7-3.前触れなく現れる四天王たち
「ふぅ、お腹MAX。」
週一は箸を置く。
憬教授の恐怖アジサイ味噌汁のお陰で昼食が2時間以上遅れた彼は、遅めの食事を摂っていた。
場所は駅前のラーメン屋。
別にもの凄く美味いってわけじゃないけど、値段もそこそこだし不味くないっていう、何ともネガティブな理由で続いてる店だ。
確かに美味くはなかったけど腹は膨れた週一が財布を取り出そうとしていると、誰かの手がそれを遮った。
「待て。」
…どっかで聞いた声。
週一は顔を上げる。
綺麗なんだけど威圧的な声。
そこには彼の予想通りの人物…カイネがいた。
「カイネ。」
「こんな不味いものに金を払う必要はない。」
不機嫌そうなカイネ。
少し離れた席にたっぷり食べ残されたどんぶりがある。
コイツもここで食ってたようだ。
なぜだとかはあえて突っ込まないでおくが。
「でも、食べたらお金は払わなきゃ。店から出られないし。」
「チンパンGを呼び寄せればここにいる者たちは逃げるだろう。そうなってから出て行けばいい。」
さすが悪役。
でも理由が食い逃げするためってのが何だかアレだ。
「ダメだって。食べたら払う、美味い不味いはど~でもいいんだ。僕はコレを食べてお腹が膨れた。それでいいんだよ。まあ、もうここで食べることはないけど…今日はそれでいいんだ。」
さすが正義の味方。
でも言ってることは地球平和とかじゃなく、食い逃げは嫌だって言ってるだけなのが何ともアレだ。
「…。」
チンパンGを呼ぼうとしていたカイネは手を止める。
週一はそれを見届けると、店員を呼んだ。
「ええと、僕とこの人のぶんを。」
財布から千円札を取り出しながら、彼はカイネに小声で言った。
「僕が払うから、カイネは損してないよ。だからチンパンG呼ばないでね。」
◇◇◇
店を出た2人は駅前商店街を歩いていた。
「でも…何であんな所にいたんだよ?」
週一が訊ねるとカイネは答えた。
「久々に逢いたいヤツがいてな。始めは暴れてやろうと思ったのだが…。」
指をパチンってやるカイネ。
すると空間が歪み、そこから歯磨き粉のチューブみたいなヤツが顔を覗かせる。
「怪人、マッド歯磨き粉だ。能力は歯磨きビーム。当たったヤツの口の中を歯磨き粉の泡で溢れさせる。…まあ、典型的なD級怪人だな。」
「…うぅ、歯磨きするのはいいんだけど、強制はやだなぁ…。」
週一はげっそりしながら蟹印のバッグを開く。
マッド歯磨き粉はともかく、カイネとも戦うハメになるなんて、地獄。
「安心しろ。それは次の機会にする。目的は果たした。」
カイネは微笑むと再び指をパチンってやって怪人を引っ込ませた。
それに安心したか、週一もバッグを閉じる。
何ともお人よし…っていうかバカなやつだ。
「目的って…その逢いたいヤツってのに逢ったんだ。」
「ああ。満足だ、確認もできたしな。」
「…?」
ハテナマークの週一。
カイネはそんな彼の頭をポンポンと軽く叩き、胸ポケットから例のスイッチを取り出した。
「今日のラーメン代の礼は必ずする。それと、お前はあまり美味いものを知らないようだな。今度礼も兼ねて本当に美味いものを食わせてやる。…では、またな。」
「うん、じゃあね。」
軽く手を振るカイネに週一も合わせて手を振った。
で、消えるカイネ。
彼女が消えた空間を見詰めたまま、週一は小首を傾げて呟いた。
「で、その逢いたいヤツって誰だったんだろ?新たな敵とか?確認??」
脳味噌は蟹味噌って噂のコイツにその謎が解ける確率は…限りなくゼロに近かった。
◇◆◇
歩く暴走機関車と化している綾。
因縁つけてきた高校生3人組を問答無用で叩きのめして歩くこと十数分、彼女は町野中公園をぶらぶらしていた。
どういうわけか今日の町野中公園には人がおらず、綾のイヤホンから漏れる音に眉根を顰める方はいない。
「ふふん♪ふんふん♪」
「おっ、確かお前は…ズン胴のお嬢さん。」
そんな彼女に声が掛かったが、もちろん聞こえちゃいない。
「お~い、聞こえてるか?敵だぞ、宿敵ダークキャン・D。」
彼女の頭上から再び声が響く。
でもやっぱり聞こえない。
ハミングしながらてくてく歩き続ける。
「…ったく。」
その声の主は溜息混じりに呟くと、街灯の上から飛び降りてきた。
そして綾の背後に降りると彼女の肩を叩く。
「ふんふんふ~ん♪ふんふふふ…ん?」
物理的なコンタクトで初めて綾は反応を示したようだ。
ハミングをやめて振り返る。
「よぉ。久し振り。」
「…。」
彼女は胡散臭そうにその人物、ウェキスを見たが…再び歩き始めた。
「ふふん♪ふふふんふん♪」
「おいおい…何て女だ…。」
彼は大きな溜息を吐く。
無理もない。
でもそこは軽薄男のウェキスだ。
懲りもせず彼女の前に回り込む。
「なぁ、敵意見せるとか何か反応してくれよ。一応さ、俺はダークキャン・Dの四天王なんだぜ?」
「…は?何言ってるのか聞こえないよ。もう少し大きな声で。」
だから音楽聞いてちゃ聞こえるわけないって。
「…イヤホン外せよ…。」
ウェキスがジェスチャーを交えて言うと、ようやく気付いた綾が音楽を切った。
「ええと…セクハラ男、じゃなくてウェキスだったっけ?どうしたの?何か用?」
「いや、何か用って…どうだ?せっかく会ったんだし、一戦交えてみるか?」
刀の柄に手をやり、ニヤって笑うウェキスだったが、綾はかぶりを振る。
「今日はパス。戦うんだったら前もって連絡してくれないとダメだよ。」
「…普通は予告なしに始まるもんなんだがな。」
彼は柄から手を離し、呆れたように言う。
やはりウゴクンジャー、危機感ゼロ。
でもそれで戦うのをやめるんだからウェキスもウェキスだ。
「ん?その腕ど~したの?」
ウェキスの右腕を見て綾が訊ねる。
臙脂の和服に似た上着を着ているからあまり目立っては分からないが、彼の右腕がある部分がぺッタンコになってる。
沙紀に切断されたものだ。
「ああ、あの凶暴女子高生に斬り落とされちまってな。まだ再生できねぇんだ。」
「再生するんだ。トカゲの尻尾みたいに?」
「いや…ああいう感じの再生じゃねぇんだ。時期が来たら一気に再生、って感じで。」
「ふぅん、凄いね。さすが宇宙人。でもまあ、腕が生え揃うまでは休憩してた方がいいって。私も今週はレポートとかあるからあんまし戦いたくないし、それがいいよ。」
うんうん1人で勝手に頷く綾。
そして彼女は再びイヤホンを耳に入れた。
「そういうことで、それじゃね。お大事に~。」
軽薄な笑顔でそう言うと、彼女はやはり勝手に歩き始める。
勝手に納得して勝手に別れる。
流石は綾だ。
他人の意見なんぞどこふく風。
進め、ゴーイングマイウェイ!
「ふふんふん♪ふふふんふん♪」
去っていく綾の後姿を見ながら、ウェキスは苦笑すると大きく溜息を吐いた。
「…まあ、何て言うか…大物だな、あいつ。」
◇◆◇
『毎度アル!食器取りに来たヨ。』
インターホンの画面にはヒヨコ柄のラーメンどんぶりを被った少女が映し出されていた。
冥介はロックを外し、玄関に出て行く。
「ああ、ご苦労さま。…しかし寛和蕎麦か。今まで聞いたことのない店だったのだが、当たりだったようだな。今後も利用させてもらおう。」
「美味しかたカ?嬉しいネ、やぱり師匠の腕は一流アル!でもウチは今まで師匠1人でやてたから、出前やてなかたアルヨ。出前はワタシが弟子入りして始めたばかりアルから、まだ知名度低いヨ。できればお友達にも教えてあげて欲しいネ。」
少女は笑顔で言うと、ペコリと頭を下げた。
そして玄関先に置いてあったどんぶり一式を手に取る。
「ああ、知り合いにも勧めよう。」
「どうもネ!またのご利用、お待ちしていますアル!」
少女が去った行った後、冥介は呟いた。
「…今度、あいつらにも教えてやるか。」
やっぱり『あいつら』ってウゴクンジャーの面々だろうか。それとも…。




