6-17.バーチャル雪山で遭難
「そうか。蟹の身内か…。」
あれから10分。
リモコンが破壊されてパニックになったキヨスクは逃亡し、戦闘は終了。
勝利を収めたウゴクンジャー4名+1名は、廃墟を後にしていた。
「はい、鎖雪っていいます。演日高校で2年生兼、シュウの妹やってます。」
いつの間にかセーラー服に着替えた鎖雪が輝く笑顔で答える。
同じような私立の高校生だが、沙紀の制服とはちょっと違う。
こっちのほうが国公立なんかで見るのに近い形状だ。
沙紀のは有名進学校&お嬢様校らしく、デザインも凝ってる。
「なぁんだ、彼女じゃなかったんだ。まあ、週一君に彼女が出来るとは思えないけど。」
綾が何気に酷い事を言った。
週一はちょっと眉を顰めたが、それもそうだって納得する。
ダメだろ…。
「2年生か。鎖雪ちゃんはあたしより1コ下だね。」
昨日の別れ際は何か元気なかった沙紀。
でも今日はやたら機嫌がいいようだ。
「先輩、それって四神の制服ですよね?凄いなぁ。アタシ、の~みそを100倍くらい優秀にしても入れませんよ、あそこ。」
「そんなことないって。それと、あたしは歐邑沙紀。先輩って呼ばれると何かムズ痒いから名前か苗字で呼んでもらえるかな。」
「はい♪歐邑さん、じゃあアタシのことも好きなように読んで下さい。蟹令李でもいいし、呼び捨てでもいいし、シュウみたく呼んでもらってもいいです。でも、蟹女とかは勘弁してくださいね。何だか『恐怖!蟹女』みたいですから。」
…改めてこの女は週一と同じ血を引いていることが分かる。バカだし。
いや、むしろ週一よりもバカかも。
「さゆ、お前そんなゆっくりしてていいのか?演高まで電車で1時間以上かかるんだぞ?急がないと遅刻するんじゃないか?」
兄の言葉に鎖雪は余裕の笑みを浮かべる。
「平気平気。これからちゅう兄のアパートへ行って車で送ってもらうから。」
「ちゅう兄、車持って来てないぞ。」
笑みが消えた。で、叫ぶ。
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!ど、どうしよう!?シュウぅぅぅぅぅっ!!」
「僕は知らないぞ。だから付いて来るなって言ったんだ。」
「うん。そだね。アタシが悪いよね。反省。」
ピタリと落ち着く鎖雪。
そして彼女は残り3名のウゴクンジャーに笑顔を向けた。
「というワケで、今からアタシはダッシュで駅まで行きます。それじゃ、さようなら。」
そう言ってペコリと頭を下げ、彼女は走り去って行った。
少々の沈黙が流れ、綾が口を開く。
「…可愛いけど、変わった妹さんだね。」
お前に言われたら終わりだよって突っ込みは誰も入れなかった。
「可愛いかどうかは別として、うん。ちょっと変わってるよ。性格コロコロ変わるし、何だかよく分からない仕事してるし。」
週一はそう言うと、大きく伸びをした。
「ま、何にせよ今日は勝って良かった。僕らもそう余裕はないことだし、学校行こっか。」
…朝霧はもうとっくに消えており、空には初夏の太陽が輝いていた。
◇◆◇
「じゃからのぉ、ワシは言ってやったんじゃ。『味噌汁は赤味噌じゃ!』とな。じゃが富子さんはミックス味噌を推して引かないのじゃよ。ミックス味噌なぞワインで言ったらロゼじゃ。ロゼより日本酒の方がいいとワシは思う。」
週一が睡眠不足の脳味噌を振り絞って授業聞いてるっていうのに、哲学の澤田教授の雑談は彼の意識を奈落へとジワジワ誘っている。
「眠っちゃダメだ…眠っちゃダメ…眠…が、頑張れ僕…。」
「蟹令李君。大丈夫かい?」
社会情勢学の暴走授業で唯一ノートを取るキトクな学生、眼鏡が素敵な山田君が、バーチャル雪山で遭難しかかっている週一に声を掛けた。
コイツも哲学の講義を履修しているようだ。
社会情勢学といい、近代歴史学といい、一体何を専攻してるんだ?ってな講義ばっかり受けている。
真面目がとりえなんだけど、週一と履修が同じって時点で終わってるような気がしてならない。
「く…挫けそうだ…。」
「あと40分、頑張ろう。ほら、澤田教授の話もそろそろ佳境だよ。」
「話って…昔教授が味噌職人を目指したって話だよね。何回目だろ…?」
山田君はびっしり書き込まれた(そんなに書くことはないハズなのに)ノートをパラパラと捲った。
「12回目だね。」
「…もう、寝るね。僕…。」
そう言うと、週一はゆっくりと目を閉じる。
彼から安らかな寝息が聞こえてくるまでそう時間はかからなかった…。




