたく無茶だ。


「ああ、でも先生が素晴らしいと思う論だったら1枚でもいいそうだよ。」


山田君はそう言ったが、無理な話だ。

35枚以上のを1枚で済ませるレポートって、どれくらい内容が濃いものなのだろうか?

大学生、しかも3流大学の週一君じゃ無理無駄無謀。


「さてと、僕はそろそろ行くよ。蟹令李君も頑張ってね。」


「…え?あ、うん。じゃあ…。」


週一は魂が抜けたような返事で応えた。

今から家に帰って35枚のレポート作成。

まあ、無理もない。

山田君が曲がり角に消えた後、止まっていた週一の時が再び動き出した。


「…諦めって肝心だよね。」


諦めてた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ